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付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話。  作者: 頼瑠 ユウ
二巻目

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第九話:同じものが好きという幸せ


 ショッピングモール内にある書店。


 大規模に展開するチェーン店であり、図書館の様に珍しい専門書からサブカルチャー雑誌まで幅広く扱っている大きな店舗。


 若年層が多く訪れる事もあってか、漫画やライトノベルコーナーは特に力を入れていた。


 その販売戦略に上条悠斗と一ノ瀬綾乃もがっつり釣られている客の一組だった。


 新刊コーナーで綾乃は目ぼしい本を手にしつつ、ライトノベルが並ぶ棚を悠斗と共に眺めていた。


「本屋って、買う気が無くてもついつい見ちゃうのよねー」


「あと家電とかな」


「分かるわー」


 他の客の邪魔にならない程度に気を付けつつ、他愛のない会話を楽しんでいる。


「あ、この表紙の絵師知ってる。綺麗なイラストよね」


 不意に視界に入った一冊を綾乃は手に取った。


 ――自身の左手の薬指に光るリングを見て、「ん、ひゃん」と小さく喘ぐが、悠斗は見ない振りをする。


 新刊では無いが、最近連載が始まったハイファンタジー作品だ。


「あぁ、ソレな。俺も買ってるから気になるなら貸そうか?」


「ホント? やったー」


 綾乃の笑みにつられて悠斗も表情が緩んだ。


「ちなみにコレってどんな話なの? あ、ネタバレは無しで」


「よくある話ではあるんだけど、世界を滅ぼす竜を倒しに、竜殺しの力を宿した主人公が旅をするんだ。ゴブリンとかトロールみたいなモンスターも多いけど、何かとドラゴンに関係するボスとか問題とかが絡んでるんだ」


「王道って奴ね。分かり易いけど期待出来そう」


「あぁ、来年にはアニメ化もするから世間からの人気も高い筈だよ。まぁ、戦闘は割と泥臭いっていうか、グロい描写もあるからどっちかって言うと男向けのラノベだけどな」


「チート無双は見飽きたから、そういうのが良いのよ」


 裏表紙のあらすじを見て、綾乃は本を棚に戻した。


「他にユートのお薦めってある?」


「んー、俺もそう集めてる訳じゃないけど……コレとかコレかな」


 彼は手に取ったのは共に異世界ファンタジーだった。


 細かい設定や物語は違うが、大まかに言うと剣と魔法で主人公達が冒険しながら世界や人々を助ける類。


 そのどちらのあらすじにも『冒険者』『ダンジョン』『聖剣』のワードが含まれていた。


「……なんていうか、アレね。やつぱ、アンタも男の子ね」


「大抵の男子は『聖剣』って響きに弱いんだって」


「単純ね、男子。じゃあ……」


 クスクスと笑う綾乃は、棚を指でなぞる様に探して、一冊を見つけ出す。


「コレは、知ってる? 有名どころの英雄がゴロゴロ出てくるの。私、結構好きだけど」


「円卓のアーサー、竜殺しのジークフリート、ケルトのクー・フーリンとかな。その辺の神話や伝説に無駄に詳しくなったよ」


「自分でも調べちゃったりしてね」


「調べた。円卓の騎士事情って結構、面倒なんだよな……」


「ねー。それに、この作品に出てくる聖杯はろくなものじゃない」


「それな」


 また、二人で笑い合う。


 互いにマイナーな部類のライトノベルについて恋人と語り合えるとは思わなかった。


 悠斗は不思議な気持ちで彼女を見る。


「ん? 何?」


 彼の視線に気付いて綾乃は本を棚に戻して小首を傾げた。


「あぁ、いや……綾乃は恋愛小説以外も結構読むんだなって」


「まぁ、小説を読み始めた頃はソッチからだけど、別にジャンルは拘らないかしら。今日買うのも、恋愛小説の部類だけど、純愛っていうかハイファンタジーの冒険者の話だし」


「じゃぁホラーも?」


「アレは小説じゃないから。ビックリ箱みたいなものだから」


 真顔で言われて、思わず悠斗は吹き出した。


「いや、笑うけど文才のある人の書いたゾンビって本気で怖いからね?」


「うん。そうか。そうだよな、怖いものはしょうがないよな」


「おい、その憐れむ様な優しい笑みを止めろ。そして頭を撫でるなぁ」


 と言いつつ、一しきり彼の好きにさせておいて、


「それじゃ、私はコレで良いけどユートは何か買うの?」


「いや、俺は大丈夫だ。ただ、ちょっとトイレ行ってくるよ」





「――ありがとうございましたー」


 大学生程のアルバイトの気だるげなレジを通り、綾乃は満足気だった。


 元々、デートの合間に少しだけ寄る程度のつもりだったが、彼と共通の話題が増えた事は喜ばしい。


 小学生の頃は漫画ばかりだった筈だが、中学の間に文芸の面白さに目覚めたのだろう。


 ライトノベルには、漫画とはまた違う活字独特の迫力や感動があるのだ。


 ――まぁ、その趣向の移りがお互いに知らない内に起こった、というのは少し寂しいものはある。


 綾乃自身も、小学生の頃よりかは猫が好きになり何かとグッズを集めているし、ゲームも中々にやり込んでいる。


 アクション系、レース系、リズム系のゲームが得意というのは既に見せているが、何気にFPSもやり込んでいるのだ。


 その手のエイムには自信がる――と、言ったら彼は『意外だ』というかもしれない。


 だが、それは同時に綾乃も彼に『意外』と思う事もあるのだろう。


 正直、恋人となってから彼が真っ直ぐに気持ちを伝え続けてくれているのは、意外なのだ。


 いや、幸せなのだが。寧ろ、もっと来いなのだが――あんまり、グイグイ攻められると本当に尊死しそうなので、今位が良いのだろう。


 現に先ほど、安いペアリングを貰っただけで死にかけた訳だし。


 ――ともあれ。


 これから、その『意外』を少しずつ擦り合わせていけば良いのだ。


 彼の趣味を改めて知り、共通の時間を増やしていく。


 左手を見て、恋人とは、夫婦とは、そういうものだと彼女は思う。


「――って、あれ?」


 レジ付近で待っていてくれていると思ったその彼の姿は無かった。


 それなりにレジに並んでいたので、男性がトイレを済ますには十分な時間だった筈。


 大きい方かな? 思いつつ、いや流石にそれでも長過ぎだろうと結論付けて軽い背伸びをしてみる。


「あ、居た居た」


 よく見ると、人の群れの中、見慣れた横顔があった。


「ユート、こっちは済んだわよ」


 彼の隣で声を掛けるが耳に届いていないらしい。


 それなら、物理だ、と綾乃は悠斗の肩をトントンと軽く叩いた。


 人差し指をピンと立たせるのも忘れない。


「ん? あぁ、すまん。立ち読みしてた」


「うん。別に良いんだけど、叩いた逆の方から振り返えられると、不発した私の指が寂しいのよね」


 ……必ずしもお約束が成立するとは限らないと彼女は悟った。


「申し訳ねぇ」


「別に良いんだけどさ。んで、何か良いの見つけたの?」


「いや、そういう訳じゃないよ。何となく目に入ったから覗いてみただけだ」


 悠斗は本を閉じ、元の場所に戻して隣の客の邪魔にならない様に綾乃の背を押す様にその場から離れた。


「さて、時間的にも丁度良い頃だし、昼も兼ねてそろそろ本命に行くか?」


「そうね、今日一番のお楽しみだもの」


 彼に促され、綾乃は自分の心が浮立つのを実感する。


 ただ、喫茶店でパフェを食べるだけだというのに、何でこんなに楽しみなのだろう? と、疑問が浮かぶが、直ぐにユートと一緒だからだ、と答えが出た。


 二人で店を出ようとした時、不意に綾乃は後ろ髪を引かれる様な気がして振り返る。



 ――本を手にしていた時の彼の表情は、真剣だったが、どこか辛そうだった。



 どんな本だったのだろう? と位置のズレるその本に目を凝らす。


『書きたい人の』という一部だけ読み取れた時に、その隙間に別の客が入り見えなくなった。


お読み頂き、ありがとうございます。


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