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付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話。  作者: 頼瑠 ユウ
二巻目

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第六話:祝賀会


 上条悠斗達の通う学校から最寄り駅近くのカラオケ店に、人気web小説家『塩ラーメン』こと塩沢拓海を中心に大勢の生徒が書籍化の祝賀会として集まっていた。


 大人数で利用を想定した店で一番大きなパーティールームのお立ち台に主役の彼が立たされる。


 友人や顔見知り、全くの他人から注目を浴びて喉を鳴らした。


「えー、今日はお忙しい中『塩ラーメン』の為に集まって頂き、ありがとうございます。……ぇーと……」


 何処かで見た事ある事を真似ようとしたが、初めての事で言葉を詰まらせる。


 女子からの「ガンバレー」の声に応える様に、


「『誰よりも君を愛してる』の書籍化を祝って――乾杯!」


 その音頭とグラスの鳴る音、クラッカーの弾ける音で会はスタートした。





 ファンを豪語する女子達に、その代表の様に作者の隣の席を宛がわれた一ノ瀬綾乃は周囲の熱量に気圧され、苦笑で乗り切っていた。


 書籍化の祝賀会、という事で、当然その作者や作品の話題で盛り上がる。


 ユーザー名の『塩ラーメン』の由来は、本人の好物だから――という訳では無いらしい。


 名前を決める際に良い候補が無く、作品投稿を開始するその直前に食べたのが塩ラーメンだったらしい。……ちなみに、一番の好物は蕎麦だとか。


 そして、物語は自身の体験が元になっているとの事。


 彼自身にも小学生時代を共に過ごし想いを寄せていた幼馴染が居た。


 だが、小学校卒業を機に彼女は引っ越し。


 小説とは違い、小学校を卒業してから彼女とはそのまま疎遠になってしまい、今どうしているかも分からないという。


 件の小説は、プロアマ問わず他の作品の影響を強く受けているが『こうだったら良かったのに』と自分の理想が現れているかもしれないと、恥ずかしそうに語っていた。


 他にも、ファンが気になる裏設定や回収していない伏線、今後の展開などの質問を浴びせられている。


「――それで、次の話は……」


 上条悠斗は部屋の隅で、さらりと盛大なネタバレを作者の口から聞いた気がしたが彼と秋元冬樹を含めた愛読者ではない一部の参加者には些細な事だった。


「小説の書籍化ってのは、そんなに凄い事なのかねぇ?」


 不貞腐れた様にフライドポテトを頬張る友に悠斗は苦笑する。


「いや、凄いと思うぞ? そういう話は良く聞くけど、だからって誰でも出来る訳じゃない。ノーベルとのタイアップ企画で大賞をよくやるけど、一次選考を通過するのも一〇パーセント無いのもざらだ。そこから二次に進んで受賞となると本当に一握りだからな」


 肩を竦ませる悠斗に冬樹は興味無さそうに相槌を打つ。


「妙に詳しいのな」


「ん? ……あぁ、綾乃に聞いたんだよ」


 ふーん、と冬樹は、


「にしてもよー。女共はキャーキャー言い過ぎじゃないか? お前も嫁が他の男の所に居て、何も思わないのかよ?」


「言い方な。綾乃にも塩沢にも失礼だぞ」


 悠斗は皿からフライドポテトを摘まみ、


「塩沢は好きな小説の作者。俺は婚約者。握手会に嫉妬する程、病んでないよ」


 口に放り込む。


 もう少し塩が欲しいなーと思いつつ、確かに彼女が自分以外の男に笑みを向けている所を見るのは面白いものでは無いとも思う。


 だが、昨日はなんだかんだと甘えてしまい、受け入れられた。


 自分達は、既にただの幼馴染でも恋人でも無くもっと深い関係だ。


 その程度で拗ねては、それこそ愛する人に申し訳ない。


「夫婦の余裕って? ごちそーさまです」


 コーラを流し込んだ冬樹が一息ついた頃、不意に悠斗のスマホが短く鳴った。


「ん?」


 見てみると、


『さっきからネタバレが酷い。助けて。マジしんどい』


 なんて、綾乃からのメッセージ。


 当の本人は、周囲に合わせて微笑んでいるが胸の内は我慢ならないらしい。


 繕う彼女の苦労に小さく苦笑する。


『なら、コッチ来るか?』


 返信は直ぐに来た。


『無理そう。抜け出したいけど、凄い話しかけられるの』


 しょうがないな、と、


「ごめん、綾乃呼んでくれるか?」


 悠斗は手を上げて呼びかけるが、余りの盛り上がりで彼の声は届かないらしい。


 手を下げて、


『ごめん、無理(・ω<)テヘペロ』


『諦めるのが、早い!』


 返信と共に綾乃に一瞬、キッと睨まれた。


 怒りのスタンプが連続で送信されてくる。


「おう……」


 機嫌を損ねたらしい。


 どうしたものか、と考えて、


『明日、パフェデート行くか?』


 ダメ元でお誘い。


 すると、喜びのスタンプが大量送信されてきた。


「しかし……まさか、水原もアイツのファンだったとは――女は恋愛小説がそんなに好きなのか……?」


 綾乃とのメッセージをしている間に冬樹は塩沢拓海達に視線を向けて眉を顰めていた。


 ぐぬぬ、とどこか悔しそうな表情の友に悠斗はハタと気付いた。


「そういえば、お前。最近、何かと水原と居るな……まさか――なるほど、そういう事か……」


「なん、なんだよ……その目は!」


「いやー別にーなんでもー?」


 ニヤニヤと悠斗は笑う。


 そして、


「応援してやろうか?」


「バッ、バッカじゃねーの!? 水原の事とか別に何とも思ってねーし!」


 冬樹が叫ぶ。


 と、


「私が何だってー?」


 怪訝そうな水原佳織の声がスピーカーから流れた。


「み、水原!? いや、これはその……!」


「どーでも良いけど、今からあやのんが歌うから皆静かにねー」


 慌てる冬樹を他所に佳織は電子目次本を操作する。


 マイクを手に綾乃がお立ち台に立つと、参加者達が沸き立った。


 特に『塩ラーメン』に興味の無かった男子達は此処からが本番だとガッツポーズ。


 アイドルのコンサートの様な盛り上がりだった。


「どーでもて……」


 一人、冬樹が肩を落とす中、リリースされたばかりの女性アーティストのヒット曲の伴奏が流れ出す。



 大好きな少年に想いを寄せる少女の歌。


 素直になれない彼女が自身の気持ちに気付き、もどかしくも彼に告白する初々しい恋の物語(うた)


 少女が愛を伝えるフレーズで悠斗にだけ分かる程度に、一瞬のウィンクを挟んで綾乃は透き通る声で歌い上げた。


「――改めて、書籍化おめでとうございます」


 綾乃のお辞儀に参加者達は歓喜の声。


「やっぱり、あやのんの歌声は最高だね!」


 佳織に続いて、女子達が綾乃を囲む。


「プロ並みじゃん! 動画にしたら絶対、バズるよ!」


「声優にもなれるって!」


「小説がアニメ化したらスズカのCVと主題歌して欲しいなー」


 興奮する彼女達に綾乃は気圧されながらも、


「私がスズカならケンはユートじゃないとですね」


 繕いつつ照れた様に答えた。


「えー、何で上条?」


 不満そうな声に、綾乃は小さく微笑んだ。


「だって、私が心を込めて『大好き』って言えるのは彼だけですから」


 それに、女子の悲鳴の様な黄色い声が上がる。


「そうだったね、二人は――」


 塩沢拓海が気恥ずかしそうに呟くと、綾乃は誇る様に頷いた。


「はい。私達は婚約しています。まだお互いの両親に正式に了承を得ていませんが、近いうちに挨拶が出来ればと思っています――ね?」


 綾乃の視線の先に居る悠斗に注目が集まった。


 彼は怯みながらも席を立つ。


「――あぁ、勿論だ」


 悠斗の断言に、また女子達の黄色い声と男子達の冷やかしが上がった。


 この雰囲気に、冬樹はそそくさと人の間を潜り抜け、お立ち台傍のカラオケ機材から空いているマイクを手に取った。


「あー、それでは『塩ラーメン』先生の祝賀会が落ち着いた所でー、愛する婚約者を守り名誉の負傷を負った上条悠斗の完治と二人の婚約を祝いたいと思いまーす」


 冬樹の宣言に、おぉー! などと口笛や拍手があちらこちらから。


「いや、冬!? 聞いて無い――おぉっ!?」


「まぁまぁ。予定とは違ったけど元々、今日は二人のお祝いするつもりだったんだから、コレはコレという事で!」


 困惑しているといつの間にか悠斗の背に回った佳織が彼を呆ける綾乃の前まで連れて行く。


 半ば強引に悠斗と綾乃はお立ち台に立たされた。


 ラブラブ具合を見せつけて、どうぞ! と、冬樹にマイクを手渡され悠斗は眉にシワを寄せたが、戸惑う綾乃の顔を見ると、何処か可笑しくて小さく笑った。


「言って良いか?」


「ぇ……まぁ、良いけど――」


 彼女の答えに悠斗は皆を見渡した。


「先日は俺達の事で皆にも迷惑をかけて、すみませんでした。これからも色々、悩んだり喧嘩したりあると思いますが――」


 チラリと隣の綾乃の顔を見て、


「俺は、誰よりも彼女の事を愛しています。いつか挙げる結婚式には是非、参加してください」


 礼をする悠斗に倣い綾乃も頭を下げた。


「婚約おめでとー!」


 佳織に続く様に声が重なり、残ったクラッカーを使い切ろうと次々と鳴った。


 更に興の乗った男子の一部が、電子目次を掻っ攫い、結婚式で流れる定番の“森の小さな教会で結婚式を挙げた二人に虫たちがキスをはやしたてる”某名曲を予約する。


 そうして、web小説の書籍化の祝賀会の二次会は上条悠斗と一ノ瀬綾乃の婚約祝いとして一層盛り上がったのだった。

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