表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話。  作者: 頼瑠 ユウ
二巻目

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/59

第四話:1628円(税込み)分の賭け


 六月中旬の今時分、日中は暑く感じるが、陽が落ち始めるとまた少し肌寒い。


 彼等の部屋着も徐々に衣を変え始め、悠斗はタンクトップにワイシャツ、七分丈のズボン。


 綾乃はキャミソールに丈の長いカーディガン、裾にゆとりのある短パンで落ち着いていた。


 学校から帰宅して上条宅で食事をし、それぞれの家で風呂を済ませて綾乃の自室で宿題をし、その後の時間をのんびりと過ごすのがすっかり彼等の日常になっている。


 今日もする事を済ませ、ベッドを背もたれにピッタリと並んで寛いでいた。


 綾乃は悠斗の手の大きさを恋人繋ぎで堪能しながら足先をちょんちょんと戯れさせつつ、


「――それでね、ケンが凄くカッコイイのよ! そしたらね――」


 彼女は興奮気味に彼に主張する。


『塩様』が愛称の人気web小説家『塩ラーメン』の作品『誰よりも君を愛してる』について熱弁が続いていた。


 その物語は、どこかで聞いた様な幼馴染の男女の話だった。


 幼い頃から主人公の少年とヒロインの少女は一緒に過ごしていた。


 だが、小学生の卒業後に少女は引っ越しをしてしまう。しばらくは、手紙のやり取りをしていたが、いつしか疎遠に。


 少年は中学時代をどこか無気力に過ごしていたが高校に進学した時に少女と再会。


 最初はぎこちない二人だったが、徐々に打ち解けていく。


 だが、中学の時に彼女に想いを寄せていた男子が現れて……。


 ――まぁ、結果的に付かず離れずの曖昧な距離感のまま高校生生活を過ごすのだという。


 ちなみに連載開始から三年を経ても彼等はまだ自分達と同い年だとか。


「スズカももっと素直になれば良いのに……」


 綾乃は不満げに呟くが、ハタと気付いた。


「あ、ごめん! こんな話つまんないよね……」


 あはは、と苦笑する彼女に悠斗は優しい笑みを見せた。


「いや、そんな事は無いよ。綾乃の声は凄く綺麗だから、ずっと聞いていられる。それにお前が楽しそうだと俺も嬉しいからさ」


「そう言ってくれるのは嬉しくはあるけども――人の声を“川のせせらぎ”か何かだと思ってない?」


 綾乃は頬に赤みを差して唇を尖らせた。


「綾乃が“俺の匂いが好き”なのと一緒だよ」


「なん゛……!?」


 その一言に頬がより赤く熱を持つ。


 まぁ、昨日もお風呂上りにたっぷりと堪能させて貰ったので、事実なのだが、面と向かって本人から言われると羞恥心が殴って来た。


「なら、いっぱい私の声聞いたんだから、今日も嗅がせなさいよ!」 


 プルプルと震えた綾乃はヤケクソ気味に悠斗に抱きついた。


「おっ……と!」


 吸血鬼が血を吸う様に彼の首元に顔を埋める。


 悠斗は気恥ずかしさと、くすぐったさを感じるが彼女を受け入れた。


「――どう?」


「どう、と言われても――」


 ……勢いでいったものの、コレは自分でもどうかと思い綾乃はゆっくりと身体を離す。


「――ごめん。なんか変態っぽかった。あと、ご馳走さまでした」


「あはは」


 反省気味に呟く彼女の頭を悠斗は許す様に撫でる。


「……ごめんね?」


 しばらく、彼にされるがままにされつつ綾乃はもう一度、謝罪を口にする。


「別に良いよ。俺も綾乃を“女の人”として見ちゃうから、視線が気になる時あるだろ。……やっぱり、どうしてもさ」


 苦笑する彼に、


「まぁ、結構いやらしい視線は感じるけども……私はもうアンタのなんだから、別に好きなだけ見て良いわよ。いや、そっちじゃなくて――」


 自身の頭を撫でる悠斗の手を取ってキュッと握る。


「ホントは明日、アンタの完治祝いと私達の婚約祝いだったでしょ。後回しにしちゃったからさ」


「それこそ、気にするなって。塩沢は凄い事を成し遂げたんだ。ちゃんと祝ってやろうぜ」


 悠斗は肩を竦めた。


「まぁ、確かに楽しみだったけど後に取っておくよ。それに綾乃の歌は明日も聴けるからな」


「なら、アンタの為だけに歌ってあげるからちゃんと聴いててよ?」


「耳掃除は念入りにしておかなきゃな」


 返す彼に綾乃はクスリと笑いを溢す。


「明日は空気を読んで私も皆にテンションを合わせるけど、間違ってもアンタを蔑ろにしてる訳じゃないから変に拗ねないでね」


「なら、その証拠が欲しいな」


 悪戯めいた彼の微笑に、


「欲しがりさんめ」


 同じく悪戯めいて彼女も笑う。


 ――そして、唇を合わせた。


 一瞬の一度で、互いが満足出来る筈が無い。


 何度かの繰り返しと、たどたどしい絡ませ合い。


 初めてでは無いのだが、やはりまだ馴れない。


 この十数秒は、熱い風呂に長々と浸かった様だった。


「ごめん。やっぱ、まだ上手く出来てないよな」


 直ぐ近くで向かい合いながら呟かれた悠斗の言葉に、綾乃は小さくフルフルと首を横に振るう。


「――凄く……凄かった」


「何が?」


「分かってる癖に――スケベ」


 綾乃はムッと彼を睨むが、その優しい笑みに文句が言えなくなる。


 そして、触れられていないのに抱きしめられている様な温もりを感じた。


 今の彼等の関係は、正確には『将来を約束した恋人』。


 親の居ない夜。彼女の部屋で、愛を伝え合うキスをする。


 思春期の男子ならば、そういう期待(・・・・・・)をするだろう、と綾乃も思う。


 異性として求められたり、強引に押し倒されても仕方がないだろう。


 だが、上条悠斗はそうしない。


 照れくさそうに微笑み、大事そうに綾乃の手を握るだけだった。


 その辺りはちゃんと話し合っている。


 少なくとも高校を卒業するまでは『プラトニックラブ』と呼ばれる肉体関係を持たずに精神的に愛し合う関係を選んだ。


 綾乃が一線を越えるのに怖気づいてしまうのもあるが、何よりも彼女を思っての事。


 高校一年生の女子の身体は子を宿す事は出来るが、まだ子供なのだ。


 愛云々の前にどのようなものであれ負担が大き過ぎる。


 例え、避妊をしていたとしてもそれも確実でも無い。


 もしもがあれば、精神的にも肉体的にも彼女の傷になる。


 そして彼にも傷つけたという業を彼に背負わせる事になる。


 本当に互いを愛しているから、今はコレで良いと心から思うのだ。

 

「――ホント。幸せ者ね、私」


 ポツリと呟いた綾乃に、


「俺だってそうだよ」


 悠斗は答える。


「傍に居てくれるだけで十分、幸せだ。綾乃と幼馴染になれたのが俺の一番の幸運だ」


「……そーいうの本気で言うよね」


「だって、嘘じゃないし。これからはちゃんと伝えようと思うからさ。――迷惑か?」


 彼の大きな手が自分の手から離れようとして、綾乃は逃がすまいと握り返す。


「――ねぇ、この短時間で何回胸キュンさせる訳? キュンキュンし過ぎて心臓縮むわ」


「え、何でキレ気味?」


「幸せ過ぎてキレそう」


「綾乃さんの堪忍袋の中身は今、どうなってるのさ?」


「アンタから貰った愛情が多過ぎて、手近な袋に入れてたらもうパンパンなのよ」


 彼女の口から深い溜息が漏れた。


「ケンもアンタと同じ位、気持ちを伝えてくれたらスズカも幸せなのにねー」


「――小説の話か?」


「そう。まぁ、アレは二人が付き合うまでがテーマだから、恋人になったら話が続かないんだけさ。境遇が私達とちょっと似てるから感情移入しちゃうのよね」


 綾乃は肩を竦ませる。


「アンタも読んでみれば? 主人公に共感出来る所、多いと思うわよ」


「……そーだな、参考にしなきゃかな」


「まぁ、参考にするのはキャラの方だけどさぁ~」


 綾乃はへへへ、と緩く笑って、壁掛けの時計を見る。


 二〇時を少し回った程。


 いつもなら流石に自宅に戻る頃合いだが、このまま大好きな彼を帰してしまうのは少し勿体ない。


「もう少しだけ良い? 今日もちょっとやってかない?」


 声を掛けたが、彼は何処かボンヤリとしている様だった。


「ユート?」


「ん? ……あぁ、良いよ。ゲーム機は持ってきたから」


 心配そうな彼女の声に悠斗は我に返り、バックから携帯モードのゲーム機を取り出して電源を入れる。


 最近は、彼の左腕のリハビリも兼ねて、妙に手の動きが忙しい様々なアイテムを用いたアクションレースゲームを遊んでいた。


 いつもの様に通信の準備をし始める悠斗に綾乃は自分をゲーム機を操作しつつ、怪訝そうに、


「……誘っといてアレだけど、無理してない? 今日、久しぶりの体育で疲れてるんじゃない?」


「いや、大丈夫。そこまで体力は落ちてないよ。それに今から寝たら変な時間に目が覚めちゃうって」


 彼は軽く笑うが、綾乃はそれでも心配だった。


「……ホントに?」


「ホントだって。良いからやろうぜ、今日は絶対、勝つかんな」


 悠斗に楽し気に促され、綾乃は気のせいだったか、と思う事にした。


 となれば、彼の強気の発言は聞き捨てならない。


 何を隠そう、綾乃はそのレースゲームを相当にやり込んでいる。


 CPU操作キャラを最高レベルにしても圧勝する腕前だ。


「あ、言ったわね。だったら、賭けしましょうよ」


「あぁ、良いぜ!……缶ジュースで良い?」


「負けた時のリスクを戦う前から下げようとするなっての……」


 眉を顰める綾乃は、スマホを操作し画面を見せる。


「コレ! 近所の喫茶店の新商品、その名も『めっちゃラブリーパフェ』!」


 店のホームページに紹介された、多様なアイスや果物の盛り盛りファンシーなビックサイズだった。


 ハート型の板チョコが、『ラブリー』感を何となく主張している。


「税抜き1480円よ」


「税込みだと1628円。まぁまぁ、高いね」


 眉を顰める悠斗に、同じく綾乃も眉を顰めた。


「そう高いの。あと量ね。一人じゃ絶対に食べられない。でも、食べてみたい」


「複雑な女心な訳か」


「そーなの。んで、アンタが勝った時は――」


 綾乃は対する条件を考えて、


「ハグしてあげる!」


「ぇー。いや、嬉しいけどね。……まぁ、それで手を打とうか」


 彼女と婚約者となってから、ハグ程度のスキンシップは多くとって来た。


 寄り添ってテレビを見ながらだったりお喋りしてたりする時に、特に理由も無く、どちらともなく身を寄せていた。


 まぁ、つい先ほどキスもしているし今更、ただのハグに特別感は無いのだが、悠斗的には1628円以上の価値は十分にある。


「なんか期待されてない様だけど、私、カーディガン脱ぐわよ」


「……え?」


「アンタも上着脱いで」


「マジ?」


「マジ。キャミソールとタンクトップでのハグ。……今までで一番素肌に近い、わよ」


「……」


「ちなみに、今日は薄い生地のスポーツブラ」


「……!」


「いっぱい甘えさせてあげる」


「――よし、乗った!」


お読み頂き、ありがとうございます。


『面白い』『続きが気になる』と思って頂きましたら、ブックマークを、


また励みになりますので、↓の【☆☆☆☆☆】の評価をお気軽にお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] とりあえず、他の方への作者様のコメントを見て安心しました。 [一言] 多分、僕も含めて過剰に反応してしまったからだと思います。四人のお祝いを同調圧力という悪習に邪魔されてしまったからかな。…
[一言] 寝とられフラグにしかみえない・・・ 読むの辛くなってきたな
[一言] なんかここまで幼馴染みNTRものの導入部分みたいで辛いな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ