表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話。  作者: 頼瑠 ユウ
二巻目

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/59

第一話:僅かな傷跡


 陽射しは暖かさから徐々に暑さへ、緩やかに夏になり始めた六月中旬。

 

 上条悠斗かみじょうゆうとの左腕の傷は、少し痕が残るものの後遺症なども無く完治していた。


 だが、『件の一件』は教員生徒含め、学校関係者達の記憶にはまだ新しい。

 

 同じ歳の身近な男子生徒が女子生徒を悪質な手段で脅迫していた上に、傷害事件を起こしたのだ。


 目の当たりにしたクラスメイトの中には精神的苦痛から、しばらく休学を余儀なくされた者も居た。

 

 件の御門光輝みかどこうきは、心神喪失として罪に問われる事は無かったが、学校は退学。


 悠斗に相応な慰謝料を払う事で、手打ちとなった。


 その後は彼の両親は“光輝が罪を犯したのはどちらの責任か”と言い争いになり、そのまま離婚。


 子供達の親権は父が兄。母が光輝となったが、それぞれ別々の街に逃げる様に去って行った。


 そしてその兄も、高校卒業と共に親元を離れるらしい。


 ――と、いうのを悠斗は姉である上条祐奈から聞いた。


 今思えば、自分達の事で色々な人達に迷惑をかけてしまった。



 一歩間違えば、上条悠斗はあの日に命を落としていた。


 クラスメイトにも危険な目に合わせてしまった。


 自分達の親に心配をかけさせてしまった。

 

 何より一ノ瀬綾乃いちのせあやのを悲しませてしまった。


 こうして自分が最愛の人と日常を続けていられるのは運が良かっただけだ、と思う。


 もっと穏便に済ませる事も出来たかもしれないが、終わった今でも、上条悠斗にはその手立ては思い浮かばない。


 “他の誰かなら、もしかしたら”と、妙な無力感を感じるのも左腕の怪我で生活がある程度、制限されていたからだろう。

 

 だが、もう傷は癒えた。


 クラスメイトも全員、教室に揃っている。


 一ノ瀬綾乃の良からぬ噂も完全に消えた。


 心配事は何もない。


 そして、何より彼女が傍で笑っていてくれる。


 それだけで、上条悠斗は幸せなのだ。





 金曜日。四時限目。


 この日は、リレーのバトンの受け渡し練習。


 一通りの練習を、走り込みを含めて行い最後にクラスを男女混合三チームに別けての対抗リレー。


「――良いぞー、そのまま走れ!」


「タイミング合わせろよー!」


「男子に負けるなー!」


 授業開始時は誰もが面倒くさそうに渋々と行っていたが、ある程度スムーズに流れる様になると、妙な結束とやる気が生まれ始めたのだった。


 三チームは、常に接戦。一人が抜けば、次が追い越し、食らい付く。


 陸上競技染みた熱気の中、遂にアンカーが次に控える第九走者。


 上条悠斗は自分の番を校庭のトラックの中で待ち構えていた。


「ぜってー負けねぇ、野球部の意地見せてやる」


「サッカー部舐めんなよ! 毎日走り込んでっかんな」


「いや、体育のリレーで、なんでそんなに闘志剥き出しなのかな君達は?」


 左右をバリバリの運動部に挟まれて、帰宅部の悠斗は肩身が狭かった。


 だが自分のチームは第八走者でリードを広げる。


 どうせならこのまま勝ちたいと思うのは彼もこの空気感の熱に浮かされている様だ。


 第八走者の足の速い女子がバトンを渡す区間に入ると同時に悠斗も走る。


 練習通りに受け取って、


「ユート! 頑張ってー!」


 走り終えた一ノ瀬綾乃の声援に加速する。


 アドバンテージは約二秒。全力疾走では大きな開きがある。


 速力が同じ相手なら十分に逃げ切れる余裕はある。


 だが、


「――っ」


 その相手が、明らかに速い場合は二秒程度は直ぐに埋められる。


 脚の回転が違う。風を切る音が違う。


 彼らが瞬く間に並び、一歩先を行く。


「すまん――!」


 託された二秒を使い切り、二秒のハンデをアンカー秋元冬樹にバトンごと手渡した。


「任せろ!」


 彼は一言と共に受け取り、他のアンカー二人を追いかける。


 歩を重ねる毎に加速し、距離を詰めてごぼう抜き。


「はは……すげーな、アイツ」


 友の劣勢を押し退けての逆転劇を当事者として見て、感嘆する。


 一等でゴールラインを切り、チームメンバーは歓喜を上げ、負けた両チームは天を仰ぎ、互いの健闘を称え合う。


 よく分からないこの瞬間だからこその感動の中、終業のチャイムが鳴った。


 教員の一言で、ゾロゾロと教室に戻る生徒達の中で悠斗はまだ息を切らしていた。


「やばっ……きっつ――」


 堪らず、地べたに腰を下ろした。


 元々、そこまで体力のある方では無かったが、ここ最近の療養生活で完全に身体が鈍ったらしい。


 だからか、はやり気も滅入り、我ながら嫌な思考が過る。


 冬樹は明るく、行動力のある人物だ。

 勉強は程々だが、運動は十分に出来る。

 不思議と周囲を元気にさせてくれる。

 ここぞという事では、決めてくれる。

 

 何より、『件の一件』で自分が助かったのは彼のおかげでもある。


 悠斗一人では御門光輝を止められなかった。彼があの瞬間に駆け出していなかったら、自分はナイフで刺されていただろう。


 秋元冬樹が友人で良かったと、誇らしいと思う。


 だが、だからこそ彼と自分を比べてしまう。


 ――俺もアイツの様だったら、と。


 一ノ瀬綾乃の恋人を、婚約者を誰にも譲るつもりは無い。


 彼女に拒絶をされない限りは一生をかけて寄り添うつもりだ。


 それに資格など必要無い。


 想いが通じ合えてさえいればそれで良いのだ。




 ――それでも、綾乃が自慢出来る、誇れる男でありたい。


 僅かに生まれた無力感が少しだけ、大きくなった。


「――何を考えてるんだか……」


 自分の中だけで完結させる様に、そんな感情を飲み込んだ。


「ユート、お疲れ様。やっぱり治ったばっかりは辛い?」


 色々と自分の情けさなに打ちひしがれていると、綾乃が顔を覗き込んできた。


「……まぁ、うん。ちょっとね」


 空笑いで答えると彼女も苦笑する。


「しょうがないわよ。これから戻していけば良いわ。今日のお弁当はスタミナがつくやつよ」


「それは楽しみだ」


 悠斗は差し出された彼女の手を取って、立ち上がった。


明けましておめでとうございます。


本日から『二巻目』として投稿を再開していきます。

今回は完全に書き切る前での投稿になるので、毎日は難しいと思いますが二巻目も書き切れる様に頑張っていこうと思います。



改めまして、

お読み頂き、ありがとうございます。


『面白い』『続きが気になる』と思って頂きましたら、ブックマークを、



また励みになりますので、↓の【☆☆☆☆☆】の評価をお気軽にお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ