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付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話。  作者: 頼瑠 ユウ
一巻目

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第三十七話:破綻者


 誰かの女子生徒のつんざく悲鳴に、上条悠斗は御門光輝の手に折り畳みの果物ナイフが握られているのを見た。


「――――」


 蹲る彼の兄は手から血を流し、彼自身は血走った目でこちらを睨んでいる。


 そして、


「上ぃ条ぉーーーー!!!!」


 獣の様に吠え、悠斗にナイフを振り上げる。


「っ……!?」


 力任せに振り下ろされる刃を、悠斗は咄嗟に左腕で顔を庇う。


 ブレザーの生地ごと皮膚を切り裂き、熱とも思える痛みが腕の違和感に僅かに遅れて、広がった。


「お前の、お前たちのせいで僕の人生は台無しだ!! 無能は無能らしく、僕に従っていれば良かったんだ!!!!」


「ふざけんな!」


 突き出されるナイフを、腕を掴んで止めた。


 腹部に刃が掠るが、その程度。


「ユート――!」


「下がってろ!!」


 背後で悲鳴に似た声で呼ぶ一ノ瀬綾乃を守る為に、悠斗は光輝の腕を掴んだまま、教室の前方へと押しやった。


 机や椅子を力任せに押し退けて、教卓へと押さえつける。


「っ゛、ぁ!?」


 それでも、光輝はバランスを崩しながらも悠斗の腹に膝蹴りを叩きこむ。


 衝撃と鈍い痛みに息が詰まり、一瞬力が抜けた。


 しまった、と思うと同時にナイフが振るわれ反射的に後ろに倒れる様にして、難を逃れる。


 だが、


「はははは――!」


 それを好機と、彼は悠斗に覆い被さった。


「――!」


 躊躇いなく突き刺そうと落ちてくる刃を、手元に転がっていた誰かの鞄で受け止める。


 何度も、ドスドスと衝撃が鞄越しに伝わる。腕の傷が痛みをより主張する。


 血の気が引いた。彼は本気で自分を殺すつもりだ。


 冗談じゃない。


 こんな奴に、こんな事で殺されて堪るものか。


 自分が死んだら、誰が一番悲しむだろうか。

 自分が死んだら、この男は次に誰を殺すのだろうか。


 ――冗談じゃない。


 彼女の悲痛な叫びを聞いた。


 悲しませないと、決めたのだ。


「おぉおおっ――!!」


 悠斗は吠えて、力の限りナイフの刺さった鞄ごと光輝に押し付け、押し倒す。


 そのまま強引にハンドルを切る様に捻って、ナイフを絡め取る。


「いい加減に、しやがれぇーっ!!」


 そして、右手に有らん限りの力を込めた。


 悠斗の拳が光輝の頬にめり込み、床の上に倒れこんだ。


「ぅ、ぁ……かみぃ、じょぉ……っ!!」


 悠斗は特別、力が強い訳でも無い。少年漫画の主人公の様に決める時に決めれる程の男では無い。


 御門光輝は、よろめきながらも、起き上がった。


 口元に血を滲ませながら、理不尽な怒りを彼に放つ。


「くそっ……」


 悠斗は歯を食いしばるが、左腕の痛みが増して蹲る。


 不味い。


 動けない。


 ――止められない。


「お前は、お前らだけは、許さ、ない……!!」


 光輝が再びナイフを握る前に、



「――しつけぇーんだよ、クソ野郎がぁ!!」


 秋元冬樹が机の上を跳ねながら光輝に飛び掛かった。


「お前ら、見てねぇーで手貸せ!!」


 冬樹の叫びに男子達が一斉に動き、暴れる手足を自分達の体重で拘束する。


「放せぇ、無能共め! 放せ、放せぇ――!!」


 叫び散らす光輝はやがて諦め、静かになった。


「――ユート! ユート!!」


 綾乃が駆け寄り、泣きじゃくる。


「大丈夫だよ、もう終わったから」


 彼女を安心させようと痛みを堪えて笑みを作るが、力を使い果たした様に意識が遠退いていく。


 腕が痛い。血が止まらない。


 それでも、最愛の彼女は無事だった。


 ――それだけで、十分だった。

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