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付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話。  作者: 頼瑠 ユウ
一巻目

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第三十五話:友達たち


 御門宅の最寄りのファミレスに上条悠斗は御門光輝を連れ出した。


 休日の昼時という事もあり、学生や親子連れが和やかに食事をする中、二人の着いたテーブルには、敵意が満ちていた。


「……考え直す気は無いか? いくら何でも異常だ」


 注文したコーヒーが届く前に悠斗が切り出す。


「その問答は意味が無いよ。君達が拒むのなら一緒に堕ちるだけさ」


 ニヤリと光輝は口元を歪ませる。


「だが、彼女が大切なら、そんな事は出来ないだろ? 噂は直ぐに広がり、ネットに流れた写真や情報は消える事は無い。――一ノ瀬綾乃は破滅する」


 拳を握る悠斗を彼は満足そうに見た。


「――そもそも、綾乃に拘る事は無かった筈だ」


「あぁ、確かに上級生には良さそうなのも居たけど、接点が無くてね。まぁ、その辺りに転がっているバカな女を僕好みに飼い馴らすのも考えたけど、ほら面倒だろ? それに――」


 人として持っているであろう道徳性が抜け落ちている笑みだった。


「目の前にSSR(大当たり)の女が居れば、欲しくなるものさ」


「お前……っ」


 分かり易い挑発。


 この場で激昂し、悠斗が光輝を殴ればそれはそれで問題になる。


 拳を振りかぶれば、彼の思う壺。


 悠斗は大きく息を吐いて、力を抜いた。


 光輝はつまらなさそうに鼻で笑う。


「それよりも、こんな所に居て良いのかい? 何にせよ今日が君達が恋人で居られる最後の日だよ」


 悠斗はテーブルの下の手元を一瞥して、どこか安心した様に小さく溜息をついた。


「それもそうだな。今、無性にアイツに会いたくなった。時間の無駄だったよ」


 悠斗は席を立ち、財布から千円を出してテーブルに置く。


「折角だ。コーヒーくらい飲んで行ってくれ」


「あぁ、ありがとう。ご馳走になるよ、小説を読むには丁度良い」


 光輝は勝ち誇った様にほくそ笑み、取り出したスマホをちらつかせながら、


「まぁ、webサイトなんだけどね。『ざまぁ』なんて滑稽だよ。主人公以外が勝手に落ちぶれていくのは読んでいて面白い」


「それは何よりだ。どうせなら自分で書いてみたらどうだ? ネタには困らないだろ」


 悠斗の提案に光輝は、ニヤリと表情を歪める。


「なら、挑戦してみようかな」





「……――って事な訳」


 ファミレスを後にした上条悠斗は、近くの小さな公園で友人である秋元冬樹と合流し、件の動画と合わせて、事のあらましを説明した。


 悠斗のスマホに繋がったイヤホンを外し、冬樹は一度、遠くを見て聞いた話を自分なりに咀嚼する。


「なるほど、把握した。イケメンはギルティ」


「いや、それだと冤罪が横行する」


「ハッ! つまり俺も罪に問われるという事か……っ!」


「冬、写真撮ってやるよ」


「肖像権の侵害は止めて! プライバシー!」


 下らない短いやり取りに悠斗は大分、心が軽くなったのを感じた。


「――っうか、日曜に呼び出して悪いな」


「気にすんなよ、ダチの危機ってんなら駆けつけてやるよ」


 冬樹は笑って見せるが、直ぐに眉を顰めた。


「まぁ、ホイホイ駆けつけてみたものの、俺は何をすれば良いのかしら? カチコミ

? 俺の必殺パンチが火ぃ噴いちゃう?」


「噴かんでいいから、お前が逮捕されんだろーが」


「なら御門んちの玄関先にマニアックでエグいAV大量に置いて来ようぜ」


「悪質だな」


「でも中身全部、ホモモノにすり替えんの」


「悪辣だな!?」


「『光輝ちゃん! アナタ、こんな趣味があったのねっ!(裏声)』」


「『お母さん悲しいわっ!』って?」


「『光輝……お前もなのか――流石、俺の子だ!(野太い声)』」


「オヤジ、その気あんのかよっ」


 本当にくだらなくて、涙が出る程に腹を抱えて笑い合う。


「……ホント、お前がダチで良かったよ」


 悠斗は目じりを拭いながら、


「別に何かして欲しくて、話した訳じゃないんだ。明日は、どうあれ綾乃のイメージが崩れる。だから先に、親友のお前には前もって知っていて欲しかった。出来るなら今まで通り――俺達の……」


「テメー舐めんなコラぁ! 歯食いしばれ!」


 冬樹の弱々の拳が優しく悠斗の頬にプニッ、と触れた。


「よぉ、目ぇ醒めたかよ……っ!」


 まるで夕日の浜辺で殴り合う不良の様なセリフだった。


「今、お昼寝したい気分」


「起きててくんないかな?」


 冬樹は拳を引いて肩を竦ませる。


「まぁ、実際一ノ瀬がキャラ作ってるのは何となく分かってたけどよ。ガキの頃の、あの日から俺も一ノ瀬とはちゃんと話せて無かったけど、あの頃はずっと三人でつるんでたんだ。流石にあの変わりようは気付くっての」


「アイツに悪気は――」


「”周りを騙して人気者になろう”って訳じゃ無かったのは分かってる。どうせ水原も同じだよ、アイツは一ノ瀬に一番懐いてるからな」


 申し訳なさそうな悠斗に、親友はニカッと無邪気にそして誇らしげに笑う。


「そうだと……良いけどな」


「心配なら聞いてみろよ。向こうも今、この話してんだろ?」


 促され、悠斗は少し戸惑いながら最愛の彼女の番号をコールした。





「……――って事なの」


 一ノ瀬綾乃は友人である水原佳織みずはらかおりの自室で、恋人のスマホからコピーした動画と合わせて、事のあらましと、自身がついた嘘を話した。


 可愛いぬいぐるみやイケメンアイドルのポスターなどが飾られている女子らしい賑やかな部屋に沈黙が流れた。


「はぁ……」


 佳織の溜息に、綾乃はビクッと肩を震わせる。


 何を言われるのだろう。彼女との付き合いは中学の頃からだった。


 素の自分は今まで見せた事が無い。これまでの自分の全てが嘘という訳では無く、綾乃は佳織と友人として接してきた事にまで嘘は無い。


 だが、嘘をつかれた側からしてみれば、決して良い気分では無いだろう。


 いつも明るく自分に笑いかける友人に非難されるのは辛いが、一番の友にはせめて自分の口から言いたかった。


 佳織は大きく息を吸い、


「つまり、イケメンはギルティって訳ねっ!」


 妙に確信を得た様な真剣な顔で断言した。


「……ぇ?」


 目を丸くした綾乃に、彼女はいつもの調子で、


「だって、コレただの脅迫じゃん。洒落になんなくない? そりゃー? あやのんがぁー、その……? 『薄い奴』を見てたってのは、驚きではあるけどもぉー。うん……上条とイチャコラしたいだけだったんでしょ? 結婚の約束までした位だし」


「い、イチャコラとか……そんな――」


「此処まで話したんなら正直になっちゃえば?」


「……イチャコラしたかった、です」


「おいおい、可愛いの化身かよ。素のあやのんマジ天使」


 顔を赤くして俯く綾乃に佳織は呟いた。


 そして、力の抜けた笑いを溢す。


「まぁ、嘘ってんなら……私も似た様なもんだし」


 彼女は苦笑しながら、


「私さ、小学生の時は別の県ってのは、話したじゃん? そん時、実はめっちゃ暗かったんだよね。教室の端っこでずっと本読んでるタイプ。そのせいでイジメにもあってた」


 綾乃にはそう語る彼女が意外だった。


「親の都合で中学に上がる時にコッチに引っ越して、私を知ってる人も居なかったから、思い切ってキャラ変えをさ。結構しんどかったけど、中学ん時のままじゃダメかなって」


 照れ臭そうに、それでいて申し訳なさそうに、


「あやのんに初めて会った時、なんとなく分かったんだよね。『あ、この子も無理してるなぁー』って。それなのに、あやのんの周囲には最初から人が一杯でさ、友達になれれば自分も変えられるかもって」


 へへへ、と誤魔化す様に笑った。


「迷惑だよねー、下心ありありでさ。友達って言っときながら、あやのんが上条の事、本気で好きなのも分かんなかったし、お互いに知らない事、多いけど――」


 水原佳織は心から思う。


「あやのんが良いならこれから、ちゃんと友達になりたいな」


「私も、水原さんと友達になりたい」


 目元を拭う綾乃に、佳織は満面の笑みを浮かべた。


「なら、名前で呼んでよー。ファーストネームでプリーズ」


 ウズウズと期待する様な彼女に応える様に、綾乃はほんの少しの勇気を振り絞る。


「――佳織、友達になってくれる?」


「やっべぇー、クソカワ。私があやのんと付き合いたい。寧ろ、寝取りたい」


「友達って言ってんでしょ?」


「セフレでも良い」


「だから、そういうフレンドは求めてなーい!」


 初めて気遣いの無い会話が出来た気がした。


「アンタ、ホントに昔暗かったの?」


「暗かった反動で、今こんなんよ」


 佳織は、でへへ、と緩く笑って、


「所で、あやのん」


「何、佳織?」


「おっぱいが、小さいってマジ?」


 ――ピクリッと頬が引き攣ったのを綾乃は感じた。


『親しき中にも礼儀あり』って言葉を友人に教えてやりたい。


 まぁ……今も胸の偽装(Eカップ)はしているので、彼女の疑問はごもっともなのだが。


「……一応、B位は――ある」


 自身の胸を腕で隠しながらの答えに、佳織はジリジリとにじり寄る。


 舐める様に身体を見られた。


「な、なによ……?」


「あやのんの身長で、微乳――逆にエロい。生で見たい」


「ねぇ、待って? 怖いんだけど……佳織? 本気で言ってるの?」


「大丈夫。私も女だから、恥ずかしくないよ? 私の天然Dカップも見せてあげるから、ね?」


「ね? じゃない! その目マジで怖いから!?」


「へへへー」


「ちょ、ちょっと待って!――おい、待て!? マジで服の中に手を入れるなぁ!」


 佳織の押し倒され、割と貞操の危機を感じていると助け船を出す様に綾乃のスマホが鳴った。





 数秒の電子の呼び出し音の後、


『――も、もしもし……ユート?』


 上条悠斗のスマホから一之瀬綾乃の声がした。


 ただ、その声は妙に疲れている


「……大丈夫か?」


『うん……。まぁ色々あったけど平気。佳織(・・)にもちゃんと話せたから』


「そっか、よかった」


 彼女の一言で、身体中のソワソワとした感覚が消え安心出来た。


 冬樹の顔を見ると「だから言ったろ?」と肩を竦ませる。


『それで……そっちは大丈夫なの?』


「あぁ、コッチも冬樹と話せた。やっぱり、杞憂だったみたいだ」


 ただ、と


「結局、姉さんの方は詳しく話してくれないんだ。昨日は任せろとしか言っていなかったけど、何をしたのか……。ともあれ問題のアイツの兄貴は、なんか――コッチに寝返ったらしい」


『ねがえ……どういうこと?』


「いや、分かんない。けど、心配すんな、ってさ」


『まぁ、あの人が言うなら大丈夫そうね』


 電話越しに綾乃が小さな笑みを溢したのが分かり、悠斗も頬が緩んだ。


「あぁ~、おっほん! イチャつくなら他所でやって貰えませんかねぇ? 独り身には目の毒なんだわ、リア充め」


「いや、別にイチャついてた訳じゃ……」


「ふーん?」


 にやけた顔の友人に背を向けて、スマホを遠ざけて咳払い。


「――悪い。それで、もうしばらく、そっちに居るか?」


 んー、と少し間を置いて、


『ユートが帰るなら、私も帰るわ。なんか……アンタの声聞いたら、会いたくなったし』


 その言葉を嬉しく思いつつ、「友情よりも彼氏を取ったー!」なんて叫びを遠くに聞こえて苦笑する。


「俺も会いたいんだけど、寄る所があるから後で迎えに行くよ」


『寄る所って……何処な訳?』


 怪訝そうな恋人の声は、


「昨日、用意出来なかった物を買いに行こうかと。出来れば早い内に渡したいからさ」


『昨日の……? ――ぁ』


 その答えに、何かを察したらしい。


「寄り道して良い?」


『ぁ、いや……あの――。良いけど、良いけども! 無理とかしなくて良いからね! そういうのは、気持ちっていうか、なんというかさ!』


「ハードルを下げてくれるとありがたいよ。それじゃ、ちょっと行ってくる」


『……うん。待ってる』


 悠斗は通話を切ろうとして、思い止まった。


「綾乃」


『何?』


「好きだよ」


 向こうで咽返ったらしい。


『だからぁ! 不意に挟んで来ないでくれる!?』


「いやー、馴れて貰おうかと思って」


『……冗談で言ってないのが、またね』


「冗談で言える事じゃないからな」


 むー、と不満そうな声を漏らした綾乃はヤケクソ気味に、


『私も好きよ……バカッ!』


 叫んで通話を切った。


 ツーツーと、味気ない電子音にも愛おしさを感じていると、悠斗の背に冷めた視線が突き刺さる。


「……そのどこが『イチャついてない』のかな? 悠斗さん」


「…………」


「視線を逸らすな、リア充共めが。人目を憚れ」


 あはは、と乾いた笑いで誤魔化され冬樹はうんざりしつつも、肩を竦ませた。


「まぁ、何がどうなろうと、俺らはお前らのダチって事だ。全部片付いたら、カラオケでも行こうぜ。俺らだけなら、お前らも気兼ね無いだろ」


「あぁ、そうだな」


 上条悠斗は彼らと友で良かったと、心から思った。


 だからこそ、


「――さて、色々と覚悟を決めるか」

ココまでお読み頂き、ありがとうございます。

あともう少しでこの『一巻目』は完結です。

読者の方が納得いく出来かは分かりませんが、もう少しだけお付き合いして下さると幸いです。


『面白い』『続きが気になる』と思って頂きましたら、ブックマークを、

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[一言] あれ?イケメンくんいつの間にか破滅フラグの外堀埋めらてるじゃん。もはや一人で張り切って正直滑稽じゃない? 可哀想に(真顔)
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