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付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話。  作者: 頼瑠 ユウ
一巻目

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第三十四話:兄と姉


 御門一輝みかどかずきは恵まれている――と思っていた。


 裕福な家庭に生まれ、両親から十分な教育を受け、出来の良い弟と共に周囲からも将来を期待されていた。


 医者である父の影響もあって、彼も医学の道を志していた。


 寄せられる期待が重荷になる事もあったが、努力する理由にもなっていた。


 日々が満ち足りていた。充実していた。


 ――幸せだった。


 だが、それもたった一日で終わった。





 その日は弟と共に、書店へ高校入試の為の参考書を見に行った。


 中学の弟には少し早かったが、情報として触れておくのは良い事だ、と兄は思っていた。


 弟が適当に目を通している間に、適当な参考書を選んだ。


 そのまま帰って、勉強をするものだと思っていた。


 店を出るまでは。


 店を出た直後、万引き防止用のゲートの警報音が鳴った。


 購入した参考書がレジを通す時に不具合があったと思った。


 だが、違った。


 店員に用意された警備員室に連れて行かれた。


 バックの中を調べられた。


 身に覚えの無い、新品の漫画が入っていた。


 万引き、と言われた。


 意味が解らなかった。


 そんな事はしていない。


 でも、その物がバックの中にある。


 誰かが入れたのだろう、と抗議した。


 誰が入れたんだ、と怒鳴られた。


 もっともだと思った。


 だが、自分は万引きなどしていない。


 そもそもバックを手放していない。


 ――そう、途中でトイレに行く時に弟に預かって貰った時以外には。


 弟が、バックに漫画を入れたのだ。

 

「そんな訳無いじゃないか、どうしてそんな事を言うんだ兄さん!」


 ――誰も信じてくれなかった。


 店員も、学校も、友人達も、家族も。


 誰一人、御門一輝を信じてくれなかった。


 今、思えば弟は常に自分の陰に隠れていた。


 テストで良い点を採っても、『あの兄の弟だから』


 何か失敗したら、『あの兄の弟なのに』



『兄はもっと――』

『兄なら――』


 そんな事を言われ続けたら、誰でもこんな歪な笑みを浮かべてしまうのだろうか――。




 

 少しだけ懐かしく、もっとも忌々しい夢を見た。


 パソコン作業の内に、うたた寝していたらしい。


 弟から大量に押し付けられた写真データの中からそれらしい(・・・・・)モノを探して、必要なら加工。


 SNSでは女子高生が援助交際をほのめかす所謂『裏アカ』を作り、フォロワーを増やしていく。


 件の少女の写真や住所などを公開すれば、立派な爆弾となる。


 少女一人の人生を壊すには十分だろう。


 ――我が弟ながら、悪趣味だと思う。


 もっとも、それに加担する自分も、撒き餌のツイートに釣られる性欲旺盛な思春期だか薄汚い中年だかは知らないが、ダイレクトメールを送ってくる連中も同様のクズだと思う。


 だが、コレも後少しの辛抱だ。


 あの書店の一件以来、御門一輝の信頼は家でも外でも地に落ちた。


 父からは高校を卒業したら絶縁するとも言われている。


 ――それで良い。


 世間体だけを気にして結果のみを見て、勝手に期待し、失望した父。


 ただ、なぜどうして、と嘆くだけの母。


 そして、自身が評価される為だけに兄を陥れた弟の居る家など、クソくらえだった。


 学校では友人など居なくなったが、卒業さえ出来ればそれで良い。


 他の誰がどうなろうと、関係ない、興味も無い。


 弟が余計な事を両親に言わない様に、機嫌を取る事が自由への近道だ。


「――はっ」


 何気なく見た窓。その弟が同級生と思われる男子と出かけて行った。



『同世代はバカばかりで困る』と嘆いていても、友達付き合いはするらしい。


“周りの評価”だけで生きている弟の生き方は今の自分から見ても哀れに思えた。


 鼻で小さく嘲笑いながら作業を続ける。


 しばらくすると、


「――一輝かずきくん。私よ、久し振り」


 不意に部屋のドアがノックされた。


 家族以外の、その女性の声には聞き覚えがある。


「――上条、か……?」





「……それじゃ、何かあったら直ぐに呼んでね」


 怪訝そうに、そして、腫れ物を触る様に上条祐奈に告げて、御門一輝の母は一階のリビングへと降りて行った。


 足音が遠ざかるのを確認して、彼女は口元を歪ませる。


「相変わらず、信用されてないねー」


「……何の用だ?」


「元カノが遊びに来たら……いや、無理があるか。一か月も持たなかったし、中学ん時だもんねー。にしても、そっちから告っておいて『勉強に集中したいから』って振ったのは、今でもウケるわ」


 ヘラヘラと笑う祐奈に一輝は眉を顰めた。


「今更、それを責めに来たのか……」


「流石にそんなもん蒸し返さないよ。コッチも真面目過ぎて反りが合わないなーって思ってたし。今日は、別件で脅しに来た(・・・・・)


 表情が鋭くなった彼に、


「良い顔をするようになったじゃーん」


 不敵に笑って、


「アンタの弟がちょっかいかけてるの、ウチの弟とその女なのは知ってるでしょ? 今直ぐ、手を引け」


 そういう事か、と一輝は鼻で笑う。


「……生憎と、アレは俺でも真面とは思えない。お前が俺と会った事が分かれば、何をしだすか――。弟が大事なら、いっその事、姉弟で仲良くしていたらどうだ?」


「……――。それはそれで、ちょっと良いかも? って思った、ゾっと」


 祐奈がスマホを操作した直後、一輝のスマホに着信が届く。


「――」


 怪訝そうに眉を顰めた彼を祐奈は視線で促した。


 メッセージアプリに送信された画像に一輝は絶句する。


 子供と大人の中間程の女性の下着姿。


 姿見に映る自分を撮ったソレは、顔こそ手で隠しているが、知人が見れば誰か分かる程度。


「ひゅ~、我ながらエッロい身体ぁ~。ムラムラしたかにゃ?」


 揶揄う様に言う彼女は、笑ってなどいなかった。


 下着姿とはいえ、自身の裸を晒しているのに、冷ややかな表情。


 そして、『これで、許してください』と一言が続けて送信される。


「――――お前……っ」


 御門一輝は理解した。


 やられた(・・・・)


例えば(・・・)、『元カレに弱みを握られた女子高生が、“恥ずかしい写真”を強要された』ってのは、面白そうじゃない? 証拠? もうスクショしてるのにゃ~」


 もしも、彼女がこのまま母に泣きついたら。


 普通に考えて、脅されている男の部屋に来て、写真を送信して、その場で親に抗議する……というのは、被害者側の行動としては不自然だろうが『御門一輝が上条祐奈を脅している』事を仄めかすだけで、彼の立場を更に悪くするには十二分。


 それが、性的な問題なら周囲に与える悪質性は割増だ。


 元々、首の皮一枚で繋がっている御門一輝の立場に後は無い。


「アンタに拒否権は無いっしょ? 私の弟達から手を引かないなら、親にも学校にも警察にも晒す。お前を社会的に完全に殺す」


 祐奈は口元を歪ませる。


「それに、コレはアンタにとってもチャンスじゃん?」


「なにが、だ……」


 顔色が悪くなった彼に、


「前の万引き騒ぎ。弟にハメられたんでしょ? だったら、やり返しちゃえよ。弟に人生台無しにされたんなら、今度はアンタが台無しにしてやれよ」


 悪魔の様に囁いた。


 今、御門一輝は一ノ瀬綾乃への毒を持っているが、同時に弟への猛毒もある。


 どちらをどこにぶちまけるかで、立場は大きく変わる。


 少しの沈黙。


「――弟の、光輝の暴走を……止める為、だ」


「別にお兄ちゃんの言い分はどーでも良いよ~。あの子達の邪魔さえしなければ、御門家の問題は御門家でご勝手に」


 一輝から大きな溜息が漏れた。


「……何で、お前は、ここまでする? 自分の身体を利用してまで……」


「利用っても、写真だからねぇー。ソレでアンタに抜けない釘刺せるなら安いもんじゃん? まぁ、男子としては抜けちゃうんだろうけど」


 またヘラヘラと笑う彼女に、一輝は敵わないと、肩を落とした。

 

「それに姉ってのはさ、可愛い弟の為なら何でも出来るもんなんだよ」

一部、描写の緩和を行いました。



お読み頂き、ありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 姉にそこまでさせる必要あったのか
[良い点] 姉ちゃんの犠牲なんかしるか!勝手にやっただけだ! 俺はイチャイチャするぞ! [気になる点] 他になんかないんかね [一言] 貞操観念のいかれた世界に迷い込んでしまったのだろうか
[一言] うわぁ~ん!ラブラブじゃない! ドロドロだぁ~!
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