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付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話。  作者: 頼瑠 ユウ
一巻目

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第二十六話:男の事情にお構いなく


「――ねぇ、ユート。アンタの番よ」


 一ノ瀬綾乃の自室で彼女と上条悠斗はオセロで対決の真っ最中。


 既に時刻は八時過ぎ。入浴と食事を済ませ、つい先ほど宿題も終わらせた恋人達は、家族に近い距離感の二人だけの時間を堪能していた。


 途中までは地味に白熱した戦いを繰り広げていたが、終盤になり悠斗の勢いが下がっていき、ついに手が止まってしまった。


「――ユート!」


 何度目かの綾乃の呼びかけに、ようやく彼は我に返った。


「え、何?」


「何じゃなくて、アンタの番」


「あ、あぁ、ごめん……っと――」


 悠斗は磁石製の石を取り、取り合えず打てる箇所を探すが自分の色が圧倒的に少ない事に眉を顰めた。


「コレ、もう詰んでね?」


「うん、完全に詰んでる。でもほら、まだ打てる所はあるから打つだけ打ちなさい。そして絶望すれば良いわ」


 オホホ、とわざとらしく口元に手を当てて綾乃は笑った。


 だが直ぐに、苦笑する。


「……もう一回、って感じじゃないわよね」


「――すまん」


「別に良いんだけどさぁー?」


 綾乃はテーブルに頬杖をついて、浮かない顔の彼氏に小さく溜息をつく。


「……そんなにあの噂(・・・)が気になる?」


「まぁな」


 悠斗の眉間のしわが深くなった。


 今朝、友の秋元冬樹から聞かされた話は、確かに胸糞の悪いものだった。


『一ノ瀬綾乃が中年男性とホテルに入ったのを見た』

『他校の不良グループと関係を持っている』

『複数の男と同時に付き合っている』

『身体にピアスやタトゥーがある』


 ――等々。


 学校でのイメージとも実際の彼女ともかけ離れたものだった。


 冬樹と佳織を含め、噂を知る生徒達は日曜の夕方位に突然、身に覚えの無いアドレスからメールや通話アプリのアカウントからのメッセージが届いたらしい。


 誰かが意図的に広めているのは明らかだった。


 だからこそ、悠斗は苛立ちを覚えているのだが、当の本人は他人事の様な顔をしている。


「……綾乃は嫌じゃないのか? 自分の変な噂が広まって」


 彼女の余裕に尋ねると、小さく肩を竦ませた。


「そりゃ良い気分はしないわよ。けど、クラスの皆も全員じゃないにしろ真に受けてる訳じゃないし、少なくともあの二人は私達を本気で心配してた。そういう人が居るだけで大分、違うわ」


 なにより、と、


「ユートは私の事、信じてくれてるんでしょ?」


「当たり前だ」


 それを聞いた綾乃は満足そうに、笑みを浮かべた。


「なら、私の知らない所で知らない噂が流れてるだけ。そもそも、もう個人でどうにか出来る状況でも無いから、騒いでもしょうがないしね」


 盤に置かれた石を端から剝がしていく彼女を倣い、悠斗も片付け始めた。


「でも、誰が何の為に言い出したのかねぇ? 何考えてるのかさっぱりだ」


「んー、単純に嫉妬じゃない?」


 綾乃は、わざとらしく肩を竦ませる。


「ほら、私って見ての通り美少女でしょ? どっかのモブ系の女子が妬んでるのよ。美しすぎて辛いわー」


「――確かに、そうかもな」


 返された言葉に、ピタリと綾乃の手が止まる。


「いや……ちょっと。そこは、『自分で言うんかい!』ってツッコんでくれなきゃ、私が痛い女になるでしょうが」


「ツッコみ待ちなのは分かってるよ。ただ、言われてみると納得だな、ってさ。――綾乃は本当に綺麗だから」


「ぁ……あぁ、そう? 美人な彼女で良かったわねぇ?」


 急に暑さを感じて服の胸元を摘まんでパタパタと換気する綾乃に、悠斗は自嘲気味に小さく笑う。


「――ホント、今更だけど俺には勿体ない位だよな」


 何気ない一言だったが、綾乃の中で引っ掛かるものがあった。


「ふーん?」


 適当な返事をしつつ綾乃は、折り畳み式の盤に石を仕舞う悠斗の背に回り、


「おりゃ」


 抱き着いた。


「っ、お゛ぉっ!? 何ぃ!?」


 強く密着されて背中に慎ましくも女性らしい柔らかさと温もりを感じて身体が強張った。


「確かにね? 私は、アンタに綺麗とか可愛いって思われたいって、肌とか髪の手入れとか、化粧も頑張って覚えたんだけどさー? 『高嶺の花』に成りたかった訳じゃないのよ。『勿体ない』って言われてると困る」


 彼の狼狽に構わず彼女は、腕の力をギュッと強める。


「だったら、どんな女がアンタに相応しい訳? 肌も髪も、もっとボロボロなのがユートの好み?」


 言われて彼は、はっとする。


「……すまん。単に自分に自信が無いだけだよ」


 綾乃は昔よりも大きく感じる背に額を預けて、


「もう私はアンタの女なのよ。こっちは無性に触れたくなる位に好きなんだから、そんな風に思う事は無いわ」


「うん……ありがとう」


「少なくとも、私は今、幸せよ」


「俺も……幸せだ」


 互いの温もりを感じ合う。


「――なんか、身体熱くなってない?」


「それは……綾乃もだろ」


「だってドキドキしてるし」


 言って、手を彼の胸に滑らせる。


「……ユートも、凄いね」


「そりゃ、だってお前が……」


 昔は、犬猫がじゃれ合う様に肌が触れていたが今では、こんなにも胸が高鳴っている。


「あの……そろそろ、さ」


 振り払うのも惜しいが、このままだと色々と思春期男子として居た堪れない。


 上条悠斗は堪え性のある方だが、限度がある。


 と、


「――する(・・)?」


 思わぬ彼女の吐息交じりの短い問いに息を呑む。


「な、何を……?」


「“祐奈さんには、まだ早い”って言われたこと」


 ――彼女が何を言っているのかは、流石に悠斗も理解出来た。


 何しろ、そうなる事を彼自身が望んでいたのだから。


 だが、いざそうなると二の足を踏む。


 男の自分にとってはただ満たされるだけでも、女の彼女には失うものと負うリスクがあるのだ。


「でも、まだ早くないか……? 結構、痛いって聞くけど」


「やっぱ、痛いかなぁ? 痛いのはなぁ……」


 眉を顰める綾乃は悠斗の背に顔を埋めながら、



「……でも、どっちにしろ初めて(・・・)は、来る――でしょ?」


 悠斗の心臓が大きく跳ねた。


「そういう事……気軽に言うと――俺だって……っ」

 

 身体を離して、緊張しながら向かい合う。


「気軽じゃない……から」


 ポツリと呟いて、オーバーサイズのシャツを脱ぐ。


「――――」


 程よい肉付きの白い肌の上半身。グレーの素朴なスポーツブラ。


 本来の彼女の体形が露わになり、悠斗は息を呑んだ。


 子供の頃はプールや着替えはもとより、一緒にお風呂に入っていた。


 彼女の肌を見る事は確かに、初めてではない。


 だが、成長した彼女は余りにも――美しく、魅力的だった。


「む、無言で凝視されるのは……流石に恥ずかしいんだけど」


 自分を抱くように腕で身体を隠そうとするが、隠せる訳も無い。


 自ら進んでした事だが、羞恥心が彼女を襲い、


「ごめん、けど――凄く、綺麗だ」


 その一言で、頬の赤みが更に増す。


「……見てる、だけで良いの?」


「――良いのか」


「うん、良いよ」


 頬に恐る恐る伸ばされる悠斗の手を綾乃は受け入れる。


「風邪ひいたみたいに熱いな」


「……そりゃ、こんな事してれば熱くなるわよ」


 火照った頬から首筋、肩、腕と滑らせる。


「手つきが、いやらしい……」


「まぁ、いやらしい事してるからな……」


 少しだけの沈黙と戸惑い。


 やがて、


「――嫌じゃないか?」


「嫌なら、こんな事してないってば」


 一度の問答。


 綾乃はおっかなびっくりで自身の腰に触れる悠斗の手を取り、腹部から上へと滑らせる。


「ゎ……、っ――、――」


 悠斗の心臓がまた大きく跳ねた。


 そして、彼の手が伸縮性の生地越しに、張りがあり柔らかく小さくもしっかりと存在感のある膨らみに僅かに触れる。


「息、荒くなってる」


「そりゃ、だって……」


 ゴクリと彼の喉が鳴った。


「綾乃――」


 そして、抱き寄せる。彼女も悠斗の身体に腕を回した。


 互いに一つになる様に、ギュッと抱きしめる。


 痛い位に心臓の鼓動が早くなる。


 宙に浮いている感覚がする。


 その中で、脳裏に自身の姉と母の言葉が過った。彼女の父の信頼がちらついた。


 この場合、推奨される物も手元には無い。


 それでも、愛しの人が身を委ねている。



 ――それだけで、色々な事が些細な様に思えてくる。



 自分の腕の中で彼女が少しだけ身体を強張らせ、震えている事すらも――。



「……ゆーと――」



 二人の唇が触れる――その寸前。



「綾乃、帰ったぞ。……悠斗君が来ているのか?」


  と、部屋のドアをノックされた。


「あ、うん!? もうすぐテストだから、勉強してたの! 今日はカレーだから温めて食べて!」


 ドンッ、と彼を押し退けて、急いでシャツを着ながら綾乃は答える。


「――そうか。だが、もう遅い。程々にしなさい……?」


 物音と声を荒げた娘に怪訝に思いつつも、父は向かいの自室に鞄を置いて下に降りた。


 それをドア越しに気配と音で確認し、綾乃は安堵する。


 ハッ! と彼を見ると身体を丸めていた。


「ぁ、ごめん……! 大丈夫? どっか、ぶった!?」


「だ、大丈夫だ、問題ない」


 悠斗は身体を起こすが、しゃがみ込んだまま俯いて視線を合わせてくれなかった。


「ごめんね。今度は――その、ちゃんと……。それにやっぱ、アレもあった方が良いし……ね?」


「うん。俺の方もごめん……なんか、後先とか、考えられなかったし……その――」


 ぎこちない返事と深い溜め息。


 彼は肩を落とし悄然しょうぜんとしている。


「――怒ってる?」


「そ、そんな事は無いよ。綾乃の気持ちは凄く嬉しい、俺も同じ気持ちだ。――ただほら、脚が痺れて立てないだけだから……お構いなく」


 とは言うものの終いには、プルプルと震えだす。


「……?」


 彼はどうやら、脚よりも下腹部を庇っている様だった。


 より厳密に言うのなら、そのまた少し下辺り。男女の差が明確に表れる部分。


「ユート?」


「ごめん……今、マジでお構いなく」


「ぇ……あ! ――ぁ……ぅ」


 モジモジと恥ずかしそうな悠斗の横顔に、綾乃は彼の事情を諸々と察して、同じく赤面する。


 彼は元気を無くしているが、とある一部だけは違うらしい。


「ど、どうしよう。私、どうすれば良い……?」


「いや、ホント。お構いなくで大丈夫です。クールダウンすれば、落ち着くから」


「……男の子も、大変なんだね」


「――大変なんですよ」


 悠斗は綾乃の戸惑いながらも心配する視線が居た堪れなく、背を向けた。


「良いから、おじさんの所行ってて。俺も直ぐ、帰るから……。あと、シャツ前後が逆だぞ」


「うん。わかった……」


 綾乃は立ち上がり、シャツを着直して部屋のドアを開ける。


 チラリと振り返ると悠斗は、気を紛らわせる為か深く呼吸を繰り返していた。


「…………」


 綾乃は、異性に対して殆ど知識が無い。友人や彼の姉、ネットで聞きかじった程度だが、

そういうもの(・・・・・・)は、ストレスと同じだと思う。


 多少なりとも我慢するものだが、我慢し過ぎても精神衛生上よろしくない。


 程度に発散した方が良いと思うのだ。……責任は自分にある事だし。


 だから、彼女は愛する彼の為に意を決した。


「ティッシュとゴミ箱なら、化粧台にあるから……!」


 言い残して、綾乃は階段を駆け下りていく。


「…………ん?」


 慌ただしい足音を聞きつつ、悠斗は一人になった部屋で眉を顰めて、彼女の言葉を咀嚼する。


 そして、意図を汲み取った。





「――いや、ホント、お構いなく」


 スッ、と何かが引いていくのを彼は感じた。


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[一言] ワラタw 確かに彼女からそんな事言われたら一瞬で冷えるわ
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