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付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話。  作者: 頼瑠 ユウ
一巻目

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第二〇話:初デートの記念


 ショッピングモールにある独特なテーマソングとペンギンがモチーフのマスコットキャラクターが有名なディスカウントストア。


 良く言えば多種多様、多国的、異文化的。悪く言えば、雑多で落ち着きの無い商品の無法地帯。


 デートとしては味気ないが、そんな店内を当てもなく見て回るだけで、先ほどあったひと悶着も“些細な事”と思える程に、上条悠斗と一ノ瀬綾乃は楽しかった。


 そのぬいぐるみコーナーで、綾乃は悠斗を伴ってはしゃいでいる。


「見てコレ、可愛くない?」


 彼女が子供を“高い高い”する様に持ち上げるソレを見て悠斗は、渋い顔をする。


 大雑把に言えば、『猫のぬいぐるみ』だった。


 ただ、リアル風なアニマルチックな物でも、完全にファンシーな類でも無い。


 五、六才児の子供の様な人型のぬいぐるみにアニメ風にデフォルメされた猫の頭の可愛い様で不気味でもある絶妙にシュールな一品だ。


 しかし、愛する彼女が気に入っているのなら無下にも出来ない。


「あ、あぁ――うん。なんつーか、独特なニャン子マンだな」


 その値札を見て表情を引き攣らせる。


 ――6980円(税抜き)


「こ、これが良いのか二ャ?」


 乾いた笑みの彼氏に綾乃は苦笑する。


「“何でも一つ買ってくれる”、っていっても流石に、このサイズは私も困るわ。もう少し、小さくてお安かったら、即決だったけど」


 即決なの? と目を丸くする悠斗をよそに、綾乃は特大ぬいぐるみを棚に戻してざっと見渡した。


「あ、この子は良い感じね」


 手を伸ばしたのは、“五〇〇ミリリットル”サイズのお座りをした黒猫のぬいぐるみ。


 綾乃はそれを本物の猫の様に大事に抱えた。


「猫好き……になったんだな」


「え?」


 呟かれた悠斗の言葉に顔を上げる。


 彼は少し気まずそうに、


「いや、綾乃が使ってるスマホケースも猫柄だろ。昔は、そこまでじゃ無かった――と、思ってたからさ」


「あぁ……。うん、そうね。確かにここ最近で猫派になったかも。猫ってさ、結構、優しいのよね」


 綾乃は腕の中の黒猫の頭を撫でながら、どこか遠くを見ている様だった。


「猫ってなんか、気まぐれのイメージだけどな。そこが良い所だとは思うけど」


「慰めてくれる優しい子だって居るのよ?」


 小さく綾乃は笑った。


「中学生の時ね。どうしても寂しい時によく遊んでた近所の公園に良く行ってたのよ。ベンチに座ってただボーとしてたら、黒猫が寄って来た事があったの。特に餌になる物も無かったのに脚にすり寄って来てね、可愛かったのよー」


 どこか寂しそうに、


「それから、辛いなーって時とか勇気が欲しいなーって時には公園に行って、その子を探してた。撫でてるだけで元気になったし、『にゃあにゃあ』って声を聞くと勇気が出た。まぁ、野良猫だし、公園に居ついてる訳じゃなさそうだったから、いつも居た訳じゃないんだけど……」


 悠斗の顔を見て、苦笑する。


「丁度ね。アンタに告白された日の朝、公園の前で久し振りにその子に会えたの。良い事がありそうだなーって思ってたらさ――ね?」


 その頬は少し赤くなっていた。


「呼び出しに応えられたのも、その子に勇気を貰えたからかも」


 それでも照れくさそうに、小さく笑う。


「……そっか。なら、その子に感謝しないとな」


「え?」


 呆けた綾乃に悠斗も苦笑した。


「だって、今まで綾乃を元気づけてくれてたんだろ。それにあの日も綾乃の背を押してくれたんだ。おかげで、俺は想いを伝えられて、今一緒に居られる。その黒猫は俺にとっても恩人だ」


「そうね……そうかも」


 綾乃はくすりと笑うと、悠斗は彼女の腕の中の黒猫の頭を撫でた。





「……うっわっ――顔、赤っ」


 某ディスカウントストアの近くにある女子トイレの洗面台の鏡に映る自分の顔を見て、一ノ瀬綾乃は溜息をついた。


 だが、それも仕方が無いと思う。


 悠斗に黒猫のぬいぐるみを買って貰う事になり、レジを待つ間に少々お花を摘みに来たのだが、一息ついた所で実感が湧いてくる。


 ――私は今、大好きな人とデートしているぞ、と。


 子供の頃の“僅かなお小遣いを握り、彼と手を繋いで近所のスーパーでお菓子を買い、公園で食べた”のとは訳が違う。――まぁ、あれはあれで、良い思い出なのだが――。


 学生とはいえ、お互いを異性として意識している恋人なのだ。


 中学生の三年間、焦がれたこの状況は夢の様だが、


「でも、夢じゃなーい」


 へへへ、とだらしのない笑みがこぼれたが鏡の自分を見て、表情を引き締める。


 その頃、別の客が入って来たので綾乃は急いでトイレから飛び出した。


 やれやれ、とため息をついて人の隙間を縫って、彼の元へ戻ろうと再び入店する。


 ……と、


「――ぉ?」


 最初の入店時にはスルーしたが、入り口にあるアクセサリーコーナーが目についた。


 綾乃は特に宝石などの装飾品に興味は無い。


 無意味に着飾るのならその分を生活費に充てたい女子高生なのだが、ショーケースにずらりと並ぶ指輪には、心惹かれるものがある。


 シンプルなリングにそれぞれ小石程の宝石で、素朴な造りなのは好感が持てた。


「へぇー、意外と……」


 まじまじと見てみると一口に宝石と言っても色々な色があり、面白いかもしれない。


 だが値札を見ると一律一万円で眉を顰めた。


 春の新生活フェアと銘打ち、格安での販売との事だがその諭吉が一枚あればどの位の食材が買えるだろうか。


 そう思う辺り、やっぱり自分には合わないな、とその場を後にしようとしたが、ケースに貼られた表が目に入る。


「『石言葉』。花言葉みたいな奴ね」

 

 ガーネットは情熱。


 オパールは純粋無垢。


 ダイヤモンドは永遠の絆。


 ――等々。


「――――ぁ」


 そして、鮮やかな緑色のペリドットが持つ意味は――


「――綾乃?」


「ひゃっ!?」


 思いの外、表に見入っていたらしい。


 かけられた声に振り返ると、黒猫のぬいぐるみを抱えた上条悠斗が居た。


「指輪か。宝石は小さいけど、綺麗だよな」


 ぬいぐるみを受け取ると彼もショーケースを覗き込む。


「何か気に入ったのがあったのか?」


「え? まぁ、応ね。ただ、お値段の方が……」


 チラリとソレを一瞥して、悪戯気味に笑みを浮かべながらコンコンとケースを小突き、値札に視線を向けさせる。


「――ゎぉぅ」


「なに? 買ってくれるの? ユート大好き!」


 わざとらしく甘える綾乃に、彼は表情を引き攣らせつつ、


「ま、まぁー、ギリギリ予算内ではある……。――今日はようやくできた初デートだから、記念って事で」


 自分に言い聞かせる様に言う彼に、綾乃は自嘲気味に小さく笑う。


「ごめん、嘘。物ばっかりねだる女じゃないわよ、私。記念ならこの子で十分!」


 ぬいぐるみを抱きしめて、


「ほら、次行くわよ次! デートはまだまだ終わんないんだから」

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