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付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話。  作者: 頼瑠 ユウ
一巻目

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第十九話:イケメン玉砕


「どうしよう――綾乃、ガチで可愛い」


 少し遅めの昼食として、フードコートでラーメンとタコ焼きの炭水化物高カロリータッグのセットを一足先に食べ終わった上条悠斗は、髪を耳に掛けてラーメンの最後の一口を啜る一ノ瀬綾乃を眺めてしみじみ呟いた。


 小さく「ブフォッ」と綾乃が咽たのに、


「落ち着いて食べないと、喉に詰まらせるぞ?」


 他人事の様に言う彼氏を彼女は睨んだ。


「……そういうの、真顔で言うのやめてくれない?」


「でも、落ち着いて食べないと咽るだろ」


「そっちじゃないわよ」


 綾乃は差し出された紙フキンで口を拭きつつ、残ったタコ焼きを割り箸で摘まんで、悠斗の口元に持っていく。


 頬張り、もしゃもしゃと咀嚼しながら、


「いや……SNSで『尊くて死ぬ』と良く見るが、本当に死因に成り得ると教訓になったよ」


「ねぇ。その場合、私は殺人罪に問われる訳?」


「過失致死傷罪」


「彼氏の好みに頑張って合わせたのが過失になるとか、理不尽極まりないわね」


「彼女になってくれた幼馴染が可愛すぎる税」


「租税の種類増えた件について。ってか、それだとアンタが払う税よね」


「――ちゃんと収めるぅ……」


「彼氏になってくれた幼馴染の義務ぅ……」


 二人で笑いを堪えた。


 内容の無い薄い会話だ。


 それが、どうしようもなく心を躍らせる。


「おりゃ」


 綾乃の脚が悠斗の脚を挟む。


「何すんの」


「んー? テーブルの下で脚を絡めるのって、ちょっと憧れがあったの」


 ドキドキする。


「映画でもあったやつぅ~」


「それぇ~」


 ――楽しかった。


「いや、待って。強い。挟むの強い、痛い痛い痛い」


「このまま折ってあげようか? おりゃぁー」


「こら待て、彼氏の脚折る女がどこに居る」


「前例を、今……作って、あげるっ」


「ねぇ、綾乃? 本気で痛いっ!?」


「この後、雑貨屋見に行こぉー?」


「折れた脚で連れまわす気かっ!?」


「その前にアイスクリーム食べて良い?」


「良いけど、折る気満々だなぁ!?」


 ――幸せを感じている。


 今まで近くにあった筈なのに味わえなかった時間を、幸福を噛みしめる。


 これからはもっと、飽きることの無い時間を飽きるほど一緒に過ごす。


「――一ノ瀬さん?」


 だが、この幸せな瞬間に些細な邪魔が入った。


「あぁ、やっぱり一ノ瀬さんだ。普段とイメージが大分違ったから、遠目では分からなかったよ。プライベートではこういう服装なんだね。――でも、とても似合っているよ」


 一年A組の御門光輝みかどこうきが、悠斗と綾乃の席に近づいて爽やかに声を掛けた。


 彼は、同学年の中でも才色兼備で有名な少年だ。アイドルと言われても誰もが納得出来るルックス。事実、スカウトをされた事もあると話題になった事もある。


 女子ならば、黄色い声を上げて頬を赤らめる所だが、


「――ぁ゛?」


 彼氏とデート中の一ノ瀬綾乃は、低い声を僅かに漏らした。


 だが、その悠斗にツンと足先で突かれて、天使の様な仮面をつける。


「こんにちは、御門君もお食事ですか?」


「いや、僕はたまたま通りかかっただけさ。君が見えてね」


 ――なんだコイツ、キモイんだけど。


 なんてアイコンタクトを受けて悠斗は、まぁまぁ、と苦笑い。


 そんな恋人だから通じる意思疎通に気付かずに、御門光輝は、悠斗を一瞥して眉を顰めた。


「君はたしか、彼女の幼馴染の――上条、だったかな」


「あぁ、こうして顔を合わせるのは初めてだな」


 あくまで、同級生との世間話として応じる悠斗だが、光輝は眉間にしわを寄せる。


「二人は、まさか……」


「えぇ、真剣に(・・・)お付き合いさせて貰っています」


 答えたのは綾乃だった。


 光輝の整った顔立ちに影が落ちる。


「それじゃあ、あの噂は本当だったんだね――」


 チラリと見つめ合う悠斗と綾乃に、光輝は拳を握る。


「――なぜ?」


「なぜ、とは何がです?」


 足先でコツコツと悠斗の靴にちょっかいを出しながら、綾乃は『早くどっか行かないかなぁー、アイスクリーム半分こしたいんだけどなぁー』と思っていると、


「貴女は、優秀な人だ、美しい人だ。貴女の隣に居る人は相応な人間じゃないといけない筈だ」


 イケメンの同級生は、さえずる。


「だが上条。君はそんな人間じゃない。成績も容姿も並みだ。彼女に相応しいと言えるような秀でたものが一つでもあるのか? ただの幼馴染というだけで、お情けで恋人になっただけだろう!」


 彼は嫌悪感を剥き出しにして悠斗を睨む。


「っ……!?」


 悠斗は息を呑んだ。



 ――綾乃が天使の様な笑顔のまま、飲もうと手に取ったプラスチック製のコップがミシリッと小さく音を立てる。



「……私と彼が恋人では何か問題があるのでしょうか?」


「大ありさ!」


 剥がれかけの仮面で、クスッと困った様な笑みを見せると、食い気味に食いつかれた。


「他に好きな男が居ると聞いた時は、僕よりも優秀な人間(・・・・・・・・・)だと思ったから諦めようと思った(・・・・・・・・)。けど、コレなら(・・・・)話は別だ」


 御門光輝は椅子に座った綾乃の前に膝をつく。


 例えば、“結婚式で新婦を誓いのキスの寸前でさらう別の男”の様に。


貴女こそ(・・・・)、僕の恋人に相応しい(・・・・)僕の隣に立つ事が出来(・・・・・・・・・・)るのは(・・・)貴女だけだ(・・・・・)


 例えば、騎士が姫へ永遠を誓う様に。


「だから明日はどうか、僕とデートをして下さい。きっと今日よりも、そして誰よりも良い一日にしてみせます! 僕の方が貴女には価値がある(・・・・・・・・・)と分からせてみせますから!」




 

 ――え、死ねよ。


 自分が率直に、そして割と本気でそう思うとは、綾乃自身も意外だった。


 そのくせフラストレーションはピークを越えたせいか、逆に冷静になっている。


「お断りします。私にはお付き合いしている大切な人が居るので、他の人とデートする事は出来ません、したいとも思いません。なので、私は上条君――いえ」


 綾乃は、席を立って、


ユート(・・・)とデートを続けますので、これで失礼します。あと、今後は学校でも不必要に声を掛けないで下さいね」


 笑顔で言い捨てて、悠斗を手招いた。


「あ、ちょっと待って下さい! 僕の話はまだ――」


 綾乃に伸ばされた光輝の手を、


「――もう終わってるだろ」


 悠斗が払う。


「君にその権利(・・・・)があるのかい?」


「……」


 御門光輝の嘲る様な視線を受ける。


 明らかに、人間として下に見られている。


 事実、スクールカーストで言えば御門光輝や一ノ瀬綾乃は上位者、上条悠斗は下位者だ。


 ――だから、なんだというのだろう。


あるに決まっている(・・・・・・・・・)だろ(・・)


 呆れた様な溜息を溢した。


「お前は入学試験でもトップだったらしいな」


「あぁ、自慢では無いけどね」


 思いっ切りしてんじゃねぇーか、というのは飲み込んで、


「だが、テストの点数が良くても、人の心までは解けないみたいだな」


「なんだと……どういう意味だ!」


 ――その心は? なんて、綾乃の視線を感じながらも、


「さっきから、相応しいだなんだ、と言っているが、お前の様な奴程、綾乃の恋人に相応しくない」


「僕よりもお前の方が優秀(・・)だとでも、価値(・・)があるとでも言いたいのか? 彼女の価値に釣り合う(・・・・・・・・・・)とでも言うのか!?」


それだよ(・・・・)バカ野郎(優等生)


 悠斗は綾乃を庇う様に割って入り、


「優秀で価値があるから自分に相応しい? ふざけるなよ、綾乃はお前を引き立てるお飾りじゃない。そんなに目立ちたいなら、王冠でも被っておけ」


 彼女の手を取る。


「分からないようだから、はっきり言っておく――俺の女に手を出すな(・・・・・・・・・)





 上条悠斗は一ノ瀬綾乃を連れて、足早にフードコートを離れた。


 自身が苛立っている、と綾乃の手を引き、あても無くモールの中の人込みを避けながら自覚する。


 一秒でも早く彼女をあの場から連れ出したかった。


 優秀である事に価値があるという男の前から。


 愛を囁いておきながら、一言も『愛している』と言っていない男の前から。


 自分の愛している人を連れ出したかったのだ。


「――ユートぉ……」


 不意に綾乃のか細い声と、手を引く腕に重みを感じた。


「あ……すまん、強く引っ張り過ぎだ」


 我に返り、振り返ると彼女は熱に浮かされた様に、顔を赤くし肩を揺らしていた。


「――ごめ……ちょ、待って……」


 息苦しさに胸を押さえて、その場でしゃがみ込む。


「綾乃?……綾乃!?」


 悠斗は一瞬呆けて、血の気が引いた。


 強引に手を引いていたが、別に走っていた訳では無い。


 だが、明らかに苦しんでいる。


 風邪気味だったのが悪化したのだろうか。


 彼女は何か持病を持っている訳では無い――筈だが、この三年間はまともな関わりが無かった。知らぬうちに、何かがあったかもしれない。


 ――自分が彼女に無理をさせていたと思うと、眩暈がした。


「大丈夫か?」


 近くの休憩用のベンチに座らせて、顔色を見ようと覗くが背けられた。


「――きゅ、救急車を……」


 ポツリと呟かれて、悠斗はスマホをポケットから取り出し電源を入れる。


「っ――!」


 数秒で済むパスワードのロックの解除が非常に煩わしく思える。


 番号を押しコールを押す手前で、綾乃は止めた。


「あぁ、ごめん。違う。ガチじゃなくて――」


 彼女は深呼吸を繰り返し、呼吸を落ち着かせる。


「綾乃……?」


 心配そうな悠斗の表情に言葉選びを間違えたな、と思いつつも、先ほどのお礼(仕返し)と、


「私の彼氏が尊過ぎて尊死とうとししそう……」


 綾乃は胸を押さながら顔を赤らめプルプルと震える。


「――綾乃?」


「ちょっと待って。今、ホント……なんか変だから、待ってて――」


 少し血走った目で睨まれた悠斗は苦笑する。


「……水でも飲むか?」


 小さくコクコクと頷いたのに、目の前の自動販売機で小さいペットボトルを購入して、隣に戻る。

 綾乃はキャップを開けるのに苦戦しながらも、クビクビと流し込んで一息ついた。


「ぁー、心臓止まるかと思った……」


「俺も過失致死罪?」


「有罪も有罪よ。あんな事(・・・)、人前で堂々と言われたら、恥ずかしくて死ねるから」


「ごめん」


「いや……謝んないでも良いけど。嬉しかったし――カッコ良かったし?」


「へぇー?」


「そのSっ気のある笑み、やめて? 何する気よ」


「何もしないよ、人聞きの悪い。ただ――」


 警戒しながら残りの水を口に含む綾乃の耳元に顔を近づけて囁く。


「愛してるよ、って言うだけ」


 ブッ、と吹き出し咽る綾乃に脇腹を抓られるのを耐えながら、悠斗はその背を擦った。

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