第十七話:幼馴染カップルの初デート
上条、一ノ瀬宅の最寄りのバス停から一つ次の停留所はショッピングモールの入り口にある。
十時頃に上条悠斗と一ノ瀬綾乃は到着し、そのまま娯楽施設の一角にある映画館で映画を見て、約二時間振りに浴びた陽に二人は目を細めた。
「――っ、あぁ~。映画館とか久し振りだったなぁー」
欠伸交じりに伸びをした悠斗に、綾乃は眉を顰めた。
「ごめんね。恋愛映画に付き合わせちゃって……退屈だったよね」
「んー? いや、そんな事は無いよ。あんな連ドラも良く見るからか、主人公とヒロインにも感情移入出来たし。それにアレはweb小説が原作だろ、書いたのが学生って凄いよな」
「うん、そう! 『小説を書こう!』ってサイトのランキング上位の作品でね。投稿されてから数年で書籍とコミック化して、ついに実写映画されたの。原作も好きで、書籍版も持ってるし楽しみだったんだー」
えへへ、と笑う綾乃に悠斗も頬が緩んだ。
正直、男子高校生としては二時間弱の間、特に期待をしていなかった恋愛映画を見るは、“結果的に楽しめたか否か”の前に精神的に辛いものがあるが、愛しの彼女の為とあれば易いものだった。
「何より綾乃が満足したなら、トイレ我慢した甲斐があったよ」
わざとらしく肩を竦ませる悠斗に、綾乃は「うーん」と苦笑する。
「満足したかって言われると……六〇点位かなぁ~」
「あれま、案外辛口評価なんだな」
「楽しめたのは楽しめたんだけど、アレって主人公達が“高校に進学してから卒業するまで”の話なんだけど、それを映画一本にまとめてるじゃない?」
「あぁ、そうだったな。――あ、ちょっと待って」
休憩所に出されている出店でチェロスを買って、悠斗は彼女に手渡した。
「『映画見た後にチェロス買って』っていう細かいお願いを覚えてくれている彼氏好き。好感度が五ポイント上がったわ」
「三〇〇円で上がるなら安いもんですわ。ちなみに今は累計ポイントはどの位?」
「もう上限一杯で切り捨ててる」
綾乃は小さな口で一口頬張り、満足そうに小さく唸る。
「……んで、なんだっけ。――あぁ、そうだ」
彼女は悠斗の口元にチェロスを持っていきつつ、
「ホントは各学年毎に結構長いエピソードがあるのよ。『花火大会』とか『クリスマス』みたいな季節のイベントとかね」
「……ん。映画でもあったな」
一瞬、戸惑ったが今更と遠慮気味に一口。
「同じイベントでも年を重ねる毎に、二人の距離感が近くなるのが良いのよ。一年の時の花火大会だと“手を繋ぐ”だけだったけど、二年ではその……“キス”するとか?」
「あぁ、なるほど――けど、劇中じゃ二年から三年の前半は結構テンポ早かったよな」
「そうなの! 端折ってるの!」
意外と彼がちゃんと映画を見ていた事を嬉しく思いつつ、綾乃は唇を尖らせる。
「いや、そもそも二時間で収まるボリュームじゃないから、削るのは仕方が無いって思うの。けど、それだと“積み重ねる二人の愛情”が勿体ないのよ。原作を知ってるのと知らないとじゃ、印象大分違うからねアレ!」
綾乃の熱量に気圧された悠斗は、ドウドウと宥めて、
「ファンとしては、『無理やり全部を一本にまとめるんじゃなくて、せめて三部作にしろよ』と?」
「……言いたい事が伝わる彼氏ってホント好き」
シミジミ思いつつ、綾乃はまたチェロスにかぶりつく。
「――ホント、大好き」
「俺が?」
「チェロスが」
「揚げ菓子に負けたかぁ……っ」
くぅー! と悠斗が唸ると、口元を抑えて綾乃はクスクスと身悶えた。
「……それはそうとして、大丈夫なのか?」
「チェロスもう一本買ってくれるの?」
この笑顔が見れるのなら、やぶさかでは無いのだが、
「いや、さっきから“素”が出てるからさ」
「あー……そうねぇ……」
言われて綾乃はしばし考えて、へへへ、と子供の様に笑った。
「アンタとデートしてるのよ? 繕うのとか、楽し過ぎて嬉し過ぎてやっぱ無理」
「うん。俺もそう言ってくれて嬉しいよ」
「それに人も結構多いから知り合いが居ても分かんないわよ。それに“学校じゃ大人しくても彼氏と一緒なら、はしゃいじゃう女子”も珍しくないでしょ?」
「そんなに楽しいか?」
差し出された最後の一口を頬張った悠斗を愛おしそうに見て、
「ふふ、今ならゾンビ映画でも胸キュン出来そうな位には」
「そのどこで?」
「『あのゾンビ歩き方可愛いぃー』?」
「狂気の沙汰だな。お前、ホラー系苦手だっただろ」
「今は大人だから平気ですぅー」
……そんなくだらない話ですら、楽しかった。
「そんで、どうする? 時間も丁度良いけどちゃんと食べる?」
「んー。ユートは?」
「綾乃次第。食べるなら一緒に食べる位」
それなら、と綾乃は考えて、
「じゃあ、先に私の買い物付き合って?」
お読み頂き、ありがとうございます。
『面白い』『続きが気になる』と思って頂きましたら、ブックマークを、
また励みになりますので、↓の【☆☆☆☆☆】の評価をお気軽にお願いします。




