第十四話:親が居ぬ間に、お楽しみ
「――良いわよ、どんどん切り込んでって! ほら、次はこっちよ!」
「はいよー。にしても綾乃、ホントに慣れてるんだな。驚いたよ」
「だから言ったでしょー、一人でも結構やってるって。ハマった時は夜中までやってたもん」
「おぉ、この距離当てるか……。これだけ上手ければ、オンラインでも十分やれそうだけどなー」
「知らない人とするのって、何か変な気を遣うから嫌なのよ」
「なら、水原とはやらないのか? アイツもやってるぽかったけど」
「“学校での私”じゃゲームなんて誘えないわよ。それに本格的にゲームし出したのって中学からだし」
「……この腕前はボッチで培ったものなのか。ごめんな……俺のせいでボッチプレーヤーにさせてしまった」
「ボッチ言うな! あと、本気で謝らないでくれる!?」
「これからは、俺と一緒に色々なゲームしような?」
「嬉しいけども!」
ゲーム機には大きく分けると、モニターに繋げる『据え置き型』と持ち運べる『携帯型』がある。
どちらにも長所があり一概に優劣はつけれない。
だが、友人と直接、顔を合わせて遊ぶのならその特性上、携帯型が好まれる。
昨今では、据え置き型と携帯型の両方の特性を併せ持つゲーム機が人気を博していた。
人気なタイトルは『ハンティングモンスター』。
様々な職業、武器、スキル、アイテムなどを駆使し多種多様なモンスターと戦うアクションゲーム。
醍醐味は倒したモンスターやフィールドで得た素材から装備を作りキャラクターを強くしていく事だが、何よりの売りは協力プレイ。
ベッドに背を預けて肩を寄せる上条悠斗と一ノ瀬綾乃もそのユーザーだった。
悠斗は、重装甲による高い防御力とブースターとワイヤーアクションによる高機動で強襲を得意とする大型ランスを振るう『バスターランサー』。
綾乃は、精霊の加護を受けた魔法の大弓で様々な種類の矢を放つ『マルチアーチャー』。
それぞれ、ストーリーモードをクリアしてエンドコンテンツとして楽しむ程のプレイヤースキルとキャラ性能をしていた。
フィールドに居る小型の雑魚モンスターを一しきり倒し終え、二人はガチャガチャと無意味にキャラを走り回らせつつ、カメラ感度の確認を終える。
「――まぁ、良いわ。ウォーミングアップは終わったから、そろそろ“本命”狩りに行くわよ」
「良いねー。俺もまだ素材集まってなかったから助かるよ」
――と、悠斗は自身のメニュー画面を確認しつつ、内心溜息をつく。
まさか、恋人となった幼馴染は、ゲームの協力プレイをずっと望んでいたとは思わなかった。
ゲームシリーズの発売当初はその特色と高い難易度から成人男性を中心に人気があったが、シリーズを重ねる毎に難易度の調整に加え、高画質化と人気声優を多く起用し出した為により幅広い年齢層にも浸透していった。
特に今回作はイケメン俳優が動画サイトでプレイ動画を上げている為か、女性ユーザーも急増している。
彼女が同じゲームをプレイしていても不思議ではなかった。
自身のドギマギや期待と罪悪感が、肩透かしになった訳だが……まぁ、これはこれで、良かったのだろう。
流石にゲーム機は持って来ていなかったので、姉に連絡し窓から渡して貰ったが、『ガキめ……死ね』と冷め切った目で睨まれたが、それはそれ。
ともあれ、今は大型アップデートで追加されたモンスター討伐を楽しもうと気持ちを切り替える。
正直、綾乃とこのゲームをプレイするのは、悠斗としても楽しみだった。
「それじゃ行くわよー!」
「おー!」
◇
「――コイツ、いつ死ぬのかしら?」
「ん~……、モーションが変わったから大分、削ってる筈なんだけどなー」
幾つかのエリアに分かれた山のフィールドで、悠斗と綾乃は“白い雌型の竜人”を追い回していた。
このゲームは各クエストごとにメイン討伐目標とされるモンスターと制限時間が設定されている。
攻略サイトを覗けば、適正性能の装備で臨めば、長くとも二十分程度で終了するらしいのだが、彼らはかれこれ、三十分以上、同じクエストをプレイしている。
「この前、一人でやった時はもっと簡単だったのに。アンタの装備が弱いんじゃないの? このゲーム、協力プレイだと敵の体力増えるんでしょ?」
「いや、確かに硬くなるけども……。俺の装備もまだ強化途中だけど、それなりに強いんだけどなー」
「にしてもコイツ、人外の癖に立派なモノをプルンプルンさせてよって……腹立つぅ!」
「私怨を矢にエンチャント……」
と、猛攻を仕掛ける綾乃のキャラを見て悠斗は眉を顰めた。
「――なぁ、お前の装備ってもしかして、ストーリーのラスボス装備?」
「そーよ。周回して一式揃えて強化もしたんだから、弱い訳ないもの」
あー、なるほどねー。と彼は納得した。
「何よ?」
「綾乃さんは、もしかして運営からのお知らせとか見ない人?」
「え? あぁ……そうね。あんまり見ないかしら。大抵、オンラインする人向けでしょ」
「ん゛んー、動画サイトのプレイ動画とかも?」
竜人の炎ブレス攻撃の動作を見て、回避行動をしつつ、
「っと! ……だって、人のプレイ見たってアクションゲームなんだから面白くないでしょ? モンスターのモーションパターン先に見たら白けちゃうし」
「確かにそうなんですがねー?」
悠斗は回復アイテムを使用して態勢を整える。
「もう! だから何なのよ!?」
「いやー、今回の大型アップデートなんだけど、新モンスターとかスキルとかの追加の他に、ゲーム全体のバランス調整も入ったんよ」
「うん」
「んでな、アップデートが入る前はオンラインプレーヤーのマナーが悪かったのさー」
「へー?」
「初心者が集まるクエストに強い装備のプレーヤーが入って、モンスターを直ぐ倒しちゃうみたいな」
「うっわ、何それウザい」
「そうなんよ。んでな、その害悪プレーヤーの装備が、綾乃と同じ装備な訳」
「ぁん?」
「その装備はステータスも高いんだけど、今までの細かい追加で入ったスキルの組み合わせで運営の想定外まで強くなっちゃうんだよ。それこそ、ラスボスを一発で倒しちゃう位に」
「――えぇ……やだー、何かオチ見えた」
「うん。“初心者のクエストに最強装備で混ざってみた”とか、“最速討伐”なんて動画も一時期流行ってさ。最近はまともにオンラインでプレイするユーザーも減ってたんだ」
つまり、と
「今回の下方修正で、“協力プレイだと一部のスキルの効果を軽減させる”ってなったんだけどー。ぶっちゃけ、綾乃が使ってる装備を狙い撃ちで、弱くしてるんだよね。武器固有のスキルを弱体化させてるから」
「うわぁーん! どことも知れない奴のせいで、私の装備が弱くなった!?」
竜人の再度のブレス攻撃を凌いで、
「まぁ、ソロプレイじゃ、性能はそのままだから、今まで通り使えるけどな。また協力プレイするなら別で用意しないと……だっ、と!」
悠斗は、キャラの特性を活かした強襲で強力なカウンターを叩きこむ。
だが、竜人はまだ倒れる気配は無い。
ダメだな、と悠斗は眉を顰めた。
「……このままじゃ、時間ギリギリっぽいぞ。一旦、ロビーに戻って装備替えるか?」
「……無理」
「無理?」
攻撃をガードして、悠斗は眉間のしわをより険しくさせた。
その竜人の側面に魔法を込めた矢を放った綾乃はバツが悪そうに、
「今の装備を強化するのに他の奴、売ったり解体したりしてるから直ぐに使える装備が、無い」
――絶句した。
「男よりも男気のあるプレイスタイルだな」
「っさいわね! どうせ使うのは同じなんだから一個を強くしたかったのよ! それにここまで戦って諦めらんないわ。意地でも狩ってやるんだから、アンタも付き合って!」
「えぇ……でも、コレ無理がないかな~」
「さっき私の脚、ガン見してたの怒ってないからっ!」
「何のことかな行くぞおらぁー!!」
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