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付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話。  作者: 頼瑠 ユウ
一巻目

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第十二:ウチに来ない?と彼女に誘われた


 三年振りに一ノ瀬綾乃を招いた上条宅の食卓は、始めこそは近状報告の様で、ぎこちなかったが、子供の頃の話になると直ぐに穏やかになった。


 本人達も忘れている事を上条悠斗の母や姉から聞かされ、懐かしくもドキドキだった。


 四人で食べれるだけ食べても母の張り切り具合の方が勝っていた様で、母は手付かずの料理はタッパーに詰めて、悠斗の前にドン! と置いた。


「はいコレ、持ってってあげて」


「あいよ」


 彼が持ち運び易い様に買い物で使うエコバッグに入れている横で、


「ご馳走様でした。おばさんの料理が久し振りに食べられて凄く嬉しかったです」


 綾乃は頭を下げた。


「えぇ、私も嬉しかったわ。またいつでも来てね」


「はい。それと、また昔みたいに……料理を教えて貰っても良いですか?」


 遠慮気味の申し出に母は頬を緩ませる。


「勿論よー。悠斗の好きなの教えてあげる」


「お、お願いします!」


「そうそう、この子、未だにカボチャが苦手だから食べれる様にしてあげてね」


「! 頑張ります!」


 それを聞いた弟の妙に居た堪れない顔に、姉はひひっ、と口元を歪ませる。


「胃袋つかむ気まんまんだね」


「もう、つかまれてるけどな」


「この弟チョロ~い」


 キッ、と姉を睨み、


「ほら、良いから行こうぜ」


 悠斗は綾乃の背を押して玄関に向かう。


「んじゃ、またね綾乃ちゃん」


「はい、お邪魔しました」


 靴を履き、もう一度頭を下げる綾乃は、見送りの姉とキッチンで洗い物を始める母を気にしつつ、


「……ねぇ、ユート。今日の宿題もうやった?」


「いや、この後やろうかなって。にしても結構出たよな」


 ん? と小首を傾げる彼に綾乃は、髪を弄りつつ、


「だったらウチ来てやらない? ほら、ノートの見比べとか出来るから」


「え? あぁ……そうだな……」


 少しだけ沈黙が流れると、小さく舌を打つ音。


「女が誘ってるんだから恥かかせん、なっ!」


 考える素振りを見せた悠斗に姉は眉間にしわを思いっ切り寄せて、弟の尻を文字通りに叩いた。


「い゛っ!? ってぇ! ――ちょ、ちょっと鞄持ってくる!」


 慌てて自室に走るその背に姉は鼻を鳴らした。


「綾乃ちゃん、あんなので良いの?」


「あんなのが良いんです」


 返された言葉に、ご馳走様、と肩を竦ませる。


「――今、幸せ?」


「――はい、とても」


「っあ~、わっかいなぁー!」


 どこか恥ずかしそうで嬉しそうな綾乃にヘラヘラと姉が笑っていると、悠斗が鞄を手に戻って来た。


「何、どうかしたのか?」


「んー。べっつにぃー、何でもー?」


 姉の気のない対応に怪訝に思いつつも靴を履き、空いている手に料理を入れたエコバッグを持つ。


 両手の塞がった悠斗の代わりに綾乃がドアを開けた。


「……じゃ、ちょっと行ってくる」


「悠斗」


 二人が外に出て、会釈と共に綾乃がドアを閉める間際、


「綾乃ちゃん泣かせたら、殺すからね?」


 薄ら笑いながらも本気の宣告。


「――あぁ、分かってる」

 

 ガチャン、と静かに扉が閉められた後、上条悠斗は呟いた。


「……――」


 その真剣な表情に、一ノ瀬綾乃は息を飲んだ。





「――お、お邪魔……します」


 上条悠斗は、久し振りに一ノ瀬綾乃の部屋に招かれ落ち着かなかった。


 全体的に白色で揃えられたシンプルだが清潔感のある部屋。


 肌触りの良いカーペットの上にガラスのテーブル。整えられたベッドと小さい本棚。


 小ぢんまりとしている化粧台が、男子の部屋との決定的な差になり少年の胸を妙にドキドキとさせる。


「……そんなに緊張するもの? アンタも前は良く来てたでしょ」


「いや、それって小学生の時だからな? 部屋の様子とかお洒落になってるし。なんか『女子の部屋』って感じの良い匂いがするんだけど……」


「多分、それ化粧品だと思うんだけさ。部屋の主を前に言う事じゃないわよ」


 ハッ! 思わず本音が!? という顔をした悠斗に綾乃は深いため息をついた。


「数分前にあった私の胸キュン返してくれる?」


「――したのか?」


 そんな状況あったっけ? と素で小首を傾げた彼に、


「ゲフンゲフン」


「それ単品で使う人、初めて見た」


「さ、早く宿題しよ?」


「え? お、おう……」


 釈然としないまま、綾乃と共に部屋の中央に置かれた足の短いガラステーブルについた。

 

 ――宿題のプリントは、教員の気分次第で量や難易度が上下する。


 件のプリントの教科担任はそれが、特に顕著だった。


 前日に良いことがあり興が乗ったのか、それとも嫌な事があり生徒へ腹いせなのかは定かでは無いが、当人達にはいい迷惑に違いない。


 だが、内容は授業内容そのままなので、真面目に黒板を板書していれば、苦労する事は無いものだった。


 綾乃は宿題が終わった後も悠斗のノートを放さない。

 

「――意外とアンタってしっかりノートとってるのね。字汚いけど」


「つい殴り書きしちゃうんだよな。まぁ、自分が解れば良いかなってさ」


「にしても、雑よ。これ、『い』だから『り』だか判んないわよ」


「もう良いだろ、ノート返せよ。宿題終わったんだから」


 確かに彼は字が綺麗と言えずに、その自覚もある。丁寧に書けば少しは見栄えも良くなると思うが、どんどん進む授業に追いつく為には、ミミズがうねった様な書き方になってしまう。


 数ある彼の欠点の一つだった。


「良いじゃない、もう少し見せてよ。――あはは、先生からも『もっと丁寧に書きましょう』って書かれてるじゃない。小学生の時から変わんないわねー」


 ノートを取り返そうと手を伸ばす悠斗を拒みつつ、綾乃は小馬鹿にした様に、それでいて嬉しそうにページを捲る。


「何で消しゴム使わないで塗り潰してんの。落書きまでしてるし……その癖、大事な所はちゃんとしてるのよねー」


「おい、綾乃―。綾乃さーん?」


「~♪」


 自身のノートをご機嫌で見られ、悠斗は恥ずかしさと気まずさに溜息をつく。


「まぁ、別に良いんですけどね――ぇ?」


 教科書やプリントを仕舞っていくと、ガラスの天板越しに綾乃の脚が見えて、目を奪われた。


 白い肌。彼女がすらりと伸びた脚を動かす度に赤いミニスカートが擦れて形を変える。



 ――僅かに、ほんの一瞬だったが、薄青い色が見えた。



「……っ」


 咄嗟に視線を逸らす。


 昔から知っている目の前の少女が、異性なのだと改めて思う。


 既に恋人となった。口付けもした。


 自分がそういう目(・・・・・)で彼女を見ても、自然な事だと思うけれど、母に言われた『学生らしい付き合い』という言葉に罪悪感が生まれた。


 彼女の父親にも信じて貰えている。


 ――裏切る訳にはいかない。


 それでも、上条悠斗は思春期の男子だ。


 そういった本を手にした時と同じ感情が込み上げてくる。


 恋人だからこそ、見たい、触れたい。


 けれど――傷つけたくない。


 その癖……。


「――っ、ぁ……きっついな……」


 悠斗は眉間にしわを寄せた。


「……何がキツイの? 大丈夫?」


「ん!? あぁ、いやーほら、ご飯食べ過ぎてお腹パンパンだなーって」


 綾乃に訝しげに見られて、悠斗は引き攣った笑いで誤魔化した。


 彼女からノートを返して貰い教科書やプリント共々、鞄に突っ込んで、


「……それじゃ、そろそろ帰るよ」


「え、もう? お腹辛いなら、休んでいきなさいよ」


「そこまで辛い訳じゃないよ。それに、おじさんに俺達の事を認めて貰ったって言っても直接、伝えた訳でも無い。幼馴染だからって、男が娘の部屋にいつまでも居たら、普通、心配するだろ」


「――大丈夫よ。お父さん、今日は帰って来るの遅いから」


 だから呼んだの、と、呟かれて悠斗は息を呑む。


「アンタと、他にしたい事があるから、もう少しだけ居て……? 少し位、五月蠅くしても(・・・・・・・)大丈夫だから」


 恥ずかしげに言う綾乃に、


「それは良いけど……。な、何するよ」


「ん―、アンタと(・・・・)ずっとしたかった事(・・・・・・・・・)


 びくっ、と悠斗は強張った。


「アレって男の子は皆、好きなんでしょ? クラスの女の子も好きな人とする(・・・・・・・)って子、多いみたいだし」


「だから、綾乃も……?」


 コクン、と彼女は頷いた。


「私も好きで結構してるの。でも、一人でするのも飽きちゃったから、アンタとしたいなーって。だから……」


 悠斗が何か言う前に、


「――しよっか?」


 上目遣いにねだられる。



 それを突っぱねる事など、出来る筈がなかった……。




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― 新着の感想 ―
[一言] しちゃうんですか? 家族に報告してから即座の家族計画、続きを読むことが憚られるまさかのイベントですが最初から高感度振り切っていたらそうなのでしょうか。 宿題終えて別の宿題にいそしむとは、…
[一言] ガチの予想するならゲームかな
[一言] 男の子が好きで好きな人といっしょにやりたくて一人でもできるけど誰かとやるほうがいい… つまりジェンガが始まる…!?
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