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第一話:遅過ぎた覚悟


 ――季節は春。


 高校生となり約一か月程。大抵の生徒はクラスでの自分の“立ち位置”を把握し始めた頃。


 上条悠斗かみじょうゆうとは、幼馴染である一ノ瀬綾乃いちのせあやのが他クラスで文武両道であり眉目秀麗として有名な御門光輝みかどこうきに告白された――と、噂を聞いた。

 

 悠斗と綾乃は、家が隣で家族ぐるみの付き合いを生まれた時から続けていた。


 彼女の両親が離婚し、父と二人暮らしとなった小学三年生の頃には、父親が仕事で不在の時は、彼女を家に招き、上条家の子供同然に面倒を見る程。


 それは、上条夫妻が母親が去った少女を憐れんでいる、というのもあるが、何より息子がその少女を、誰よりも心配して想っていたからだ。

 

 上条悠斗は一ノ瀬綾乃を、愛している。


 隣人として、友として、家族として――“子供が大人に焦がれる”よりも、確かな感情を、物心がついた頃には既に彼女に抱いていた。


 けれど、子供は弱い。


 小学校を卒業する数日前、彼等の仲を同級生達が茶化した。


 男女の隔たりが良くも悪くも出来始め、異性に興味を持ち始める頃合いでは明らかに仲の良い二人はどうしても、注目が集まる。


『上条は一ノ瀬が好きだもんなー』

『いっつも、手繋いで帰ってるんだぜー』

『二人は結婚するんだもんな』


 そんな、はやしが彼は恥ずかしくて、少年は否定した。


『そんな事は無い』と『付き合ってなんか無い』と、握っていた少女の手を放した。


『俺はもっと女の子らしい子が好きなんだ』


 そして、彼女はその場を逃げ出した。


 直ぐに追い駆けるべきだった。そう思った。十一、二歳ともなれば、その程度は出来た筈だ。


『謝るのは、次に会ってからで良いや』などと、出来もしない事で罪悪感を誤魔化した。


 それが間違いだった。


 次の日に会った彼女の泣き腫らした様な顔を見て、何も言えなかった。


 その次の日も、次の日も――。


 謝る機会は幾らでもあった。


 でも、拒絶されるのが嫌で怖くて、結局、悠斗は綾乃から逃げ続けた。


 ダラダラと中学生の三年もの間。

 

 我ながら情けなかった。


 この三年間で、どんどん綺麗になる彼女と子供のままの自分を見ると、尚、思う。


 上条悠斗は、特別、成績が良い訳でも容姿が良い訳でも無い。誰にも負けないと自慢出来る何かがある訳でも無い。


 ――誇れるものが何も無い。


 こんな上条悠斗(自分)では、一ノ瀬綾乃(大好きな子)には、釣り合わない。


 だから、もう諦めてしまえ。好きなくせに泣かせてしまった、手を放してしまった自分が悪い。




 だから――最後にしよう。


 もう既に終わった様な、始まってすらいない恋心を。


 上条悠斗が待つ夕日が差す、他に誰もいない放課後の校舎の屋上。



「――えっと……上条、君?」



 一ノ瀬綾乃は、突然の呼び出しに応えてくれた。


「ごめんな、わざわざ――」

 

 それだけで、十分だった。


「大事な話があるんだ」



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