96話 新生【栄光の剣王】
そして翌朝。
私たち【栄光の剣王】は、ノエルのゲートで一瞬でリーレット領に帰還した。
ちなみにラムスは、国軍の総督就任が正式に決まったために脱退だ。そして私が新リーダー。
さっそく新生【栄光の剣王】は任務の要塞建設地へと足を運んだ。
この要塞は、もともとロミアちゃんのお父さんが対ドルトラル帝国軍との戦いのために建設したものだが、前の戦いで壊されている。
それを改修して、もうすぐ来る侵攻に備えようというのだ。
「おい、姉ちゃんども。本当にアンタらが防衛部隊の代わりだって? マジで?」
私たちが建設現場の建築師長のおじさんに挨拶に出向いた時の一声がこれ。
ああ、ラムスが恋しい。あの押しとハッタリが強い男がリーダーだったから、こんな女の子だらけのパーティーでも、どうにか最強パーティーとしての体裁がとれたのに。
「ええ、これが国軍総督の命令書。こっちがこのリーレット領領主さまの信任状。セリア王女殿下のものもあります。新しい防衛部隊の派遣にはひと月ほどかかりますので、その間私たちが要塞建設の防衛にあたります」
こんな普通のことしか言えない自分が嫌になるね。
こんなときラムスだったら、メチャクチャなこと言って強引に事を進めるのに。
「ああ、そうかい。だったら建設は一月後からだな」
ほーら、これだけ偉い人のモノを揃えても、まるで信用されてない。
「話、聞いてました? 魔物軍団の襲来は間近なんですよ。ひと月も遅らせたら間に合わなくなってしまいます。私たちが守りますので、安心して作業を再開してください」
「安心できるか! いいか、前任の防衛部隊は魔物の襲来で壊滅したんだぞ。ひでぇモンだったぜ。半数は死亡、残りのヤツらも満足な体のヤツは一人もいねえ。部隊まとめて後送だ!」
さすが魔人王ザルバドネグザルの配下だね。
襲来ともなれば、魔物全てがかなり強化されているんだろうな。
「勇敢ですね。私たちも前任に劣らぬ仕事を目指します」
「出来るか! それだけの場所に、たった数人のお嬢ちゃん達だけで守りきれると思っているのか!?」
「それが仕事だし、この要塞の意味もよくわかっています。とにかく作業を再開してください。おたがい良い仕事をしましょうよ。いざ決戦にこの要塞が使えないんじゃ、死人は激増ですよ」
「クッ、また魔物が襲来して作業員が大勢死んだら、要塞は完成どころじゃねぇんだぞ」
「だから、そのために私たちが来たんですって。私たちは冒険者ランク最高位のアダマンタイト級パーティー【栄光の剣王】。リーレットの人なら、名前くらいは聞いたことはあるんじゃないですか?」
「悪ぃが、おれはカルバート領から腕を見込まれて派遣された建築屋だ。そういや【栄光の剣王】ってな、吟遊詩人がよく題材にするパーティーだったな。しかし生憎おれは、ガキを喜ばせるおとぎ話に興味はねぇんだ。チッ、ヤローどもの尻蹴りあげてくるぜ」
師長さんは作業員に仕事の再開を指示しに行った。
まぁ吟遊詩人ってのは、いわばエンターテイナーだからね。客が喜ぶように脚色や演出なんかをしたりして、実際より大げさな物語になってしまうのは、よくある事なんだよね。
と、そこにモミジが来た。
「ちょい、サクヤさん」
「どうしたのモミジ?」
「ドローンの試運転かねて国境付近を見てみたんやけどな。魔物がえらい集結してるわ。こりゃ明日にはスタンピード来るで」
モミジには、私がプロペラ技術や、それを使ったドローンのことなんかを教えると、早々とこの世界の魔導技術で、似たようなものを作ってしまった。
魔石を動力にして稼働。カメラの役割は、水晶に映した光景を脳内に伝える魔導技術を組み込んでいる。
稼働時間は短いものの、現代のものとさほど遜色ない性能だ。
「さすがザルバドネグザルだね。防衛隊の奮戦で壊せなかった要塞を、間髪入れずに襲撃することで、今度こそ壊そうってわけか。数は?」
「およそ三千。どうする? 建築師長さんに言おか?」
「ふう、せっかくの作業再開なのに忙しないね。でも、しかたない。師長さんに言って、念のため作業員さん達には避難してもらおう。ま、必要ないと思うけど万一にも備えないと」
ここの作業員たちは防壁強化魔法や土木特化の土魔法の使い手など、代えのきかない貴重な人材がそろっている。そのため建築師長さんも神経質になっているのだ。
「ってことは、やっぱりウチらは残って迎撃か。作ってみた大砲の威力、ためしてみるチャンスやわ」
この世界にはこれまで砲状兵器の技術はなかった。どうやら思いつく人間はいなかったらしい。なので私がモミジにライフリングなんかを教えると、あっという間に大砲の試作品なんかを作ってしまった。
「悪いけど、先に私がノエルとの新しい大規模殲滅剣技を試させてもらうよ。本番の前に使えるか試してみないといけないからね」
不謹慎だけど楽しみだ。
お兄ちゃんが大量のリソースを送ってくれたので、ポイントはすごいことになっていた。
なのでそれを使って、私たち全員を大幅にパワーアップしたのだ。
さっそくその力、明日のスタンピードで試させてもらおう。
◇ ◇ ◇
そしてさらに翌朝。
皆で建設中の要塞の上で監視していると、ドルトラル方面より砂塵をあげて大量の魔物がこちらに疾走してくる光景が見えた。
この世界の災害ともいうべき魔物の大量襲来【スタンピード】だ。
「本当に来やがったな。いちおう感謝するぜ。作業員たちの命を救ってくれたことを」
私の隣になぜかいる建築師長さんはポツリと言った。
「それはどうも。でも師長さんは避難しないんですか?」
「ああ。お嬢ちゃんたちが要塞を守んだろ? 本当にアレをどうにかする力があるのか見極めんのも、仕事の内だ。上がトチ狂っていないことを命がけで祈るぜ」
「仕事熱心ですね。あなたにはユクハちゃんをつけておきます。彼女なら、一瞬であなたを安全圏まで送ることが出来ますから。特等席で【栄光の剣王】の活躍をご覧になってください。それじゃノエル、アーシェラ、そろそろ下に出ようか」
「はい、サクヤさま」
「ふうっ、あれに真正面から勝負か。生きた心地がしないね」
と、私が二人を率いて出ようとすると、師長さんはあわてて叫んだ。
「お、おい!? スタンピードの襲来に下に出るなんざ正気か? あの大層な魔導具で何とかすんじゃねぇのかよ!」
師長さんは、モミジが調整してる大砲を指さして言った。
「あれはモミジの道具です。私が一太刀入れたあとに試運転することになってます。私の道具はコレですからね。ここからじゃ届かなくて」
メガデスを軽くたたく。
「バカか!? いくらバカでけえ剣でも、それで何とかできるモンだと思っているのか!?」
「まぁ、ご覧あれ。あ、私やモミジがあまり減らせなかった場合、このユクハちゃんが残りを殲滅しますのでご安心を」
ユクハちゃんは師長さんの隣でニコリと笑った。
「は、はぁ? このお嬢ちゃんがどうやって?」
「本当はユクハちゃんだけに全部まかせた方が簡単なんですけどね。私たちも本番前に戦って、技が使えるか試してみないと」
あっけにとられている師長さんを置いて、私たちは悠々と要塞を降りていった。




