08話 追跡者
獲物の討伐報酬を受け取り、さらに素材もギルドで売って、ちょっとした金持ちになった私達。
宿屋を紹介してくれるというラムスの案内で夜道を歩いているが、さっきから嫌な気配を感じている。
【気配察知レベル5】が危険信号を発しているのだ。
「ラムス、尾行けられているよ。数は四人。殺気もはらんでいるみたい」
「ほほう、わかるのかサクヤ。オレ様はわからんが、奴らが小金を持っているオレらを狙ってくるだろうことは予想がついていた。そろそろ人気のない場所に出る。そしたら仕掛けてくるだろうから、覚悟をきめろ」
「ええっ!? メガデスで戦ったら、殺さずにすますのは難しいんだよ」
なにしろ威力がありすぎるんだよね。
少し触れただけで、あてた部位を簡単に破壊しちゃうのだ。
「なにを言っている。殺せ。でなければ、死ぬのはお前だ」
―――!!
「サクヤよ。モンスター狩りは上手くても、人間の恐ろしさは知らんようだな。金のために人殺しをする輩は、どんなモンスターより危険だぞ」
ちょっとラムスを見直した。
この英雄症候群なラムスも、こういったときの覚悟はできているんだね。
私も、もしメガデスをあつかえないただの女の子だったらシャレにならない命の危機だし。
ゴロツキの流儀に合わせて覚悟を決めますか。
やがて人気のない裏路地に入ったとき。
奴らはそろって出てきた。
やはりラムスをはめた【魔物絶対殲滅旅団】の連中だ。
互いのランプが照らす灯りの範囲だけが、視界のすべて。
「何の用だゴミクズども。きさまらとは縁を切ったはずだが?」
「ラムス、今まで世話してやった分の授業料をいただこうと思ってよぉ」
「何なら、さらに色々教えてやるぜ? 授業料は”命”になっちまうがなぁ」
「どうだい? ここは穏便にすまそうじゃないか。俺達ともう一度組んで仲良くやろうや」
そんな彼らにラムスは「フン」と鼻を鳴らす。
「断る。ギーヴから、きさらが襲ってきたら始末しとけと言われている。やりすぎたんだよ、きさまらは」
「ケッあのジジィ、とんだ食わせ者だぜ」
「こりゃ、さっさと金を奪ってトンズラするしかねぇな」
「ってなワケだ。仲良く死んでくれや、お二人さん」
奴らは仮初の友好的な態度すらかなぐり捨て、それぞれの武器を抜いた。
慌ててこちらも武器を抜き構える。
「フン、きさまらは虎ゴーンより強いのか? それを倒した俺らに、本気でかなうと思っているのか?」
「ハッハァ、ラムス。世の中を知らねぇな。俺らみたいなゴロツキはな。モンスター殺しより人殺しの方が大得意なんだぜ。たとえ格上相手だろうとな」
―――「そういうことだ、お嬢ちゃん」
ふいに至近から声がした。
見ると、信じられないほど私の近くに小男がいた。
その時、気がついた。
さっきから、私が見ていたのは三人。
私が気配を感じていたのも三人。
奴らは四人。残りの一人は?
答えは、灯りの死角から私に忍び寄っていたのだ!
それも【気配察知】にすら気づかれることなく、上手に気配を隠しながら!
ザグウッ
「サクヤッ!」
奴の短剣は過たず私の脇腹を刺した。
奴らは、さも可笑しそうに悪の嗤い声をたてる。
「ハッハッハ、カブムは【隠形】のスキル持ちだ。こうやって腕自慢を何人もブッ殺すのが大好きな変態ヤローよ」
「その娘っ子、意外とスゲー力を持っているみたいだがよ。冒険者が油断しちゃいけねぇなぁ。そんな防御力ゼロの恰好でうろついてよ!」
「さぁてラムス。あとはオマエ一人だ。暗殺なんてケチな真似はしねぇで、キッチリ相手してやっからよ。虎ゴーンを倒した腕ってのを見せてくれよ」
ゲラゲラ笑う男たち。
されど、奴らの中でたった一人笑わない男がいた。
私を刺した”カブム”という男だ。
「くそっ、おいマズイぞ! この娘、刃がまったく通らねぇ……ギャブッ!」
モンスターのように、そいつの頭をたたき割った。
なるほど、たしかにコイツらは危険だね。
こうまで人殺しに特化し、人殺しを喜ぶ精神。
コイツらは本当にモンスターと変わらない。
「自分の防御力がゼロっていうのはわかっているよ。だから私は、万一のため【プロテクション】をレベル3まで上げていたんだよ」
スキル【プロテクション】。
魔法にも同名の術はあるが、あちらは魔力で他人の防御力を上げるのに対し、剣士のそれは自分の生命エネルギーで自分自身の防御力を上げる。
術より優れている点は、あちらには時間制限があるのに対し、剣士のそれは常時発動していること。
レベル3ともなれば、何の効果も付与してない短剣程度では皮一枚切ることはできないのだ。
「【プロテクション】だと!? そんなものは騎士の鍛錬場でもなければ、見につけられないスキルだぞ!」
「しかもレベル3!? そんなもん、十年は修行しなきゃたどり着かねぇレベルだぞ! くそっ、何者なんだ娘!」
さっきまでオタついていたラムスは、またしても自信満々。
「ふははは、わははは。オレ達の力を甘く見たようだな愚か者め。さぁ、そろそろ地獄へ行ってもらおうかゴミクズどもめ。やれいサクヤ!」
あーラムスの命令で動かされているようで嫌だわ。
私のスキルを『オレ達の』とか言っちゃってるし。
ま、私のスキルも、修行じゃなくスマホで手に入れたものだから、自慢とか出来ないんだけどね。
「ちくしょう! 真面目に生きて働いている俺達の前に、何で神様はこんなバケモノをよこすんだよ。これじゃ真面目にやってんのがバカらしくなるぜ!」
『真面目に生きてる』って、ラムスを陥れて酒飲んでたじゃん。
『働いている』って、この追剥のこと?
こんな奴にバケモノ呼ばわりされるのって腹がたつよ。
人間として。
ザンッ
剣をふるってあっけなく寸断すると、また一人が錯乱して襲ってきた。
「うわおああああッ!!」
ザザンッ
肉塊三体目。
すると残った一人は武器を前に置いて土下座した。
「すまねぇ! もう、あなた様方の前には決して姿を現さねぇ! どうか命だけはお許しをぉ!」
その瞬間、モンスターに見えてたそいつが、にわかに人間になってしまった。
うーん。人殺しなんて必要以上にやるもんでもないし、許そうかなぁ。
ズブリ
しかしラムスは、あっさりそいつの上から首に剣を入れてしまった。
「サクヤ、迷ったな? 甘すぎるぞ。これを見てみろ」
「ゴロン」とそいつを仰向けに転がすと、そいつは何か袋のような物を持っていた。
「目潰しと癇癪玉だ。これでオレ達の目と耳を潰し、金を奪って逃げようとしたのだ」
なんと!
このごにおよんでも、金を奪おうと知恵を巡らせていたのか?
悪の執念、おそるべし!!
ラムスのエピソードはこれくらいでいいかな。
いちおう物語の進行役なんで、それなりに人間性を見せなきゃいけないんですよ。
次回から、やっと女の子攻略の話にはいります。




