51話 もたらされる急報
「ラムス、お待たせえ」
フラフラと私は、隣の部屋へ入っていった。
そこには明日に備えて熟睡しているノエルと、憮然として待っているラムスがいた。
私達は宿部屋を二部屋借りており、私だけ個室を使っている。理由は、まぁ、さっきのように女の子とイチャコラするための部屋だ。
しかし今更だが、女の子を七人もハーレムメンバーにしてつき合うというのは、すごく大変なことなんじゃないだろうか?
今はまだ三人だから上手くまわしているけど、これが五人にでもなったら、さっきみたいに同時に相手してあげなきゃならなくなる。
さらに七人となると………怖い考えになってしまった。今は考えないでおこう。
「ゴクゴクゴク……ぷはあっ。ふうっ二人とも後が怖いなあ。私、殺されるかも」
水差しから下品に水を飲む私を、ラムスは冷めた目で見ていた。
「まったく、よくそんな何人もの女とつき合うことが出来るものだな。オレ様のように、たまった時だけ娼館の女に世話になるという賢いつき合い方はできんのか」
「女の子が商売女なんて買えるわけないでしょ。私は、男みたいにたまるから女の子とつき合っているわけでもないし。だいたいラムスだってゲームじゃ……あれ?
考えてみれば、私って本当にゲームに出てくるラムスそのものになっているな。
それに反してなんだ、こっちのラムスの女の子に対する淡泊さは。
これじゃ【鬼畜勇者】は私じゃないか。
「どうした。オレ様が何だって?」
「……いや、なんでもない。それより明日の……いや、もう今日のことだけど、クエストの目的は三人の賢者の救出だよ。第四層は極寒の地になっていて、よほどの防寒対策をしないと、半日も持たない場所になっているからね」
「それじゃ、そいつらはもう生きてないんじゃないか?」
「でも三人とも王国屈指の魔法師だし、しかも炎系魔法の得意な賢者がいるから、生存は十分に考えられるそうだよ」
「ふうむ。ま、そのマヌケどもを救出すれば、めでたく合計三万パルーもの大金が入るというのだな。軽く救出して、祝杯だ!」
「王都がヤバいのに、そんな余裕あるかなぁ。その後は私達も、あのペギラヴァ対策を考えなきゃならないと思うよ」
その時だ。部屋の扉が強くノックされた。
開けてみると、そこには今夜は冒険者ギルドに泊まっているはずのアーシェラとユクハちゃん、それにホノウがいた。
「どうしたの? 今夜はギルドに泊まって、情報収集するんじゃなかった?」
「事態が急変したんだよ。ペギラヴァはダンジョンを上ってきて、いま第二層にいるんだ。夜明けにはギルドのある第一層に来るだろうから、みんな避難したんだよ」
―――――!!!!?
「な、なんだってーーッ! じゃあ、その後は……もうすぐ地上に出てくるの!?」
「ええい、だったら高額報酬はどうなる? 三万パルーがあああっ!!!」
やめてラムス。仲間だから、私まで同類に思われちゃうじゃない。
「ギルドマスターが文句言っていたぞ。救助クエストだというのに、翌日にまわすとは遅すぎるとな」
無茶言うねホノウ。いや言ったのは君じゃないけど、君もそう思っているよね。
しかしペギラヴァと遭遇する危険性があるから、パーティーの命綱のノエルの魔力は十分にしなきゃならないんだよ。クエストから帰ったばかりの昨日の時点で行くのは、負担が大きすぎる。
だから今、ノエルにはご飯をいっぱい食べさせて、よく眠らせているんだ。
「あ、でもダンジョンの入り口には結界があるんじゃなかった? そのお陰で、ダンジョンの中のモンスターは地上に出てこないって聞いたけど」
「ああ、その通りだ。あれは魔力なんかも防ぐ力があるから、奴が起こしている吹雪も地上には出てこないし、寒さもこの程度だ」
でも逆に言えば、ダンジョンから出てきた途端、ここら一帯は猛吹雪で凍らされるってことか。
おそらく王都周辺の農地も寒さでダメになるだろうし、なんとしてもダンジョンから出しちゃダメだ。
「しかしその結界も、ペギラヴァ相手では一日持たせるのが限度だそうです。あとは中央の騎士団や術士団が何とかしてくれるのを期待するしかありません。ですが王国守護の要の七賢者が三人もいない状態で、大丈夫かどうか」
ああ、だから破格の報酬か。
なんだかだんだん、すぐ救助クエストに行かなかった私らが悪いように思えてきたぞ。
「くそっ! こんな時に王都守護の要のはずのじいさんがいないとはな! まったく何のためのゴーレム兵だ!!」
「うん? ホノウ、じいさんって誰? それにゴーレム兵ってのは?」
これをユクハちゃんが教えてくれた。
「モミジちゃんのおじいさんで、錬金の賢者【ワードラー・ルルペイア卿】のことです。そして王都には、巨大モンスターなどがおそってきた時のため、ルルペイア卿が作った巨大ゴーレム兵が配備されているんです」
「なるほど。じゃあ今こそ、それを使う時なんじゃない?」
「だからそれを起動して使えるのは、じいさんだけなんだよ! 起動だけなら、使われている魔法ロックは血統認証だろうから、モミジにもできる可能性はあるがな」
「でもやはり、制御には高い錬金術レベルが必要でしょう。それにゴーレム操作はかなりの特殊技術だと聞きます。まったく素人のモミジちゃんが、戦闘をさせられるほど自在に動かすのは無理でしょうね」
部屋は沈痛な雰囲気に包まれた。
が、私が静かなのは、みんなとは別のことを考えているからだ。
私はそっと立ち上がり、隣の部屋へと入っていった。
そこにはロミアちゃんとそしてクリアしたばかりのモミジちゃんが、まだベッドで仲良く眠っている。
そのモミジちゃんにスマホを向けてステータスを見てみた。
「さて、新加入のモミジちゃんの職業は……やっぱり錬金術師だね。そしてレベルは2か。じゃ、今から王国トップクラスの錬金術師にしてあげるね。嬉しいでしょ?」
錬金術スキルをレベル5まで上げると、『人形操作』というスキルがあらわれた。
これがおそらくゴーレム操作のためのスキル。
「よし、大丈夫。ゴーレム兵とやらを動かしてペギラヴァにぶつける全ては、ここに揃っている。モミジちゃん、おじいちゃんの代わりにがんばってね」




