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140話 脱出

 「うわあああああっ!!」


 もう、ダメだ。みんなゴメン。私は帰れない……


 バシュウウッ


 「…………え?」


 「なんだとッ!?」


 天から降ってくる魔法の消失。ユリアーナの叫び。いったい何が?


 ――「【ホーリーフィールド】! 防御魔法の最高術。とくに魔法には強い効果を発揮します」


 「え? え? 真琴ちゃん!」


 見ると、私のすぐ近くに転移ゲートの空間がある!


 「岩長さんが咲夜さんの位置を教えてくれました。すぐにゲートで脱出してください」


 そしてゲートからはゼイアードとホノウも出てきた。二人はすぐさま私の両脇で肩に腕をまわし、地面にめりこんだ私を引き上げようとする。


 「ったく、何でこんな兄ちゃんが僧侶(クレリック)最高の秘術を使えんだよ。さすがサクヤの縁者ってことか?」


 「危機一髪だな。これだけ数多の精霊を使った大規模魔法を、あのたった一体の魔獣が使っているというのか? いったい何なんだ、あれは……うっ?」


 そして見てしまった、ホノウは。魔獣と化した彼女の姿を。


 「…………ユクハ? どうして………」


 「おい、ホノウ。手をゆるめるな。さっさとサクヤを引き上げて脱出すんぞ」


 「あ、ああ………そうだな」


 しかし、それを黙って見逃すユリアーナではなかった。


 「岩を使え。圧倒的質量で押し潰すのじゃ」


 「オオオオオオアアアアアアア」


 ふたたびユクハちゃんが吼える。

 すると周囲から「ドカンッ」「ドカンッ」と、何かが吹きあがるような音が響いた。

 そして、空を見ると………


 「嘘………」


 無数の大岩や周囲にあったガラクタが空に滞空していた。私たちは唖然茫然と、そのあり得ない光景をただ見上げていた。


 「あ、あんなの防げない」


 「ヤベェ! 急げ!!」 


 だけど、私達が動き出すより早く岩の雨は猛烈なイキオイで降り注いできた。


 「うわあああああっ!!」「ひゃあああっ!!」


 だけど、これこそは私の得意分野。

 めりこんだ地面から助けられた私には、こんな岩なんか押し返せる。


 「まかせて! 【スキル大切斬(だいせつざん)】!!


 ドガンッドガンッドガンッドガン……


 メガデスをスキル最高の威力で振り抜き、空中の岩を砕いてゆく。

 ゲートの周囲一点の防御に絞り、降り注ぐ岩を完全にシャットアウト。

 それでも岩やらガラクタが地面に落下する衝撃はすさまじく、破片の散弾のダメージもヤバイ。


 「ゼイアード、ホノウ、先に行って! 真琴ちゃんも!」


 三人はそそくさと素早くゲートへ逃げこんだ。

 そして殿の私もゲートへ飛び込もうとした時、ユリアーナと目が合った。


 「大した仲間を持っているな。ここまで追い詰めながら、逃がすことになろうとは」


 「ユクハちゃんにした事、ぜったいに許さない。お前は必ず狩る!」


 負け犬の遠吠え。だけど決意の言葉でもある。

 ともかくも、九死に一生を得て脱出に成功したのであった。



 死闘の場所から離れた丘の上。そこに私たちは揃って、ユクハちゃんの巻き起こしている魔法大破壊を見ている。もっともミレイちゃんだけはいない。領主館に報告に行かせたそうだ。

 

 「領兵団が出動した。スキュラと戦っているぜ」


 ゼイアードは丘の一番高い岩の上で遠く現場を見て言った。

 ミレイちゃんの報告で出動してきたんだ。もし私との戦いで消耗せず、あの強さのまま戦っていたとしたら…………最悪の事態になる。


 「戦況はどんな感じ?」


 「ダメだな。どんどん削られている。徹底的な殲滅戦で兵を潰している感じだ。お前を逃がしたことで、領主と組んで挑まれるのを警戒してんだろう」


 「そっか……」


 またユクハちゃんに大量虐殺させちゃったな。私に止めることが出来ていれば。

 ああ、今回の私は本当にダメダメだった。真琴ちゃんにまで、こんな無理をさせちゃって。

 ぐったり眠りこんでいる真琴ちゃんを見ると心が痛む。

 ユクハちゃんの魔法の猛攻、岩の落下の衝撃を抑え続けた真琴ちゃんは消耗激しく、休眠しているのだ。


 「なぁ。あれは……ユクハなのか?」


 ポツリ呟いたホノウの真剣な問いかけは、さらに私を追い詰める。でも答えないワケにはいかない。


 「うん。そうみたいだ。ユリアーナにキメラに改造されちゃったみたいだ」


 「どういうことだ? 俺と別れたあとは、どうなったんだ」


 「魔人王戦が終わった後、王都にいる間はいっしょに暮してた。だけどユクハちゃんは王家直属の七賢者に選ばれちゃったから、出仕で王城に住まなきゃならなくなってさ。私もリーレットに移ることになったから、そのままそれっきり」


 「七賢者になって、なんでバケモノになっちまったんだよ。ワケわかんねぇよ」


 「うん…………」


 そして私とホノウは、黙り込んでユクハちゃんの起こしている天変地異を見続ける。

 これからどうしよう。

 ユリアーナとは戦う。ここまでの牙を見せられたら、人間扱いはできない。必ず討伐する。

 だけどユクハちゃんとは?


 ――戦う? モンスターとして討伐する?

 そんなこと……出来そうにない。心が考えることを拒否してる。



 ♪チャチャーンチャラララ~♪


 「あん? なんだこの音は」


 ヤバッ。スマホをマナーモードにしておくのを忘れてた。お兄ちゃんからの通信だ。


 「あ、ちょっと私、お花を摘みに行ってくるね」


 「花ぁ? この辺りにゃロクに花なんかねぇぞ。そこらのガキどもがみんな食っちまってるからな」


 ええい、乙女の所用の言い回しも知らんバカ狼め。

 まぁ用をたしに行くわけじゃないから、どういう意味になるんだか。

 ともかくその場を離れて、人気無い物陰でスマホの通話ボタンを押す。


 『咲夜、無事のようだな。真琴がいっしょで助かったな。転移ゲートを覚えさせていたこともプラスに働いた』


 「そうだね。で、ユクハちゃんを助ける方法、何かある?」


 『ある。これも真琴がそこにいたことが幸いした。まずユクハの体の人間と魔物部分とを切りはなす』


 「ええ? でもそんなことをしたら死んじゃうんじゃ?」


 『当然死ぬな。しかし真琴は高位白魔法の蘇生(リジュネ)を使える。その成功条件は相当量の魔力と失った下半身部分の倍の肉が必要だ。魔力は俺から送り込む。肉も切りはなした魔物部分で十分賄えるだろう』


 「おおっ!」


 すごい! こんな短い間でユクハちゃんを助ける方法が見つかるなんて!


 『だがな。問題は、お前がユクハに勝てるかどうか。いや、お前が本気でユクハを殺すことが出来るかどうかだ』


 「やるよ! それはユクハちゃんを助けるためだもの。本気になって斬るよ!」


 『おまえがそれをヤれるとは、オレにはどうしても思えん。【鬼に逢っては鬼を斬り、仏に逢っては仏を斬る】って言葉がある。これは剣の極意を示した言葉だ。要するに、親だろうが親友だろうが迷いなく斬れる奴が一番強いってことだ』


 「なんとなく分かるよ。剣を一番速く鋭く振れるのは、迷いのない純粋な殺意で振った時。悲しいけど、剣ってのは殺しの道具なんだよね」


 武士道なんてのは、剣と(いくさ)に生きる修羅を人間にするために生まれた道徳なんだろうね。昔の日本はとんでもない修羅の国だったんだろうな。


 『”愛する者を斬る”という行為を実戦で行うには、事前にそれをした経験が必要だ。お前はその試練を受けたことはない。決意だけで挑んだら、今度こそ本当に死ぬぞ」


 「…………くっ!」


 『ともかくオレが言える忠告はこれがすべてだ。あとは自分で考えろ』


 前世剣の英雄ラムスの言う言葉は重いね。

 たしかに私にユクハちゃんをためらいなく斬れるかと言えば、それは無理。事を成す瞬間にはどうしても”ためらい”が生まれる。それが致命的な遅れになって負けるだろう。


 「…………はああっ!」


 ユクハちゃんの姿をイメージして、全力でメガデスを振ってみる。

 やはり遅い。いろんな感情が浮かんできて、どうしても剣が遅れる。


 「どうするかな。ユクハちゃん、やっぱり私は君を斬れないよ」

 

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― 新着の感想 ―
>乙女の所用の言い回しも知らんバカ狼  この辺ホント鈍いね。 >”愛する者を斬る”  サクヤはユクハとヤったことがある仲でした。それも世界を救う為という理由で。 >剣の英雄ラムスの言う言葉  兄の…
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