23話 敵陣にて作戦開始
今回書き直しがすごく多くなって、遅れてしまいました。
さすがに難しい場面で、ボツにしたものが多数。
翌朝。
リーレット領新領主ロミア・リーレットの三人の交渉団は、領都を包囲するドルトラル帝国軍の陣幕指揮所へと向かった。
メンバーは新領主ロミアちゃん、紋章官レムサスさん、そして領主付き女官……のフリをした私。
私に関しては、護衛のために是非にと、ロミアちゃんが言い張った結果だ。
多数の兵士の間を、案内の兵士についていきながら進む。
ロミアちゃんは領主の正装としてのドレスで美しく着飾っているが、私も侍女として地味ながらメイド服を着ている。
コスプレとかじゃない正装のきちんとした物なので、スカートが長くて重い。
事を起こす時にはこれは切り裂かねばならないだろう。
そして両手にはとある事情で小箱を持っている。
「サクヤ様、ロミア様が護衛にどうしてもと仰るので、やむを得ず来ていただきましたが。ですが交渉の間は決してしゃべらず、ロミア様の側で控えていてください。交渉は私が穏便に進めてみせますから」
「心得ています。今回の仕事はロミア様の心の支えだと思っていますから」
ごめんなさいレムサスさん。
真面目に交渉しに来たあなたには悪いけど、これはそんな穏便にすませられるようにはならないんだよ。
やがて私たちはひと際大きな陣幕のある場所へと連れてこられた。
どうやらここが指揮所。
案内の兵士は、そこの衛兵に一言二言話しかけたあと私達に行った。
「自分はここまで。ここからは近衛の方が誘導するので、指示に従うように」
「了解しました。どうかよしなに」
やがて詰所らしき場所から、男女一組の兵士がやってきた。
二人とも一般の兵士とは違う立派な鎧をつけている。
おそらくは、将軍の警護を任されるような上位の騎士だろう。
男の方は強靭な体躯をした、いかにもな騎士といった壮年。
女性の方は私と年齢が近い青い髪を短く切った少女騎士……あれ?
この女の子、見たことがあるような?
「あっ!?」
「どうしました、サクヤ様?」
「い、いえ何でもありません。お気になさらずに」
驚いた。
あの子、アーシェラちゃんだ!
『鬼畜勇者ラムスクエスト』のヒロインの一人で、最初はライバルキャラとして登場したけど、ラムスにオトされて仲間になった子だ。
この子も攻略キャラな以上、私も同じ道を歩まなきゃなんないんだよね。
すると男の方は、彼女と戦う時に一緒にいた【ものすごく強い近衛騎士】かな?
立場的には男の方が上だろうけど、『エロゲ』という媒体の性質で、アーシェラちゃんの方がメインになっていたんだよね。
「よく来たリーレット領主。せいぜい将軍方に気に入られるよう言葉を尽くすんだな。さて、まずは身体検査だ。アーシェラ、そいつらが持っている物を調べろ。俺はこいつらの体を調べる」
は? 男が女の体を調べるの?
普通、女性の体は女の方が調べるものじゃないの?
「ち、ちょっとゼイアード先輩、何言ってンスか。こういう場合、女である自分がやるもんじゃ?」
「いいんだよ。ここで立場を分からせるのも見張りの仕事だ。よく覚えとけ」
ああ、最初にわざと屈辱的な行為を受け入れさせ、この後の交渉を有利に進めるってやつだね。
何かのハウツー本にあったよね、こういうやり方。
「待ちなさい! 殿方が女性の体をまさぐるとは何事ですか! 断固拒否します!」
「ああ、いいぜ。身体検査をしなきゃ、ここは通せないことになっている。帰ってもいいんだぜ」
コイツ……近衛のクセに、けっこうなゲス野郎だよね。
でも今回ばかりは、このゲス男に感謝したりする。
元々ここで、もめ事を起こす事が計画になっているのだ。
「それが帝国のやり方という訳ですか。よく分かりました」
「おお、物分かりのよい姉ちゃんだぜ。さ、元帥閣下や将軍方を待たせちゃいけねぇ。さっさとすませようや」
ロミアちゃんは男の伸ばす手を「パシッ」と払う。
「いいえ、もう交渉は結構です。どうやら帝国との交渉など、愚か者のすることのようですね。帰りましょう、お前たち」
男から背を向け、元来た道を引き返そうとするロミアちゃん。
「ロ、ロミア様、待ってください! ここで帰っては領都に住む者達はどうなるのですか!」
「ああ、そうだぜ。もし帰るってんなら、あの元帥の召喚したあのバケモノどもが、お前さんらの街をまるごと破壊して住民をみな喰っちまうぜ」
男の向けた顔の方向には、異形すぎる虫のような巨大なバケモノがいた。
体は蜘蛛のようであり、頭部には複数個の口。
それが五体もいて、おとなしく並んで鎮座していた。
あれが領国軍を食い尽くしたというバケモノ。
魔界から呼び寄せたという召喚獣か。
「かまいません。こんな帝国の野蛮人に運命をゆだねるくらいなら、死はまだ領民にとってやさしいものでしょう」
ロミアちゃんは構わずさっさと帰ろうとする。
「……ちっ、わかったよ。あんたの言う通りだ。身体検査はアーシェラにやらせる。それでいいな?」
さすがにここで自分のせいで交渉を決裂させるわけにもいかないのだろう。
ゲスの近衛の方が折れてきた。
「それじゃ、このアーシェラ・レイナスが身体検査をさせていただきます。まず、侍女さんの持っているその箱は何です?」
私は自分の持っているその箱を開け、中を見せた。
中には布にくるまれた短剣の形をしたものが一つ。
「自決用の短剣です。万一帝国が領主様に無体な真似をしたなら、私が領主様の命を絶つ手筈となっております」
「ああ、そりゃダメだ。こっから先は客人は武器を持ち込めないことになっています。それは預けていただくか、あなたはここで待っていただくか」
「おだまりなさい! ここは敵地だからこそ、このような役目の者が必要なのです。これが罠であり辱めを受けることとなれば必要になるでしょう」
「い、いやそれはいくら何でも……上の方でも、この降伏はまとめたいと思っていらっしゃいます。普通にしていれば大丈夫ですよ」
「アーシェラ、このバカ! こっちの内情を事前に話す奴があるか!」
うん、このゲスの言う通り。
ドジッ娘だね、アーシェラちゃん。
これで、こっちは強気に出れる裏づけが出来た。
ザルバドネグザルはこの領都を攻撃できない。
何故なら、ここの領民はごっそり悪魔への取引に使うのだから。
事前の作戦通り、ロミアちゃんはゴネてゴネてゴネまくる!
やがて、またしてもロミアちゃんは背中を向けて反対方向に歩きだす。
「では、交渉は決裂したとザルバドネグザル元帥にお伝えください。二人とも、行きますよ」
さすがにゲス男も呆れてこう言った。
「ああ、そうするよ。まったく、こっちは穏便に終わらせようってのに、じゃじゃ馬でおじゃんだ。領民にゃ震えて待てと言っておけ」
ロミアちゃんはその言葉に応えずさっさと歩きだす。
レムサスさんは「ロミア様ぁ!」と、追いかける。
これで第一段階は予定通り終了。
さて、帝国は……いやザルバドネグザルは、こっちの予想通り動くかな?




