21話 ロミアの真意
領主館のロミアちゃんの私室。
それは最上階の当主の部屋の真下にあった。
彼女は以前のように明るく私を迎えてくれた。
「家族が誰もいなくなっちゃうって、変な感じだね。こう、体の中から支えがなくなっちゃう感じで」
あ、やっぱりお父さんの領主様が死んだことは悲しいんだ。
ちょっと、そうは見えないけど。
「ケビンが亡くなった時ね。お父さん、すごく落ち込んだんだ。私も悲しかったけど、お父さん、領主だもん。しっかりさせようって、家職のみんなと協力して立ち直らせてね」
悲しい話をしてるんだよね?
なのに、ロミアちゃんの顔は以前と変わらない天使のような笑顔。
「なんか今までがんばってきたこと、全部ダメになっちゃった。もう、どうでもいいや。私も死んじゃおうかな」
「そんなことを言うもんじゃありません。それでロミア様。なぜ私を呼んだのです? グチを聞かせるためにですか?」
ロミアちゃんはうつむいて顔を伏せる。
「うん……あのね。サクヤ様は、どうしたら良いと思う?」
「それはまぁ、リーレット領代表の領主として、交渉にのぞむべきかと」
「そうだよね。でもね、したくないんだ」
「したくない事をしなくて良い立場じゃないでしょう、領主というものは」
我ながら薄っぺらいお説教だなぁ。
自分自身、思ってもいないことだからかな。
「お父様は帝国の奴らに殺された。ケビンもね、帝国のやつらが放ったモンスターに殺されたんだ」
ロミアちゃんは、いきなり抱き着いてきた。
そして私の胸に顔をうずめて言った。
「やっぱり家族が殺されたのは悔しいんだよ。悔しい……!」
それはロミアちゃんが、初めて本当の感情を見せた瞬間だった。
私を掴む指の力が、彼女の思いの強さを感じさせる。
「ねぇ、サクヤ様。殺してくれない。お父様を殺したザルバドネグザルを」
――――!!!?
「本気……ですか。もし本当に実行したら、ロミア様も領民も、どのような目にあうかわかりませんよ」
「うん。どんなに悔しくても、ここは領民のために膝を屈するのが領主だってのは分かっているよ。でも……できそうにない。私も家職も領民も、どうなったっていい。だから……!」
あーあ。領主として最低だね、ロミアちゃん。
でも、そんな最低なことを言っても可愛いのはズルイなぁ。
だったら利用しよう。
はからずも、ロミアちゃんは私と同じ夢を見ている。
だから……
「いいですよ、やります」
「え?」
ロミアちゃんは「ハッ」としたように、私の顔を見た。
「帝国元帥ザルバドネグザルを討ちます。その代わり、ロミア様も命をかけてもらいます」
「ふふっ、やっぱりサクヤ様はすごいなぁ。こんな無理を簡単に『やる』なんていうんだもの」
「で、報酬の件なんですが、そのための財産とか持ち出せませんよね?」
「うん。さすがに財産管理をしているレムサスには言えないなぁ。でもこの部屋にある宝石やドレス、全部持っていってかまわないよ」
「それはラムスとノエルの報酬に使いましょう。でも私の方は、ロミア様。あなた自身を所望いたします」
ロミアちゃんは驚いたように私を見た。
でも、すぐにいつもの天使の笑顔。
「サクヤ様、やっぱりそういう趣味が有ったんだね」
「ええ、恥ずかしながら。ロミア様、その依頼のために私と関係を持つ覚悟はありますか?」
「ふふっ、優しすぎるよサクヤ様。敗軍の貴族の姫の貞操なんて、風の前の塵にも等しいモノじゃない。こんなモノでよかったら、いくらでも」
ロミアちゃんは私の首に腕をまわし、深くキスをした。
何か体が勝手に動いて、妙な感じにロミアちゃんとキスしてる。
ああ、スキル【エロテク】が発動したのか。
口を放してその顔を見てみると、ロミアちゃんはエロゲのヒロインらしいアヘ顔をしていた。
「………サクヤ様。キス、上手だね。あのね。私いま、打算も欲得も関係なしにサクヤ様と関係持ちたいと思ってる」
私の方がロミアちゃんにベッドに押し倒された。
私はロミアちゃんと、ただの友達になりたかったなぁ。
そんなことをボンヤリ思った。
けど、ケジメだ。
ラスボスのザルバドネグザルを魔人王になる前に倒すためにも、ロミアちゃんを抱く!
【魔人王ザルバドネグザル】
このラスボスに挑むのは、かなりリスクがある。
なにしろ原作ゲームを最後までやっていないので、どんな能力があるのか、どうやって倒せばいいのか、まるで分らないのだ。
奴を倒すのに必要な【契約剣メガデス】はあるものの、所有者はただのゲーム好きJKの私。
正直どれだけスキルを上げようとも、倒せる自信はない。
しかし領都の市民を生贄に捧げるイベント前の今なら、高位魔法を扱えるとはいえ人間。
メガデスでたやすく倒せる。
それにラスボスをこの段階で倒したら、この世界がどのような影響を受けるのかも興味がある。
ひょっとしたらゲーム世界が崩壊して元の世界に帰れるんじゃないかと、かすかな期待もしてしまう。
そして領都の市民の大量虐殺も防げる。
この世界に来て仲良くなった人達もいるのに、見捨てて黙って逃げ出すなんて出来ないからね。
「うーん……」
私の隣ではロミアちゃんが寝息をたてて眠っている。
ああ、やっぱりロミアちゃんは可愛いな。
「いっしょに戦おうロミアちゃん。ぜったい、あなたは私が守るからね」
彼女の寝顔にそう誓った。
あ、そう言えば、ロミアちゃんはこれでクリアで良いのかな?
スマホを出して確認してみると、たしかにロミアちゃんの名前の後ろに『クリア』の文字がついていた。
そしてステータスを確認してみると。
ロミア・リーレット
職業:役者
スキル:演技レベル2
演舞レベル1
魅惑の笑顔
称号:リーレット領領主
サクヤの愛人
あ、やっぱりあの天使の笑顔はスキルだったのか。
いや、それより職業:役者ってなによ!?




