91話 メフトクリフ村の消失
ハージマル大森林は妙に強いモンスターが生息するようになっていた。
その近隣に位置するメフトクリフ村のことが心配だったが、来てみると想像以上に酷いことなっていた。農家の居住区を見てみたが人は誰も見かけない。しかたなく一軒一軒訪問してみる。
「チッ、この家も無人だ。まぁ畑があのザマではな」
ここへ来る途中畑を遠ってきたんだけど、どの農家の畑も作物は作らず手入れもせず荒れ放題。やはりこの村は放棄されたと見るしかないのかな。
まずいよね。この村はリーレット領の大事な収入源なのに。この村を放棄しちゃって財政は成り立つの?
「ひどい………家畜がみんな殺されている。コレをやったモンスター、冒険者に討伐は出来なかったのかな」
とある牧場では牛や馬などの死体があちこちに散乱し、ときおりロングウルフがそれをむさぼり食っていた。
「市場の方も無人やったしな。やっぱ村人は全員村を捨てて避難したんやろな」
いくつか民家を訪ねてみたけど、どこも無人。家財道具なんかをまとめて出ていった跡があるばかりだった。
「おい、もうこれ以上村を歩き回っても無駄だ。さっさと領都アンブロシアへ行って、ロミアに会いにいくぞ」
たしかにこれ以上、無人の村をさまよって悲惨さを眺めることは無駄でしかない。だけどもまだ調べたい場所がある。
「………そうだね。だけど、あと一か所だけ寄らせてくれないかな」
私がどうしてもと最後に調べる場所をせがんだのは、冒険者ギルド。
私は冒険者ランク最高のアダマンタイト級冒険者であり、国王から認められた最強の冒険者である。その称号を使う形で、私はこのギルドの顧問なんかをしていた。式典やお祭りなんかをやる時はスピーチなんか頼まれたりね。
「冒険者ギルドか。どうせ金目のものはなくなっている。労力の無駄だぞ」
「金目のものなんか漁らないよ。仮にも運営の一人だったんだよ。いちおう私はギルドの顧問だったからね。私あてに何かメッセージでも残されていないかと思ってさ」
「たしかに冒険者ギルドとしては、万一サクヤはんが戻ってくるかもと考えてもおかしないな。ちと念入りに調べようや」
懐かしのギルドだけども、やっぱりあちこちの設備は持ち去られている。どこもかしこも抜け殻で、机の引き出しなんかもゴミしか残されていない。毎朝にぎわう依頼リストの貼られる掲示板には、いくつもの高額モンスターの手配が並べられていた。
「やはりハージマル大森林に出たモンスターは出てんな。ここの冒険者じゃ手に負えないわな」
「しかし………私達がいない間に、こんなにたくさん高レベルモンスターが出現したの? 私達が出発する前は、さほど強いモンスターはいなくなっていたのに」
この村が放棄されたのは、モンスター被害をおさえる事が出来なくなったためで間違いないみたいだ。糞、私がいない間にヤツラはどこから来たんだ?
「さてと。サクヤはん宛にメッセージが残されてるとするなら、一階の受付や酒場は論外。二階の会議所や面談室も考えにくい。あるとすんなら、三階のギルド長室やな」
「ヨシッ、そこなら金目のものが残っているかもしれん。行ってみるか」
「お宝探しじゃなくて手がかり探しだよ。リーレットの今の状況がわかるものを探すんだ」
三階に上りギルド長の部屋へと廊下を歩むと、ふと違和感に気がついた。
「あれ?」
「どうした、サクヤ」
「人の気配がする。誰かこの部屋に居る」
「ホンマや。鍵がかかっとる」
モミジは「ガチャガチャ」とノブをまわして、そこに人が居ることを確認。ギルド長の部屋は個人認識の魔法がかけられているはずだから、その本人以外は考えにくい。
「おい、ギーヴ。いるのか? ラムスだ。それにサクヤもいる。居るなら開けろ」
「ギーヴさん、サクヤです。村がどうしてこうなったのか、教えてください」
私とラムスがドンドンとドアを叩いていると。
ガチャ—―
中からドアが開き、懐かしの強面のおじいさんが出てきた。
「ギーヴさん……残っていたんですか。村の人達はみんなどこかへ行ってしまったようですけど」
「まぁな。お前さんらもよく戻ってきた。アルザベール城の罠にハメられ、魔界送りになったと聞いたが」
「正確には魔界じゃないんですけどね。帰ってきたら村が廃村になってビックリしました」
「とにかく、この村に何があったのか簡単に話せ。オレ様たちはすぐに領都アンブロシアに行ってロミアに会うのだからな」
「行くな」
「はい?」
「アンブロシアには行くな。行っても、そこにロミア様はいない」
「えッ!?」
確信めいたその発言に驚く。領主であるロミアちゃんが領都に居ない?
それはつまり異変はこのメフトクリフ村だけでなく、リーレット領全体ということなのか?
「…………どういう事です。なぜ領都に領主のロミアちゃんがいないんです? いったいこのリーレットに何が起こったんです?」
「下の会議所に行こうか。あそこにはテーブルと椅子が残されている。そこでジックリ話してやろう。このリーレット領の崩壊を」
「崩壊…………!」
「おいサクヤ、行くぞ。ジジイの話相手につき合ってやるぞ」
”崩壊”の言葉に少しだけ呆けてしまったらしい。二人が廊下を戻っていくのを慌てて追いかける。
「ギーヴさん、先に一つだけ教えてください。ロミアちゃんは……無事なんですか?」
「…………悪ィな。情報の先出しはしねェ。おとなしく話を待ってな」
表情にこそ出なかったが、その言葉の重々しさでわかってしまった。
ロミアちゃんは無事ではないと。
それに私達以外のアルザベール城探索隊はどうなったんだろう。
ノエルは、アーシェラは、ついでにゼイアードは?
早鐘のように打つ鼓動を感じて下の会議所に歩むのだった。




