89話 新たな戦いへ【南沢真琴視点】
ゲーム世界の戦いは終わった。
あのとき私もメラと愛魅果さんを追ってゲーム世界に入ったんだけど、結局追いつけなくて、そのままゲームクリア。
解放された学校のみんなにも再会して事件は終了した。
しかし、みんなと話してる最中、岩長さんにさらわれた。
なんでも、この瞬間が自衛隊の監視がゆるむ絶好の機会だったそうだ。
そんなわけで、岩長さんとレンタカーの中で保健室で休んでいる咲夜さんたちの様子を探って、接触する隙をうかがっていたんだけど。
「え? もう帰しちゃったんですか、咲夜さんたち」
岩長さんは隣の運転席で保健室に飛ばしていた使役鳥を戻し、使用していたノートパソコンを閉じる。
「ああ、話題がミスターXのことになったからな。やむを得んかった。まったく竜崎め。あんなタイミングで来おって。おかげで向こうのことを、説明もしてやれなかったではないか」
「向こうの世界がどうしたんです? なにか起こったんですか?」
「向こうの女魔人……ユリアーナと言ったか。アイツがゼナス王国をメチャクチャにしやがってた。昨日、たわむれに向こうの様子を見て驚いたぞ。ゆえに向こうにも急いで手をうたねばならなくなったのだ」
「それで咲夜さん達を向こうに送ったんですか。まぁ、こっちは厄介な魔界貴族とかルルアーバとかは倒したし。向こうが大変なら咲夜さんにがんばってもらうのが良いですね」
「向こうは魔法以外の技術はこっちよりかなり劣っているし、政治形態も単純だ。良くも悪くも、強ければある程度は許される。人類最強なスキルを持った咲夜が行けば、そのうち収まるだろう。が、そうもいかないのが、こちら世界だ」
「まだ何かあるんですか? あ、そういえばアイテム化した上級魔族が、まだ居るんでしたっけ」
「ああ。偶然にも、それらの送られた先のリストを手に入れたが…………チッ、糞厄介な! あのルルアーバを倒せたのは良かったが、遅すぎたかもしれん。知恵のまわる奴だから、こっち世界じゃ魔界貴族よりよっぽど厄介な奴になると見たが、間違っていなかった」
「ずいぶん深刻そうですね。そんなに厄介な所に送られたんですか?」
「厄介だ。まず残りの仮面の総数は48だ。しかも、それらはみな海外のヤツラに渡ったらしい」
「48個も!? それに外国じゃ、日本の警察や自衛隊なんかは手が出せませんよ!」
「しかも渡ったヤツラというのが、海外のスパイやらテロリストやら裏社会の大物やらだ。そいつらが魔族の力を手にしたら、本物の悪魔になるぞ」
「そ、そんな…………世界はどうなっちゃうんです?」
「魔人連中の魔の手から世の中を守りつつ、一つずつ潰していくしかないだろう。とりあえずは日本国内に居る持っている連中から狩る。国内のスパイやテロリストなら、安全保障の適応範囲でやりやすいしな」
「とうとう岩長さんも政府の機関に入るんですか? よく決心しましたね。聞きましたよ、どうやって政府のスカウトを断ったか。あんな真似してまで逃げていたのに」
すると岩長さんは固まり、ロコツに嫌そうな顔をした。
「むっ……入りたくない」
「はぁ? そんなこと言ってる場合じゃないでしょう。世界の危機だってのに」
「わかっている。しかしオレは偉いヤツに上から命令されるのが死ぬほど性に合わん。世界が滅亡しても嫌だ!」
「ひどい……『世界なんてどうなってもいい』とか言うんですか!」
「良くない。だから悩んでいるし迷っている。どうにか政府連中の首輪をつけられずに、連中の組織力と情報力と法的バックアップを自由に使い、暴力装置の活動が出来るようになる方法はないものか。うーむ、むむむ…………」
岩長さんは一生懸命に考えているけど、頭の使い所が間違っている気がするなぁ。
それでも、世界に散らばった魔族をどうにかしようと考えてくれる事には変わりないし。どんなロクでもない結果でも協力しよう。
「ヨシッ、真琴。きさま、会社を作れ!」
「は、はああっ? どうしてその結論になるんです!? なんで私が会社なんかを!」
「安全保障サービスとして、これから起こるであろう怪異の調査、始末を請け負うのだ。仕事としてなら、魔人退治をしつつも政府の余計な干渉は受けない」
「いや、それなら岩長さんがやるべきじゃないんですか? 私には会社を始める資金も、社長として業務とかする能力もないですし」
「オレはスポンサーとして必要な資金を出してやる。能力の方も、コイツを通じて必要なのをくれてやる」
岩長さんは私の股間を指して言った。もう女の子の尊厳のカケラもないね。
「ええっと………じゃあ、まだ女の子に戻れないんですか? 岩長さんの分身をココにつけたまま魔人退治の仕事をして生きていけと」
「うーむ、オレとしても苦渋の決断だ。大事なムスコを身内でもない女子高生に預けているようなものだからな。だが、ガマンしてやる」
「身内でもない男性のアレを預けられる女子高生の気持ちはどうなるんです。ガマンも限界なんですが」
「これから社長業について必要な基礎知識を教えてやる。明日は登記に行ってこいよ」
無視ですか。家計のために高額バイトに応募したことが、どうしてこうなっちゃったんだろう。
「日本国内に残った魔人は私や自衛隊が戦うとして、国外に出たのはどうするんです? どうするのか考えているんですか?」
「現状、放っておくしかない。手はまわらないし、届かない。国内の魔人を退治しつつ実績と研究を重ね、被害の出た国々に要請されたら出る、といった形になるだろうな。そのころには大量の人間を食って強大な魔物になっているだろうが」
「そんな…………共産圏の国とかは、そんな要請なんてしませんよ。とんでもない魔物に成長するかも」
「そうなると考えておくべきだろうな。隠蔽なんかもギリギリまでするだろうし。仮面が政府高官とかに渡ったら、簡単に国家が魔物の支配領域になるだろう」
「そんなことになったら、どうするんです。私に倒せるとは思えないんですが」
「総力戦だ。サクヤも呼んで、オレも全力で準備した力を使う。が、それは未来の話だ。今はまず会社の設立。そして国内に残っている仮面の調査だ」
ああ。思えば、家族のために高額バイトに応募しただけなのに、どうして世界を守るために社長とかなっちゃうんだろう。
それに咲夜さんとも会わないままお別れになっちゃって、妙にさびしい気持ちになった。
でも、私達の道は続いている。ずっとお別れじゃない。
咲夜さん。お互いの場所で戦って戦って、生き延びて
いつか、きっとまた会いましょう。
第六章終了です。次回からゼナス王国に戻っ、新しい冒険と戦いがはじまります。




