C選択 「わかった。聖者の石は渡す。魔族どもを魔界へ送り返してくれ」
「わかった。聖者の石は渡す。魔族どもを魔界へ送りかえしてくれ」
「フフフ、おまかせあれ」
奴は信用できないものの、この魔導器で危険な魔界の連中が消えるなら。
「渡すしかないよね」
嫌な予感をねじ伏せ、自分に言い聞かせるよう呟いて聖者の石を渡した。
奴はそれを世界線超……ナントカのコンソールにセットし、パネルを操作し装置の起動を開始。
すると……
ズズズ……
「な、なんだ? 城が揺れているの?」
いきなり地面や壁がガクガクと振動をはじめた。
剣術スキルのおかげでこの揺れでも平衡感覚はたもてているが、常人だったら立ってられないぞ。
「地震? いや、タイミング的に魔導器のせいか?」
「サクヤ殿、まもなく宝物庫の扉は閉まり城は転移をはじめます。魔界へ行きたくなくば、急いで逃げられるがよろしいかと」
「ええっ! まさか城ごと転移しちゃう魔導器なの?」
「左様。じつはこの皇城閣自体が【世界線超弦半径跳躍重波縮退霊励起魔導器】そのもの。それゆえ魔界貴族含めたこの城すべての魔族を送り返すなどという超絶的な事が可能なのです」
反射的にダッシュして出入り口に向かうと、本当に扉は自動で閉じはじめている!
さらに加速して扉を抜け、城から出るまで全速力。
どうにか城の外に出られ、みんなが待っている場所までたどり着いた。
「どうしたサクヤ。城が揺れているが、なにがあったのだ?」
「ルルアーバが魔族たちを魔界へ送り返す魔導器を動かしたんだよ。まさか城ごと送り返すシロモノだとは思わなかったけど」
「ええっ! じゃあボクたち、城の中で待っていたら危なかったんじゃ?」
本当にそうだ。もっとも奴がみんなをハメようとしたのではなく、どうでも良かっただけなんだろうけど。
「ああっ!お城が……消えてゆく?」
目の前で巨大にそびえ立つアルザベール城はその姿がだんだんと希薄になってゆく。
そして完全に消滅した。
「……まさか、本当に奴が言った通りに魔界貴族どもを魔界に送りかえしてくれるとは。絶対、ハメようとしてるとしか思えなかったのに」
ともかく魔界貴族の脅威は完全になくなった。
私たちはしばし呆然としていたが、やがて安堵となった。
「それにしても、アイツはどういうつもりだったんだ。どうしてボクたちがここに来るまでに、これをやらなかったんだ。集落の人たちを消してしまってまで」
アーシェラは、集落の人たちの仇をとれなかったことで不満そうだ。
「……そうだね。アイツの正体も、私たちをあんなにもここに来させようとした理由も、永遠にわからないままだね」
「ま、しかたないわ。ウチもその宝物庫の超絶魔導器見たかったけど、もう振り返っても無意味。これからの事考えな」
「それで、これからどうします? 遠征目的の調査のお城は無くなっちゃいましたけど」
「さっさと帰るに決まっておろう。ユリアーナが魔人王の手下だったという確証を得た。あの女をブッちめてくれる」
ユリアーナが魔人王の配下だった事はルルアーバが言っていた。この事はアイツの排除に大きく役立つはずだ。
「そうだ! あの女許しちゃおかねぇ。くそっ、財宝の話なんかで俺をいいように動かしやがって」
「ゼイアード、財宝の話でいいように動かされてた君にも問題はあるよ。魔人王の配下だったってことは、おおよそ分かっていたんだし」
「そう……なんだよね。ユリアーナ様は魔人王の手下だったんだ。でも、ボクたちドルトラル出身の者はどうしたら良いんだろう」
あ、アーシェラは知らなかったのか。
「その件はセリア様が引き継いでくれるよ。安心してユリアーナを引き下ろす事を手伝ってくれ」
とにかくユリアーナをこのままにしておけない。
一刻も早く王都へ戻らないと、と思った矢先だった。
ピピピピ……
あれ? スマホのコールが?
これはお兄ちゃんからの連絡。いったい何の用だろう?
また『童貞を探せ』みたいなしょうもない用だったら、思いっきり怒鳴ってやる。
私はみんなから離れてスマホの通話ボタンを押す。
『サクヤ、ようやく繋がったか。オマエ、いったい何をした? こっちは今大変なのだぞ』
「何がって、アルザベール城の調査を終えたところだけど? もっともお城は中の魔族ごと魔界へ行っちゃって、もう無いけどね」
『バカもの! そのアルザベール城がこっちの世界に来て、今大変なのだぞ! そこからあふれた魔族どもが、すごい勢いで人間を殺している。しかも魔界の瘴気で殺された人間はゾンビ化しているのだ!』
「―――なっ……ッ!!!!?」
――やられた!!!
奴の世界線転移の目標は魔界なんかじゃなかったんだ。
その目的地は私の元居た世界だったのか!!!!
ともかく私はお兄ちゃんに事の顛末を説明した。
『……そうか。アルザベール城の宝物庫にある世界線転移魔導器。それで城がこっちに来てしまったのか。だが、どうやってルルアーバという奴はこっちの世界線の位置をつかんだ? サクヤ、お前のスマホをスキミングとかされていないか?』
「スキミングって……こっちは科学のない中世時代みたいな魔法世界だよ。そんな技術あるわけないよ」
『バカもの! そちらにも魔導具などがあるだろう。動力は魔力とはいえ、それに備わったシステムで仕事をする所はこっちの機械技術と変わらん。ゆえに機械の持つ弱点なども同様にあるのだ』
「つまりスマホの記録を抜けば、そっちのの世界の位置情報なども知ることが出来るってことか。でもスマホはずっと背嚢にあったし、盗難防御の術が幾つもかけてあるから取り出す事なんて不可能だけど……あっ!」
そうだ、そこには聖者の石も同様に入れてあったんだった。
もし、それがスマホのシステムを読み取る能力があったのなら?
『……なるほど。あえてお前に聖者の石を持たせ、それにスマホの魔力発信先の世界線を記憶させる能力を持たせた、か。スジは通っている。それに間違いあるまい』
「そんな! 私のせいで日本の人たちが何千も殺されちゃったなんて……」
『すぎた事はしょうがあるまい。ともかく事態を解決するためにも、お前の力が必要だ。今は防衛にリソースを使いすぎて呼べないが、いずれ召喚する。長くこっちに居てもらうから、身の回りの整理をつけとけ』
「うん、わかった。日本を救いに行くよ」
お兄ちゃんとの会話を追えて私たちは帰還の途についた。
だけどゼナス王国に入る直前、またしてもお兄ちゃんからスマホでコールが入った。
しかたなくまたしてもみんなから離れて会話をする。
「お兄ちゃん、もうそっちに呼ばれるの? 帰還の報告だけはしたいから、もうちょっと待ってほしいんだけど」
『もう……帰らなくていい。もはや……俺にお前を召喚することは……できん』
……え?
言葉の内容もだけど、聞いたこともないようなお兄ちゃんの弱った声に、ひどく嫌な予感がかけめぐる。
「お、お兄ちゃん。どうしたの? ケガをしてるの!?」
『ああ……死にかけだ。ルルアーバの野郎……俺を探あてやがった……』
―――!!!
『いいか……もうこっちの世界のことは忘れろ。来ても日本は……もう無い』
「――そ、そんなのできないよ! お願い、お兄ちゃん今すぐ私を呼んで! 私がルルアーバも魔族もみんな倒すから!」
『やめておけ……ルルアーバ。奴の正体は…………いや、もうお前にこっちに関わらせるべきじゃないな……じゃあな。奴に利用されないよう、この通信手段も破棄する』
「待って! あきらめないで! 私が……」
――カシャン
何かが壊れたような音とともに、スマホは何の音もしなくなった。
そんな……これは私のせい?
私があんな奴を信用したばかりに、とんでもない災いを日本に送ってしまったの?
――「おーい、サクヤ。いつまで待たせるんだ。いいかげん戻ってこーい」
遠くから私を探しにきたラムスの声。
それはお兄ちゃんを思いださせられて、余計に私を苦しませた。
涙がとめどなく溢れる。
「ごめん……なさい。お兄ちゃん……日本のみんな……」
BADEND 喪われた故郷とお兄ちゃん
――選択――
A、B、C選択済⇒36話 ダメだ、なにを選んでもBADENDになる気がする




