14話 次期領主ロミア
『久しぶり』だって?
ラムスの奴、領主様と顔見知りじゃん。
いつもいらんことでいばっているくせに、どうしてここに来ることになっても、何も言わなかったの?
「む、そういえばここの領主は、このオヤジだったか。あんまりどうでも良いことだったんで、すっかり忘れてた」
…………このラムスという男、どこまで絶大な大物なんだ。
ここで口を押えるなんて出来ないんだから、やめて!
「はっはっは相変わらずだねぇ。さて改めて聞くが、わが娘の夫となり、わが家の教育をうけ、太守となってもらう話を受けてはもらえないかね。わが領の緊迫した状況下では、貴君の家と縁を結び、安全保障をとりつけたいと思っているのだがね」
―――!!?
ラムスの奴、領地持ちの貴族の家系じゃん!
話の流れから察するに、ラムスがこのリーレット領に来たのは、ロミアちゃんと結婚してこの家の太守となるため。
家同士ではそう話がついてたのに、当のラムスは例の英雄志向で冒険者になってしまった。
ドラ息子を説得する術などなく、しばらく好きに冒険者をさせていた。
しかし思わぬ活躍で領主様はとまどってしまい、召喚したという所かね。
そういえばロミアちゃん。原作ではラムスの婚約者を名乗っていたけど、キャラづけだけじゃなく、ちゃんと政治的裏事情があったのか!
「オレ様は英雄だ。結婚するヒマも教育を受けるヒマもない。悪いな、世界中の愚民どもがオレ様を待っているのだ」
太守ってヒマでなるもんなの?
領主様、考え直してください。
ラムスを太守なんかにさせたら、この領は終わりです。
さて、そんな時だ。
ロミアちゃんが、いかにも『思いついた』という風に口を開いた。
「ねぇお父様。わたし、剣豪サクヤ様にご活躍のお話を聞きたいわ。連れ出してかまわないかしら?」
「ふむ。サクヤ殿、娘のワガママを聞いてはもらえんかね。私も貴君には非常に興味はあるが、このラムス殿としばらく政治的な話をしなくてはならないのでね」
いかにも茶番くさいやり取りだなぁ。
要は『貴族同士の内密な話をするから私は出ていけ』ってことでしょ?
それに『剣豪サクヤ』って何だ。
いつの間にか私にそんな二つ名がついていたの?
「お聞かせする話など多くはありませんが、【栄光の剣王】の成したクエストを軽く語る程度なら」
ヨシッ、ロミアちゃんと二人っきりだ。
ここでオトすのは難しいかもだけど、まずは距離をつめる所から。
「なにッロミアよ、その話なら何故オレ様に聞かん。【栄光の剣王】の業績なら、オレ様が熱く詳細に朝まで語ってやろうではないか! つまらん政治話など、オヤジ一人で壁とでもしてろ」
「やだなぁ、ラムス様はお父様と大事なお話をしててよ。女同士だけで話したいこともあるんだから」
いたずらっ子のように笑って可愛くウィンク。
あれ? ロミアちゃん怒っている?
気配察知スキルで、殺気より弱いけど確かな感情のトゲを感じた。
なのに表情は変わらず天使のような笑顔。
「行こう剣豪サクヤ様。今の時間はテラスが最高だよ」
”剣豪”は私の名前の前に必ず入れなきゃならないんですかね。
そういうのに憧れる厨ニ病とか患ってないんで、やめてほしいんですが。
「ええ、私もロミア様とのお話は楽しみです。ラムスがいると会話は全部持っていかれるので、そこにいなさい」
「ぐぬぬうう、女二人でオレ様をのけ者にして。女同士というのは、そんなにいいものか!?」
ドキッ! ……まさか、気づいているんじゃないよね?
ロミアちゃんと二人でお話。
まぁ当然、護衛なんかもついてはいるわけだけど。
でも、万一に訪れるかもしれないチャンスのために。
私はこっそりスマホを出した。
◇ ◇ ◇
天気は曇り。
涼し気な風は心地よくふき、野外のティータイムには絶好の時間だ。
そしてテラスから見下すはるか地上世界は広大にして絶景。
まさに金持ちが見る風景だよね。
そんな場所で、私はうるわしき令嬢ロミアにこれまでの冒険者活動を話してる。
しかし控えめに話しても、私の武勇伝ってすごいものだね。
もうとっくに嫁にいけないレベル。
この世界で暮らしていくなら、本当に女に走らなきゃなんないよ。
「あはっ素敵。本当にサクヤ様ってお強いのね。そんな人、物語でしか聞いたことないよ。弟も、そういう話大好きだったんだよ」
「ではそのうち、弟さんにも話してあげますよ。今日はどちらに?」
「うーん、お話していただけるのは無理かなぁ。ケビンは死んじゃってるし」
げふうっ!
そいうや、前の次期領主はお亡くなりになったって聞いてたっけ。
ロミアちゃん、そんな普通の日常会話みたいに笑顔で言うのはやめて!
「ではサクヤ様。ここからは次期領主として話をします」
いきなりロミアちゃんは居住まいを正し、女の子言葉をやめて事務的口調になった。
「サクヤ様。そのお力、わがリーレット家のために使っては頂けないでしょうか」
「? 領主様からのクエストは、みな受けていますが」
「そうではなく、わがリーレット家に仕えてはいただけないかとお伺いしているのです。待遇は、できるだけサクヤ様の意向に沿うよう努力させていただきます」
ヘッドハンティングきたーーッ!?




