23話 私と狼の会談
ヤバいことを、よりにもよってユリアーナの配下に見られてしまった。
ともかくそのゼイアードが私に話があるというので、さらに森の奥に入っていき、ラムスといっしょに奴の話を聞いた。
「――てなことで、帝室財宝の探索に協力してほしい。ユリアーナが言うには、宝物庫を守る魔獣はかなりヤバい奴らしい。サクヤ。お前なら、どんなヤバい魔獣も相手にすることが出来るだろう?」
まぁ、交換条件としては然程困難でもない仕事内容。
されど、それが問題の悪女ユリアーナの力になることが問題だ。
そんな財宝をユリアーナが手にしたら、ますます厄介な奴になる。
「うーむ財宝探しか。じつに面白そうなクエストだ」
「ダメだってラムス。ゼイアード、仕事内容としては容易いけどね。でもユリアーナに協力することはできないな。少し彼女を調べたけど、かなりアヤしい人物だし。それにセリア様やシャラーンの病も、私はその女の仕業と見ている」
「だったら、どうする。俺を殺すか?」
「いや、それも考えたけどね。やっぱりその理由で人は殺せないな。人を殺す場合は、そいつがモンスターと同レベルで危険な奴じゃないとね。私の甘さかもしれないけど」
「フフン、たしかにアマちゃんだな」
「そういうワケ。交渉は決裂だね」
さて、スキャンダルを握られた私はこれからどうするか、と思っていたのだが。
しかし話はまた以外な方向へと進んだ。
「いいや、まだだ。さっき王妹とシャラーンの病がユリアーナの仕業だと見ていると言ったな? 当たりだ。あれは病じゃねぇ。バーラウムって野郎の呪詛だ。そして、そいつはユリアーナと組んでいた」
ええっ! 自分からユリアーナの悪事をバラした?
そんな陰謀を自ら話したってことは、もしかしてそういう事なのか?
「バーラウム? そいつは何者?」
「サクヤが殺したくせ者だ。あれでもザルバドネグザルの側近。まさか、ああも簡単に殺っちまえるとは思わなかったぜ。ま、そのおかげで、こうやってお前らと交渉も出来るようになったがな」
「なんだ、あのザコか。陰険な術使いっぽい奴だったな。影で動く分には厄介な奴だが、正面きって戦うとカスという奴だな」
「いや、正面きって戦ってもそうとうやるって話だったが……まぁ死んだ奴のことはどうでもいいか。話をもどすぜ。サクヤ。もしお前が帝室財宝をいただくのに協力するなら、俺はユリアーナの追い落としに協力してやってもいい。俺の知っている情報も渡してやる」
ああ、やっぱりそういう事か。
「やはり主人を裏切る気だったか。見下げた奴だ」
「見下げるな。俺があの女を切ろうと思ったのは、シャラーンを消そうとしたからだ。王妹殿下も同様に消そうとしたことといい、陰湿すぎて忠誠尽くす気にならねぇ」
「む……そう言えば、オレ様とシャラーンのリーレット行きを手配したのは貴様だったな。しかたない。そのことに免じて信じてやるか」
「でもこっちに協力するなら、そんな財宝探しに行くまでもないよ。ロミアちゃんでもセリア様でも、それなりの報酬は出してくれると思うけど? 手っ取り早くお金が欲しいならその方がいいんじゃない?」
ゼイアードは「フッ」とニヒルな笑みを浮かべた。
「俺にはな、夢があるんだよ。『獣人の国を作る』って夢だ」
「は? 国?」
クンニならいつもやってるけど? 関係ないか。
「ああ。俺ら獣人はいつも人間どもに見下されて生きてきた。この俺も剣闘士として幼い頃から戦い、どうにか生き抜いてきた。そんな生まれのない獣人が普通に生まれる生きる国を作りてぇんだ。そのために財宝がいる」
なんと。金にがめついだけの奴じゃなかったのか。
「気持ちはわかるけどね。国なんて、お金だけあっても出来るもんじゃないと思うんだよね」
「そうだな。それなりに国家経営のノウハウを持った奴が必要だし、必要なものを揃えるための商人も、獣人の国に店を出すとは思えん。それに他国が承認しなければ、あっという間に攻められて終わりだ。やはりそれなりの血筋の奴を頭に据えなければな」
さすが地に落ちても大貴族の息子のラムス。私より問題の洗い出しが早い。
あ、そんな夢みたいな国作りより、聞かなきゃならない事があった。
「それでアーシェラはどうなの? やっぱり君同様、ユリアーナを裏切るの?」
「いや、ユリアーナからアイツには口外するなと言われているんでな。裏事情を知らんから、裏表ないそのまんまの騎士だ」
「そうか。じゃあ、ユリアーナのやった事を知らせれば……」
「多分ダメだ。それでもアイツはユリアーナのために働く」
「ど、どうして?」
「帝国領にはな、今かなりの元帝国民の難民がいた。モンスターや野盗におびえながら暮らしてな。そいつらをどうにか安全な場所で生活させるには、ユリアーナの話に乗るしかないんだよ」
「ううむ、人を集うための器は必要だからな。それがユリアーナというのはいただけないが、たしかに能力だけはありそうな女だ」
そうか。アーシェラは帝国領に残された人々のためにユリアーナに仕えることにしたのか。
じつにアーシェラらしい。
しかし、だからといって、ユリアーナみたいな危険な女を、やりたいようにはさせられない。
「その難民の人たち、何とかリーレットで受け入れられないかな? 土地が必要なら、私ががんばってモンスターに占領されている地域を開くからさ」
「バカめ。リーレットは対ドルトラル帝国の最前線だった場所だぞ。つまり最も帝国に被害を受け、殺された者がいる地域。前の領主だって死んでいる。そこにドルトラルの民なぞ受け入れたらどうなると思う」
「奴隷だな。それも報復とばかり、思いっきり酷い待遇で飼われるだろうな」
「あ……」
私はロミアちゃんが、殺されたお父さんや弟のことに触れられた時の事を思い出した。
顔はにこやかでも、憎悪が体中に渦巻いているような女修羅を感じた。
ダメだ。とてもドルトラルの難民なんて、リーレットでは受け入れられない。
「話が脇道にそれ過ぎたな。それで、どうだ。俺と帝室財宝をいただくって話にのってくれるなら、ユリアーナを追い落とす事に協力してやるぜ。これでもユリアーナの側近だ。俺の知っている情報はそれなりに役立つはずだ」
「うーむ。キサマの話に乗るのは業腹だが、宝さがしか。面白そうだな。それにユリアーナを追い落とすネタをよこすというなら……」
私にとってはアーシェラのことが本題で、宝さがしなんて趣味じゃないよ。
しかし弱ったな。こうも根が深いんじゃ、とてもアーシェラをユリアーナから引き離すなんて出来そうにないぞ。
「いいだろうゼイアードよ。キサマの話に乗ってやろう。オレ様とサクヤは、キサマと組む」
はぁ? なんで私まで?
「ち、ちょっとラムス、私は宝さがしとか、それどころでは……」
「まぁオレ様の話を聞け。お前はアーシェラをユリアーナから引き離したい。そしてゼイアードは獣人が差別されない国を作りたい。そうだな?」
「う、うん。そうだよ。だから宝さがしなんてしてる暇は……」
「財宝を見つけたら、その金を元手に新しい領を作り、領民に難民や獣人をあてるのだ。そして領主にはアーシェラを据える。たしかアイツもそれなりの貴族の血筋だったろう?」
―――!!!?
「ゼイアード、そこをお前ら獣人が差別されない土地にすればいい。それで、すべてが解決だ」
「……とんでもない事を考えるな。本気か? いや、それ以前に本当に出来るのか?」
「細かい事はセリアに考えさせる。アイツもユリアーナを追い落とし、帝室財宝の使い所が出来、さらには国力も増えるとなれば、いくらでも手をまわすはずだ」
さすがラムス! 他人の力アテにしまくりでも、目標を考えるのは上手い。
それならアーシェラをユリアーナから完全に離すことが出来る!
「ゼイアード、それなら私は力を貸すよ。君もそれで良い?」
「なるほどな。たしかにアイツを頭に据えるのは悪くねぇ。しかしアイツの性分じゃ、ユリアーナを騙すのは無理だ。アイツに知られないよう俺らだけで秘密裏に事をすすめねぇとな」
「いいよ。秘密のまま財宝を探して、最後にユリアーナを追い落としてアーシェラが領主だ」
「ふふん、オレ様の素晴らしいアイデアで決まりだな」
「しかしな。計画にはセリア王妹殿下が手をまわすって事だが、病は大丈夫なのか?」
「それなら、さっきサクヤが治したろう。問題ない」
「はぁ? ただ治療と称してヤっただけじゃねぇか! 問題だらけだ!」
しかして、もどってセリア様の様子をうかがうと、すっかり回復してた。
テキパキと侍女や騎士に指示をして帰還の準備を進めていたのだった。
「おいおい、こりゃどういうこった? サクヤ、マジでヤった相手を治療するスキルでも身につけたのかよ」
私じゃなくて真琴ちゃんだけどね。
さすがに教えたら真琴ちゃんの身が危うくなるから教えないけど。
「方法なんてどうでもいいじゃない。さて、セリア様にこれからの話を持っていこうか」




