10話 真琴ちゃんと異世界へ
私の元いた高校では、教師と生徒三人の遭難事故という騒動があったものの、無事に卒業式終業式が終わったようだ。
私は仲良しだった元後輩の唯ちゃんに最後に会っていくことにした。
彼女には『童貞探し』なんてトンデモな頼みをしてしまったことでもあるし。
「鹿島センセと登山同好会の三人が、ウワサになっている剣王ヶ岳に行ってたんですよ。十日間も猛吹雪で身動きとれなかったうえ、大型雪崩までおこっっちゃいますた。なのに全員生きて帰ったんですよ。テレビとかで名のあがる某高校教師(27歳)って、鹿島センセのことなんですよ」
うん、知っている。私もそこに居たし。
「フ、フーン。ソウナンダー。チットモシラナカッタナァー」
「それで! 最大のミステリーの大剣を背負った女に鹿島センセ、会って話したそうなんですよ。剣王ヶ岳の真実うんぬんのくだりも、鹿島センセが聞いたんですよ」
ハッハッハ! 何だよ『剣王ヶ岳』の真実って~。
ばっかじゃねーの。学者が剣王ヶ岳の歴史まで調べて考察とか。
全部、私のデタラメに決まっているだろ~。
「彼女が氷点下の吹雪の中、裸にマントなんて恰好でいられる理由とか聞いたら、鬼気迫る表情で剣を首元に当てられたそうです。いったい彼女は何を知っているのか」
『鬼気せまる表情で剣を首元に当てられたしなめられた』ってのも何だよ。顔はカイロ・レンマスクだったからね?
昔、担任だった鹿島センセに正体を聞かれて、パニくって、妙な厨二設定語っちゃいました。
「剣王ヶ岳の真実を守る謎の女剣士。いったい正体は何者なのか」
「さぁね。その話、もっと聞きたいけど、そろそろ戻って出発の準備しないと。真琴ちゃんの見送りさせてあげられないけど、ごめんね」
元気よく剣王ヶ岳ののミステリーを語っていた唯ちゃんは、途端にちょっとしんみりした顔になる。
「そっか。野花センパイともまたお別れなんですね。なのに、こんな話ばかりしちゃいました」
「別に内容なんてどうでもいいよ。ただ、行く前に唯ちゃんと話したかっただけだし」
「あはは。でも、やっぱり今やっているゲームの話とかでもすれば良かったですかね。私たちの会話って、そればっかだったし」
それはもっとダメだ。私の今いる場所はゲームなんてない場所だから、全然やってないし。
「じゃあね。唯ちゃんも元気で。今夜、真琴ちゃんと行くよ」
「はい、野花センパイも。真琴のこと、しっかり守ってあげてください」
「うん、必ず。一年間しっかり守ってみせるから」
そうして、私は唯ちゃんと別れて歩き出す。
唯ちゃんとゲームで盛り上がった日々を思い返すと、少しだけ切なくなった。
さようなら。多分だけど、もう会うこともないだろうね。
そして、私はあっちの世界に帰還すべくお兄ちゃんのタワマンに来た。
そこで見たお兄ちゃんは、いつになく憔悴したように見えた。
「お兄ちゃん、もしかして疲れてる? なんかダルそう」
「ああ。人間の身で【物質生成】なんて創造神の術を使うのは、やはり消耗するな。しかし満足のいく仕上がりにはなった」
「……ああ、そういや冬山にリソースを採りに行ったのも、それが目的だったっけね。遭難者の救出とかしてたせいで、すっかり忘れてた。それで、それが真琴ちゃんと何の関係があるの? 何の物質を生成したの?」
「見ればわかる。そっちの部屋に真琴が寝ているから、見るがいい」
真琴ちゃんを異世界に連れていくのは、眠らせたまま逝くことになる。
何のことはない。私が前にやられた事と同様のことをするのだ。
で、部屋の中に入ってみると、真琴ちゃんは下半身が何もはかされずに寝ていた。
「ちょっ! お兄ちゃん、女の子をあられもない姿にして何してんのよ! ああ、もう真琴ちゃんのパンツはどこに…………え?」
はからずしも、女の子のハダカは何度も見てきた私だ。
しかし、これは初めて見る。こんなモノのは見たことがない。
最初は不思議に、だけど、それが何なのかを理解した瞬間パーになった。
「ぎゃあああああああッ!!!!!? な、なんでえええええっ!!!」
パニくった私は、お兄ちゃんの元へ逃げ出した。
「ええい、やかましい。真琴があっちの世界に送る前に目覚めたら面倒だろうが!」
「なななななな、何で真琴ちゃんに、おち……モゴモゴ……”象さん”がついてんのよ!!!」
そう。真琴ちゃんのおマタには、なぜか男の子のモノがついていたのだ!
「ニブい奴め。オレが真琴の奴に千五百万でやとった仕事は何だ?」
「え? えーと童貞の体験モニター……だったよね。でも真琴ちゃんは女の子なのに、なぜか、そのまま話を進めちゃって……まさか⁉」
「やっと気が付いたようだな。オレは創造神の力で、”象さん”を創造したのだ!」
「な、なんだってぇーー!! お兄ちゃん、なんてことを!」
「フフフ、フタナリと化した真琴の性欲をモニターすることで、オレの真のエロゲは生まれる! 待つがいい、ユーザーどもよ。フハハハー!」
ガクリ膝から崩れおちた。
この……マッド邪神め! まさかエロゲ製作のために”象さん”まで創造するとは!
ごめん、唯ちゃん。すでに真琴ちゃんを守れてなかったよ。
「ククク、しかし真琴が目を覚ました瞬間を見れるとは羨ましいぞ。目を覚ましたら異世界でビックリ。自分の股間の”象さん”を見てまたまたビックリ。ダブルショッキングにあわてふためく様がじつに楽しみだ。なぁサクヤよ。フハハハア!!」
ヒイイイイッどうしよう。なんて説明すればいいんだああっ!!
「も、元にもどせるんだよね?」
「もちろんだ。一年後戻ったらちゃんと外してやる」
はぁ。もうやるしかないか。
真琴ちゃん。最初から仕事は『童貞のモニター』だって言ってあるから、きっと自分の象さんとも向き合えるよね?
リビングの準備してある転移陣に真琴ちゃんを寝かせて、私もそこに立つ。
「よし、では送るが……そういや真琴の職業は何にするかな。サクヤ、リクエストはあるか?」
「何の話? まず職業とかがわかんないんだけど?」
「むっ、そういえば話してなかったな。転移陣は『ラムスクエスト』”のゲームプログラミングによって向こうの世界とシンクロさせて、こっちの世界と繋いでいるのだ。そしてこっちの世界の住人を向こうへ送るには、ラムスクエストのゲーム内キャラとして変換しなければならないのだ」
「キャラにはそれぞれ職業が与えられているわけか。当然、レベルアップなんかもするんだよね?」
「ああ。お前にはオレが力を貸すことでレベルアップを促進したが、それがなくとも、それなりには成長する」
ラムスクエストで使われている職業を思い出して考える。
剣士、格闘家、黒魔法師、白魔法師、盗賊、遊び人。
この六つの基本職業から選ばなければならないらしい。
しかし帰ったあともスキルが残るとなると、慎重に考えねばならない。
まず私と同じ『剣士』および『格闘家』はダメだ。
強くなりすぎると、私みたいにこっちの世界で暮らせなくなってしまう。
『盗賊』もスキルのせいで道をあやまってしまうとマズイので却下。
『お金に困ってつい』なんてこともあるからね。
『遊び人』は……無難ではある。が、そこはエロゲーの職業。
とにかくエロいイベントが他よりやたら多い。上級職の踊り子になったら、エチエチ生活でエチエチ半裸で生活することになってしまう。下には象さんまでいるのに。却下だ。
となると、魔法師か。
黒魔法師は攻撃呪文中心だが、攻撃呪文なんかおぼえて現代に帰ってくるのは危険すぎる。
やはり白魔法師か。
攻撃呪文はナシで、回復、補助魔法を覚えていく職業だ。
…………いいんじゃないかな?
回復魔法は医療術ということでごまかせるし。
「決めたよ。真琴ちゃんのクラスは『白魔法師』だ」
「よかろう。では、しっかりやってこい」
こうして私と真琴ちゃんはあっちの世界へ。
…………象さんんのこと、どう説明しようかなぁ。




