EP7.ようこそ、クロノイア商会へ
「スゥ……ハァ……。お見苦しい姿を見せてしまい申し訳ありません。ようこそ、クロノイア商会へ」
全と同い年くらいのリーシアは、涙の跡を残しながら凛々しさを演じる。
カナリアは彼女の介抱に疲れたようで、ギルド奥に設けられた和室らしき部屋に腰を下ろしていた。
「事のあらましは聞きました。異世界から来られて、どうしてそうなったかを知りたいということですね?」
全は肯定の意を込めて首を縦に振る。
すると、リーシアは整頓された本棚から数冊の書物を引っ張り出してきた。
「異世界関連の話はいくつかあります。例えば、フレイアの魔術もしくはその副産物、セキロウの竜信仰……。各種族に転移関連の伝説やおとぎ話があり、その過半数はフレイア族の魔術と繋がりまして、フレイア族の魔術といえば──」
リーシアは親切なのか、ただただ喋りたいだけなのか、話が徐々に関連性の無い話題へと変化していく。
無垢な瞳で話しているため、全は話を遮れず、フレイアの魔術やらなんやらと話され、一時間ほど時間経過した。
「──という伝説が一つ目でして、次がですね」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!今みたいな話がいくつあるんだ?!」
「たったの五十……」
「そのうち現実味があるのは?」
「えっと、今の話を含めて三つくらいですかね?」
「じゃあ、その三つを噛み砕いて教えてくれ」
リーシアは残念そうな表情を見せつつも、渋々「わかりました」と答えてくれた。
「二つ目は『四人の特異騎士』という半年以内に生まれた噂ですね」
「わりと最近の話なんだな」
「えぇ、それに加えてあなたが異世界からの来た人ということで現実味を帯びたのです。正直、異世界関連の話の元は大抵が嘘です。でも──」
「俺が異世界から来たということであれば、他にも同じような事象が起きているかもしれない。つまりはここ最近で発生した噂なら手がかりになるわけだな」
リーシアは話の骨を折られ、少々不満げな顔をしているが「そういうことです」と肯定した。
「そして最後の話は、『御伽の英雄』という伝記です。転生や転移という事象が起きたとは記されていませんが、最後の一節に当時の兵器が『跡形もなく消えた』と記されています」
「つまりは他の世界に転移したかの可能性があると?」
「そういう仮説もあるっていう話ですけどね。封印説や空想説なんていうのも存在します」
「聞く限りは特異騎士ってやつが一番怪しそうだな……。どういった噂なんだ?」
「特異騎士は──」
リーシアが喋り出すとほぼ同時に崩落でも起きたかのような衝撃音が鳴り響いた。