EP6. 中央都市ノウリタス
猛走に耐えること四時間、カナリアは唐突に足を止める。
衝撃に敗北した全はカナリアに下ろされると、間髪入れず地面へと嘔吐した。
「予定より一時間ほど遅くなりましたが着きましたよ」
嘔吐直後の独特な疲れに抗い、四つん這いの状態から全はカナリアを見上げる。
その後ろには、頂上を目視で確認できないほどの壁が円形状にそびえ立っていた。
「この街壁を越えた先が、アナザーの中央都市『ノウリタス』になります」
――――――――――
「カナリアのお連れさんなら今回だけは通してやるか……」
五十代ほどの片目の門番は、カナリアと全の身分確認に頭を悩ませている。
この街に入るには生まれてすぐに貰える『所在確認印』もしくは『職業証明印』なるものが必要だが、アナザーに転移した全はそんなものを持っているはずもなく、今に至る。
しかし、カナリアと門番が顔見知りということもあり、今回だけ特別に通してくれることとなった。
「キテツさん、ありがとうございます」
「たまに君らのギルドが報酬で貰った酒やら食べ物を分けてくれてるお礼だ。でも、本来は職務違反になるから早いところ職業証明印を発行してくれな」
「ありがとうございます。今度、上質なお酒でも差し入れにきますね」
キテツは満面の笑みで手を降って見送ってくれた。
門をくぐるとレトロな街並みが広がっており、建造物の前を人とは少し違った生き物が行き交う。
その手の甲には朱色に輝く刻印が描かれている。
ふとカナリアの手を見ると、彼女には朱色の円が刻まれていた。
「これが職業証明印です。ギルドは何でも屋という意味で円には何も描かれていないのです」
「じゃあ、手を見れば仕事が分かるのか」
「えぇ。では早速、ギルドに向かいましょう」
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着いた場所にはギルドより古本屋が連想しやすい古びた木造建築があった。
木は黒ずみ、掛けられている暖簾が老舗感を匂わせる。
呆けている全を気にすることなく、カナリアは暖簾をくぐりか「ただいま戻りました」と店に響くほどの声で発した。
遅れて全も入り、中を見渡すと壁には敷き詰められた書物が並べられていた。
全が雰囲気に圧倒されていると、奥のカウンターらしき場所から急かした足音が鳴り響く
「カ"ナ"ア"ァァァァァァァ」
その人物は目と鼻から透明な液体を撒き散らしながらカナリアに抱きついた。
「リーシア、帰るのが遅くなりました。森で横にいる彼に……」
リーシアと呼ばれた少女は、カナリアの言葉を遮るように大声で泣いた。
「……カナリアさん、ギルドにはどれくらい帰ってないんです?」
「昨日からの依頼ですので、一日くらいですね」
「……大変ですね」
「もう慣れました」
泣き声が響く店内で二人は明後日を見て立つことしかできなかった。