EP4.目覚めた先は……
全は目を覚まし、眼前の焚き火を直視した為に目をすぼませる。
周りを見渡すと、焚き火の明かりで木々が生い茂っている場所にいるのだと理解した。
その木々の先は、夜間ということもあり暗闇が続いていた。
寝起きの時と同じように意識が朦朧とする中、ふと先ほど起きた事象を思い出したことにより目が醒め全身を確認する。
腕はあるか。
足はあるか。
死んではいないか。
躊躇なく自身の体を調べ背中に触れた時だった。
言葉を発することさえ出来ないほどの激痛が背中に走り、一瞬呼吸が止まった。
「動かない方がいいですよ」
全は声がした右隣へと視界を送ると、銀髪の女性が全と同じように木に寄りかかっている。
「骨は折れていませんが、肉体を水面に強く打ちつけたんです。それなりに体を痛めているでしょう」
女性の言葉を聞き、全はゆっくりと背後の木へと腰を預けた。
そして、考え込むように真っ黒な夜空を眺める。
「……ここは日本か?」
全がその質問を聞くに至るまで、長くはかからなかった。
近代の土地には似合わない樹海から海外で
何より───。
「いいえ。そもそもニホンという地域は聞いたこともありませんね」
薄明かりの中、うっすらと見える女性は悩むように顎に手を当て、その状況に反応するように頭上の耳が動く。
「はぁ……。もしかしたら動物の耳を被っているとか、実は夢でしたとか、そういう類いかとも考えたけどどうやら現実らしいな……」
手で触れることなく動く動物の耳と肉体に蝕む痛みが、全に現実を見せつけている。
ここは紛れもない異世界なのだと。
「記憶でも混濁しているのですか?」
全を心配する女性は、相も変わらず丁寧な口調で話しかける。
頭を抱えた全だったが、一つ深呼吸をすると女性に目線を向ける。
「おそらく俺はこの世界の人間じゃない。現実味のない話だが、おそらく異世界転移というやつだと思う。こっちの世界で他の世界に繋がる方法だったり、逸話とかはないか?」
薄明かり越しに見える女性は、一瞬目を見開いたが全の容姿やその口調から嘘はついてないと判断し、続いて口を開いた。
「私はそういった歴史や文献の知識が疎いものでして……。ギルドマスターなら何かご存知かと思います。そちらの話を信じる限りであれば、アナザーに頼れる方もいないでしょうし一度来訪されてはどうでしょうか?」
「そうだな……。しかし良いのか?自分で言うのも変な話だが、俺は突拍子もない話をしている。傍から見れば、十分怪しい人間だと思うが……」
女性は再び目を見開き、今度はため息を溢した。
ゆっくりと立ち上がると深く息を吸い込み、吸い終えると唐突に背後の大木を勢いよく回し蹴る。
大木は二、三人が手を繋ぐことで一周できる程に太く、手斧で切り落とすにも数日かかるだろう。
しかし、一撃を与えられた大木はその屈強さが嘘のように一秒も満たないうちに一線のヒビが入り、樹海の木々へと倒れこんだ。
「私はこれでもギルド-クロノイア商会-で一番強いと言われております。生まれつき身体能力が高いアニマ族でもあります。失礼も承知で申し上げますが、あなた一人に負けるということは万が一にもあり得ません」
一目見ただけであれば、胸部の発達した礼儀正しい二十前後の女性だ。
そう思っていた女性が起こした予想外の出来事から呆気に取られる全だったが、すぐさま落ち着き苦笑いを見せる。
「さ、さすがは異世界だな……。常識なんて通じないか……。でもまぁ恩人に敵意なんて一欠片たりとも無いから、安心してくれ」
全の発言を信じたのか、女性は手を差し出した。
手を握ると決して気を抜いていないことが伝わってきたが、全はその力に頼るように立ち上がった。
「俺の名前は成崎 全だ」
「私はカナリア、カナリア・フォクシミルと申します」