EP3.Aのペンダント
二人がお揃いのペンダントを購入してから1ヶ月が経つ頃の土曜日の夜、全は家の掃除に勤しんでいた。
一が友人と出掛けてから八時間近く経過し、その間に洗濯と夕食の下ごしらえを終わらし、掃除も残すところ一室までとなっていた。
「一の部屋に時間がかかったが、夕食までには終わりそうだな……」
誰もいない部屋で疲労が貯まっていた全は独り言を漏らす。
俯き掃除機に預けている体を持ち上げると、胸元のペンダントが目に入る。
「そういえば、なんで全兄はZじゃなくてAのペンダントなの?」
あの日から数日後のこと、一はそんな事を聞いてきた。
「私にはイニシャルのHを渡したのに、全兄はなんでイニシャルじゃない?」
「あぁ、一の為にHのペンダントを選んだ後に俺も欲しくなったんだがZのペンダントは無かったんだ。他にも無いイニシャルもあったから、AからZまでそれぞれ一品限りの商品だったんだろう。で、全は英語でオールだから頭文字のAにしたんだ」
全はペンダントを選んだ理由を包み隠さず話す。
一はそれを聞くと「そんなにお揃いにしたかったの……」と引き気味に返答した。
「そんなに兄妹でのお揃いは嫌なのか……」
後日の会話を思い出した全は落胆した。
掃除の手を止めて立ち尽くす全は、ペンダントを手のひらに乗せる。
その時、ペンダントの装飾品部分が反射しやすい素材で出来ていた為に、収束された部屋の光が全の目へと直撃する。
全の目が完全に閉じる前に、一瞬だが反射部に赤髪の人影を見た。
「っ……!」
眩しさから完全に目を閉じた全が、ペンダントに写った誰かを確認しようとペンダントをもう一度見ようとした。
目の前には例のペンダントがいつも通りに銀色の装飾部を輝かせていたが、周囲は先ほどまでの光景と一変して、木々が生い茂る樹海が広がっていた。
「え?なにこ───」
全は驚いた。
続いて、周りの風景が変わっていることより、自身の現在地に恐怖を抱く。
そこは周囲の樹木よりも高い空中だった。
「あ、これはまずっ……!」
刹那、物理法則に準ずるように体は地上をめがけて急速に落下する。
その速度は徐々に加速していき、このままでは地面に叩きつけられて死ぬと全に感じさせる。
母さん、一、それに父さんごめん。
走馬灯とも思える思考が全の思考を埋めつくす。
そして、走馬灯が走り終えてから一秒経つより早く、樹海に強烈な接触音が響いた。