EP2.プレゼント
一が全の弁当箱を間違って持って行った同日、二人は一軒の古びた雑貨店へと出向いていた。
全の帰宅早々に一が逆ギレをしたのが発端で、妹の機嫌取りもかねて一の趣味に付き添っている。
雑貨店という場所に初めて訪れた全をよそに、発端の一は部屋の装飾に使うであろう小型のランタンや本の形をした置物などを手に取り見つめる。
「全兄!この鉢植えちっちゃくてすっごく可愛い!」
一は少し離れた位置から全にも見えるように商品を頭上に掲げた。
「確かに可愛いが、何も育てないだろ」
「分かってないなぁ……。こういうものは植物を育てる以外にも小物入れに使ったり出来るんだよ?あ!」
何かを見つけた一は、鉢植えを戻して別の商品を手に取る。
何が楽しいのか分からない全だが、一が目を輝かせながら喜んでいる、それだけで満足はしていた。
しかしながら、一をただ見つめながら待っているのも退屈な全は自分の回りに展開されているアクセサリーコーナーを物色する。
カップルが買いそうなペアリングや、男子中学生が好きそうな武器モノまで豊富なアクセサリーが店員の技術でお洒落に展示されている。
その陳列を見ていた全は、ふと一つのアクセサリーが目に入った。
「これは──」
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「せっかくだし、何か買っとくべきだったかな……」
楚々るものがなかった一は、後味が悪そうに落ち込んだ表情を見せる。
「今から戻るとか言わないでくれよ?もう結構戻ってきたところだぞ」
「むぅ……」と全を一瞬睨み付け言葉を詰まらせる一は、店でのテンションが嘘のようにトボトボと歩く。
「はぁ……、今度渡そうと思ってたけど仕方がないな」
全は足を止め、そう言うとショルダーバッグを開く。
一は上の空で全が何を言ったかを聞き取れていなかったが、足を止めた全を見て同じく立ち止まる。
全はバックの一番上に入れた小さい紙袋を取り出し、一の眼前に掲げた。
「今年の誕生日プレゼントだ。まだ二週間早いけどな」
一が言葉より先に手を伸ばし袋の中身を確認すると、中には一つのペンダントが入っていた。
「丁度、一のイニシャルのペンダントが売っていたから買ったんだが、どうだ?」
「……、女の子にHのペンダントはどうかと思うよ?」
予想外過ぎる返答に全は思わず「はぁ?!」と口を漏らした。
「まぁでも?全兄にしてはセンスは悪くないんじゃないかな。デリカシーは無いみたいだけど」
「そこまで言うなら今すぐ捨ててきてやろうか!」
全が一の持つペンダント目掛けて手を伸ばすが、一は滑らかに避けてみせる。
一はそのペンダントを首にかけるとあざとそうにも見せびらかすように全を見つめる。
「もう私がもらったんだから、勝手に捨てさせないよ?」
振り回された全は頭を抱えるが、内心嬉しそうな一を見て呆れつつもため息を一つこぼして一の頭をなでる。
「俺とのお揃いだから大切にしろよな」
そう言って全は身に着けているAのペンダントを一に見せつける。
「え......、お揃いとか嫌なんだけど......」
ひと時でも可愛いと思った妹の一言に全は改めて苛立ちを感じた。
翌日、夜中の歩道で「返せ」「嫌だ」と連呼し合う男女の話がSNS上で話題となり、二人がその話を知ったのは二日後のことだった。