EP1'.同級生の三人
「いい加減落ち着けよ......!」
「落ち着けだぁ?そうねぇ、あんたを一発ぶん蹴ったら考えてもいいわね!」
男女の争う声が昼過ぎの教室に鳴り響く。
男は女からの一撃一撃を躱しつつ、女はその度に機嫌を悪くする。
息を切らし怒りが怒髪天を突いた女は、真横の椅子に目線をやり満面の笑みを浮かべる。
「お、おい?涼花?そ、それは流石に止めないか?」
「あらさっきまでの威勢はどうしたのかしら、烈?逃げてもいいのよ?」
「たかがプリン一口でそれはやりすぎじゃあないかな?!」
「一口で半分喰うアホがいるかぁ!」
涼花は高々と椅子を持ち上げ、烈こと烈次へと襲い掛かる。
他生徒はそれを止めるどころか「飽きないねぇ」「また夫婦喧嘩かよ」と笑っていた。
「ふ、二人ともそろそろ先生きちゃうよ!」
声を震わせながら同学年にしては背の小さい同級生が、烈次の進行方向に立つ。
烈次は避けようと方向転換するも躓き、同級生を押し倒した。
「すまんなゲ────」
「ゲイル?そのままそのド畜生を捕まえててもらえるかしら?」
涼花はいつの間にか持っていた椅子を降ろし、指を鳴らしながら烈次へと近づく。
「親友のピンチにゲイルが俺を捕まえるわけ────、あれぇ?」
「ご、ごめん......」と今の涼花に恐怖を覚えたゲイルは烈次の腕を掴む。
「安心して?死なない程度にぶちのめしてあげるから」
「お、女の子が使うセリフじゃないと思いますよ?す、涼花さん?」
その直後、教室に鈍い接触音が響いた。
────────────────────
「ごめんね?烈......」
烈と屋上で二人っきりのゲイルは女々しくも俯きながら、烈にかれこれ十三回目の謝罪を述べた。
「ゲイルが涼花をなだめてくれたおかげで、今こうして放課後を迎えれてるんだし、そもそも俺があいつにちょっかいを掛けたのが悪い。だから、お前は気にするなって」
「あ、ちょっかいを掛けてる自覚はあったんだ......」
烈次はゲイルが漏らした一言に返答することなく、グラウンドを走る陸上部員を見つめていた。
一極集中で見つめる烈次の目線を追うと、そこには涼花の姿があった。
そんな烈次をゲイルが見上げていると、ふと左を向いた烈次とゲイルの目線が合う。
「あぁ、まぁそういう約束だからな」
「約束?」とゲイルがその内容について聞こうとしたタイミングで、下校を伝えるチャイムが鳴り響く。
「さてと、そろそろ涼花を迎えに行くか。プリンの一件でパフェをご所望だからな」
ゲイルは急いで鞄を手に持ち、烈次の後ろを追いかけた。