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Prologue:御伽の英雄

 この世界には五つの種族が存在し、互いが国を持つようになってからというもの、殺し合いが絶えず行われていた。


 上位の種族にはアニマ、シーフ、フレイア、セキロウという個体名があり、四種族はそれぞれ獣、森、魔法、技術の神に愛されていた。

 そして、そのどれにも満たない生物はイーグナーという種族名を与えられていたが、他種族が彼らをその名で呼ぶことはなく、下等生物として扱った。

 最下位の種族にはこれといった才も抗う術もなく、捕らえられた者は捕虜として道具同然に扱われ、歯向かう者は無残な死を遂げる。

 惨劇は十数年にも及び、その間に最も多かったとされるイーグナーの民は六割もの命を落とした。

 かつては存在した王族も貴族も下民も滅び、民の全てが貧民化し、苦しみから逃げる為に自ら、更には家族諸共、身を捨てる者こそ現れ始めた。

 イーグナーの民はそこまで追い詰められ、苦しみ諦めていたのだ。


 ただ一人の女性を除いて。


 女性に声を掛けた男が一人。

「アニマのように屈強な力はない」と。

「シーフのように自然は味方してくれない」と。

「フレイヤのように魔法は使えない」と。

「セキロウのように未来を見据えることはできない」と。

 諦めろと幾度とその者は訴えた。

 女性はその度に「約束だから」と胸にかけた装飾品を強く握りしめた。

 女性は無意味にも武器を作り続けた。

 五年も前に命を落とした鍛冶屋の婚約者を思いながら。

 鉄を打つ前に彼の遺骨を混ぜて作った胸飾りへ祈りを捧げ、汗と涙が混じった液体を流しながら、武器を作り続けた。


 とある朝、女性の様子を見ようと現れた男は、扉の向こうに見えた光景を後世に残すべきだとその日から手記を綴り始める。

 女性の胸元が鮮やかな紫に光っていたのだ。

 男が唖然としていると光は徐々に消え、胸飾りを中心に黒い煙を放出し始め、女性を覆いつくしてしまう。

 助けようと駆けた男だったが、女性を取り込んだ黒煙が衝撃と共に払われ、男は壁へと打ち付けられる。

 後頭部を激しくぶつけた男は、頭を擦りながら女性が立っていた場所へと目をやる。


 そこには見るだけで死を連想させそうなほどに濃黒い鎧を纏う剣士が何もない天井を見上げて立っていた。


 これが初めてイーグナーの素質を開花させた事例、「黒鎧のアシュバトリー」となった。


______________________


 アシュバトリーの名が広まるのは早かった。

 種族不明の女剣士が四種族が抵抗する間もなく、降していったとイーグナーに希望を与えた。

 アシュバトリーの元には人々が群がるようになり、協調性のない彼女に代わり男があることを提案する。

 その提案の元に彼女を抜いて二十五の剣士が誕生する。

 そのうち二十名は男が選び抜いた反逆の意思を持つ者たちだった。

 残りの五名のうち、二人は彼女の気まぐれで決まった。

 

 最後の三人を決めようと、彼女が候補者の集まりへと向かう時のこと。

 路地裏に隠れ住む三人の青年と出会う。

 その目には恨みが籠っていた。

 彼女は彼らに「一緒に来るか?」と問いかけた。

 三人は彼女と生活を共にし、五年の月日が経つ頃には、彼女に匹敵するほどの剣士へと成長した。

 「アシュバトリーの子」と呼ばれた三人は、彼女を実の母と思うほどに慕っていた。

 その頃には、他種族間によるイーグナーへの圧政は二十六の剣士のおかげで逆転しきっていた。

 誰が付けたか、彼らの能力は「ノウン」と呼ばれ、彼ら自身は「プロノウン」と呼ばれるようになった。

 このまま、イーグナーは四種族を完全に降しきると誰もが思っていた。


______________________


 イーグナーの生活が平穏へと転換し始めた頃のこと。

 不幸なことに、四種族が同日にイーグナーの首都を襲った。

 首都は数分で業火に包まれ、空気に混じった死臭が町を覆う。

 アシュバトリーの子が母の元へと向かうと、そこはもぬけの殻だった。

 彼らは四種族を倒しつつ、母を探した。

 その一人が十字路の中央へ立ち、右へと首を向ける。


 致命傷と見て分かるほど大きな穴を開けられた母が、死してなお後ろの少女を守ろうと立ち尽くしていた。


 その後、彼らプロノウンがどうなったか、知るものはいなかった。


 一夜明け、この世からノウンとプロノウンが存在しなかったかのように跡形もなく消え、種族間による争いは幕を閉じた。

 そして、二度と争わぬ為に、男の手記を元にこの伝記を残す。



初代英王

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