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勇者の従者  作者: さねよし
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勇者、現る


高らかに響くファンファーレ。

大通りに集った民衆。

そのど真ん中を華やかに行進する一行の、

そのまたど真ん中にいる、大仰な飾りをつけた馬に乗った少年が一人。

なんとか笑顔をつくろうとしているが、だいぶ顔が引きつっている。

そんな彼の手には少々古いデザインの剣が抱かれていた。


つい数日前のことである。


この国、ルーン王国には古くから伝わる聖剣があった。

王城からまっすぐのびる道をずっと行った先に広がる中央広場。

そこには星屑がつまったような不思議なきらめきを閉じ込めた巨石があった。

その巨石の中央につきたてられていたのが、500年前、ルーン王国のあるウォカーブルム大陸を掌握せんとしていた魔王を倒し、大陸に平和をもたらした勇者の剣である。


勇者の剣は勇者の資格を持った者にしか引き抜けないとされ、

事実この500年間どんなに剛腕の者でもその剣を引き抜くことはかなわなかった。

しかし、大陸や王国は大きな問題もなく平和であり、力自慢の腕試し程度の意味合いしかないまま、長い歳月をすごしてきたのである。


しかし、ここ数年で徐々にではあるが確実に、不自然な争いや小さな集落の突然の消滅、魔物の出没数の増加、それに伴う行方不明もしくは死亡が増えてきていた。

それに伴う治安の悪化や、商業の衰退もみられるようになってきており、つい1年前には魔物の大群が国境付近に押し寄せ、辛くも勝利を収めたものの、その被害は甚大なものであった。


それに困窮したルーン王国の国王は国中の力自慢や腕利きの剣士などを呼び寄せ、巨石にささった勇者の剣を引き抜かせるといった催しを行ったのだった。


しかし500年もの間みつからなかったものがたやすく見るかるわけもなく。

かといって国の窮状を打破するには勇者という存在が必要だとした国王は、国の騎士団、国家魔法使い、果ては旅人まで片っ端から勇者の剣を引き抜かせていった。


それでも誰も見つからず、とうとう困り果てた数日前のことである。

一人の少年が勇者の剣を引き抜いたとの知らせが国王にもたらされた。


そして王城に勇者の剣とともに連れてこられた少年こそ、

冒頭の馬にまたがった少年、ティールである。


武器装具屋の小間使いとして働いていた彼は、身寄りもなく生活資金のためにひっきりなしに働いており、勇者の剣を引く抜く機会がなかった。

しかし、偶然お使いを頼まれた際、広場の勇者の剣に興味を持ち、近づき触れてみた。

500年間もの間、引き抜かれたことがないことは知っていたため、冗談半分で力をいれた際、スッと何の苦も無く引き抜けてしまった。

それが物事の顛末だったらしい。


国王は大層よろこび、あれよあれよという間にティールは武器装具屋の小間使いから、王国の勇者としての地位と称号を用意されてしまい、勇者として国民へのお披露目として冒頭のパレードに祭り上げられてしまっていたのであった。






さて、ここまで話してきたが、タイトルを読んでいただこう。

ここまで話してきたのは、そのティールが乗った馬のそばに控えるマント姿に片目を隠したティールと年齢がさほど離れていないように見える少年である俺、名をユルという。

国王がティールを勇者として祭り上げる際、勇者としての旅に必要な、いわゆるパーティをこしらえる必要があり、そのうちの従者として滑りこんだ。

一応、従者という名の、役割としては『戦士』といったところか。


ここまで詳細な顛末を知っているのは、この一個師団くらいになるパーティの中でも俺と当人のティールくらいであろう。

それ以外は彗星のごとく現れた救世主としてティールを見ている。

やや小心者の彼にとってはかわいそうなことだ。


しかも500年前の勇者が、宴の際にいささか酒に酔いすぎて、その場のノリと勢いでたまたまあった巨石につきさしてしまった剣を引き抜いてしまったばかりに勇者に祭り上げられてしまったことに関して、不憫極まりないうえ、当事者として罪悪感がある。




そう、あの剣は1000年前の大魔法使いが予言した500年後の勇者である、俺の剣である。





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