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一族は皆殺しに限る  作者: なるせ
5/11

 


 叱りつける様を見ていた。

 広い廊下、俺の後を着いてくる侍従や女中、斜め後ろだが一番近くに控えるウィリアム。

 歩くだけでその場の者が足を止めこうべを垂れる。何も変わらない日々。しかし悲鳴が響いた。

 そこはメイの部屋だった。元より爺やより通わなければ結婚の意味は無いし意図が透けると耳にタコが出来るぐらい言われたから三日開けずに訪ねていた。

 立ち止まる俺にウィリアムは頭を下げて少しだけ襖を開けた。

 メイは濡れ、床に倒れていた。近くには公爵令嬢。花瓶は割れ急須がひっくり返っていた。白い百合がヒールによって踏み潰されている。

 叱りつける様を見ていた。ただただ見ていた。助けるとか助けないとかそんな考えは全く出なくて詰られる様を、痛めつけられる様をただ風景のように見ていた。

 我に返ったのは俺の身の回りの世話を任された爺やの息子弥太郎が俺の前に立ってからだった。

 やっと彼女たちから目を離す。そして気付いた。恐らくショックを受けていたのだと。いつか幼少で見た"あの記憶"に感化され呆然としていたのだと。



「神聖なる皇宮で何をしている……!」



 弥太郎が殴り込むように襖を開けた。バタン、と大きな音がして彼女たちはビックリしてこちらを見た。

 やっと言葉を覚えた俺の婚約者は唇を震わせた。聞こえない、聞こえはしないが『へいか』と口が動く。こちらを見て涙を流した。可哀想、という感情はあった。ウィリアムの時のように胸が熱くなるような、人に父に逆らいたくなるような熱量はなかったけれど。



「あっ、わっわたくしはっ、違うのっ!この子が結婚なんて嫌だってわたくしに物を投げたのよ!!ほんとうよっ!」

「出ていきなさい」

「嫌っ!本当なのよ!!」



 床に倒れ込んだままのメイはその主張に健気に首を振っていた。というよりメイがそんなことが出来る人間であれば既に耳に入っているはずだ。まあ、この様子ではメイにつけた女中は機能していないようだけれど。



「──黙れ」



 地を這うような声が出たな、と自分でも思う。昔から所有物に対しては人一倍敏感だった。口には出さないけれど不快な侍女も侍従も沢山いた。良い機会だなと冷静に考える。



「弥太郎」

「はっ!」

「その女を地下に繋いでおけ」

「ただいま!」

「メイ、来い」



 床には散らばった花瓶の破片があって行きたくなかったから手を差し出すだけに留めた。メイは癖が抜けず寛ぐ時も外履きを身につけていたから気にとめないだろうと思って。

 彼女はゆらりと立ち上がった。痛みがあったのか足に手を当てて、しかし俺の言葉に従い引き摺りながらこちらに歩んだ。

 手を合わせると部屋から出す。

 この騒動に皇宮の者の殆どが集まっていた。爺やが奥から声を張り上げて近付いてくるのが分かった。誰かにメイを運ばせるつもりだったがこれだけ人がいるならいい辻褄合わせになると彼女に肩を貸した。ぎょっとしたざわめきがあちこちから鳴る。力があるなら抱き抱えたかったがそこまで見栄を張ることもないので彼女の背中に腕を回すだけに留める。



「ゆ、雪様!?何事でございますか!?」

「ウィリアム」

「はい。話しておきます」



 俺は騒乱の最中メイを医務室に運んだ。

 薬師が何かの葉っぱを擦って何かをしている間メイのそばに居た。気の利く言葉は出てこない。ただ握った手をメイが離さなかったので出ることも出来なかったし職務も滞ってなかったし虚無な時間を過ごすことになった。



「わたし、」



 不意にメイが口を開いた。ぼうっと薬師を見ていたがその先生すらもこちらを横目で見た。

 メイのことはまだ公表されていない。官僚達がうるさすぎてまだ出来ていなかった。それでも当たり前だが皇宮の全ての者がメイの出生を知っている。



「こわかった」

「……」

「ありがとう」

「…………ああ」



 ただそれだけ。それだけの言葉。





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