壱
「雪路、躊躇いを持ってはいけない」
父は剣を振り下ろした。剛腕な彼の腕は敵国の王太子の首を容易く撥ねた。血しぶきと、悲鳴と、不快感。
「情けは人の為ならずと故人は言ったらしいが」
王と王妃の首は既に下に転がっていた。古代に使われた死刑道具は錆びて使い物にならなくてこうして処するしかない。殺さなければならないのであれば。
「それは嘘だよ、雪路。我が身を持って証明した」
最後は自分より少しばかり体格の良い、同じぐらいの少年だった。ブルブルと震えてこちらを絶望した瞳で見ている。股が濡れていた。粗相したのだろう。当たり前だ、だって殺されるのだから。
「異分子を……それも王家の血を継ぐ者など生かしておいてはいけない」
父はまるで汚物でも見るような蔑んだ目で少年を射抜くと柄をこちらに向けた。惨劇を見ることしか出来ない自分にそれを持つように催促した。躊躇いながらそれを手に取る。
「雪路、お前なら分かるね。我々は上に立つべく生み出された。敵は排除しなければならない」
見世物だった。中央広場で敵国の処刑を行うと達しが出た。属国は許されなかった。女も子供も残虐され王族のみが庶民への見せしめになっていた。
「異分子はいつか綻びを生む。それによって我が国が淘汰されるなど許されない」
分かっている。父は王家の奴隷だったらしい。今は無き旧国の世継ぎであった父は情けによって生きながらえしかし復讐に燃えこうして叶えたと言うわけだ。だからこそ、
「殺しなさい。次の王はお前……その次は属国など有り得てはいけないことだ」
だからこそ殺す。いたいけな少年を。父のように敵意に燃えぬよう、王族の血が入っているものは全員殺めなければならない。
「やりなさい」
柄に力が入る。ぶるぶると手足が震えた。民衆の半分が処刑の半ばで家に閉じこもった。父の慈悲のなさに恐れを生した。「ととさま、」とか細い声で訴えた。父は依然として自分を射抜くのみ。……なんて重さなのだろう。剣の重さではないずっしりとした不快感が身体を強ばらせた。