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第25話 ラクス王家の文献


 9月初旬。


 蓼科にも、冷たい秋風が吹き始める。


 避暑に訪れていた別荘オーナー達は元の居場所へと戻り、山道を走る車の数も初夏の半分以下となる。これから冬にかけて、少しずつ人が減っていくのだ。



「今回も随分と沢山ありますね」


 今日はバックスから荷物が届けられる日。転移門を開いた瞬間に、木箱がどさどさと送り付けられた。


 その数、なんと10箱。

 部屋が詰まりそうになり、エスティは慌てて自身の空間に保管した。



「10箱ですかぁ……」

「エス、開くのが億劫になったな。宝箱は多い方がいいのではないのか?」

「あ、そうでした!」


 途端にエスティは元気になった。


 エスティは口を上手く使えば扱いやすい。使い魔なのに主を誘導する事が、ロゼにとっての日常だった。



 早速、リビングにて荷を解く。


 10箱あるうちの5箱は銀インゴット、4箱が魔石、そして残りの1箱が魔物の皮やインクなどの素材と書籍、それに兄弟子からの手紙が添えられていた。


「『音砂爆弾は好評だったけど、今回は全て弁当箱でお願い。とても人気だったんだけどね』。おや、言ってる事がちぐはぐですね」

「我にはバックスが変な物を作るなと釘を刺しているように聞こえる。奴の事だ、暴発させたんじゃないか?」

「ふふ。おっちょこちょいですからね、兄弟子は」


 エスティはやれやれと苦笑いしたが、ロゼはバックスの気持ちをよく理解していた。


 だが、余計な事は言わないでおく。



「『枝豆は好評。我が商会の妻が2人いる営業マンが、妻達が狂ったように食べていたと言っていた』」

「枝豆は美味だからな」

「そんな事よりもロゼ、妻が2人もいる営業マンってどう思います?」

「食費が倍かかる」

「そうじゃないです。どうもいけ好かないですね……まぁ兄弟子の部下なら飲み込みますが」


 何だか既視感を感じたが、エスティはそれ以上深く考えなかった。


「しかし、枝豆のシーズンはもう終わっちゃったんですよねぇ」

「次は何が美味なのだ?」

「ふふ、気になります? ロゼもすっかり蓼科の虜になってるじゃないですか」

「し、仕方が無いだろう!」

「次は林檎ですよ」


 既に自在農園にもかなりの数の林檎が並んでいた。林檎であれば料理する手間も無いし、まとめて購入すれば安く済む。今回は楽ができそうだった。



「『あと、大き目の弁当箱が欲しい』。また兄弟子は無茶を言いますね」

「出来ないのか?」

「できません。魔石の強度限界です」


 【貯水用弁当箱】だって、条件を制限する事により何とか拡張をしたのだ。あのやり方が正しいのかすらも分からない。


「『それと、エスティの凶悪性を考えてやばそうな素材を送ったよ。これで魔族に対する最強の武器を見てみたいから、作ってくれない?』。凶悪性? 最強の武器?」

「おいバックス!!」

「……ふふ、兄弟子は私をよく理解していますね」


 ロゼが木箱を見ると、確かに怪しい素材があった。ビンに入っているこの青紫の角は、強力な魔獣の素材だったはずだ。



「『ロゼ。ラクス王家が保管していた、時空魔法の記述がありそうな文献を送る。参考になるかもしれない』」

「な、ラクス王家だと!?」

「おぉ、兄弟子はちゃんと【音砂爆弾】の件を国王に掛け合ってくれたんですね」



 楽観的なエスティとは対照的に、ロゼは急に不安になった。やはり【弁当箱】は目を付けられる程の魔道具だったのだ。


 魔法使いしか使えないが、空間魔法のように物を自由に収納でき、なおかつ時間を停止したまま重量を気にせずに運べる。そんな道具、使い道などいくらでも思い付く。



「『物は4日後に送り返してきて』。手紙は以上です。4日となると、あまり時間が無いですね」

「どうする?」

「んー。私は【弁当箱】の作成がてら、王家の文献に目を通します。ロゼは空の魔石を数えて、必要な林檎の数を成典さんに伝えに行ってもらえますか? あぁ、林檎は多めに発注して下さい、私も食べたいので」

「了解だ。銀インゴットも数えておこう」



◆ ◆ ◆



 机には温かい紅茶の入ったマグカップ、膝の上には膝掛け。


 エスティは工房で【弁当箱】を作りながら、王家の文献をパラパラと眺めていた。


 ページは少ない。既に2冊を読み終え、残りはこの一冊のみ。所々に文字が掠れて読み辛いが、言葉を拾いながら内容を紡ぎ合わせていく。知らない単語が多くあり、言葉の使い方にも文献の古さを感じさせた。



 集中していたエスティの耳に、野鳥の鳴き声が聴こえてきた。いつも夕方頃に鳴く、名前も知らない鳥だ。


(もう夕方ですか)


 本に付箋を挟み、パタンと閉じた。



「終わったか、エス」

「うわっ! い、いつの間に帰っていたんですか!?」


 ロゼが窓際の猫クッションで丸まっていた。


「昼に帰った時に、エスは『お帰り』と言っていたではないか」

「……記憶に無いですね。多分、脳を経由せずに反射で出た言葉です」

「恐ろしい技術だな。寝ていても会話が出来そうだ」

「それは会話と呼べるのでしょうかね……さて、ご飯でも食べましょう」



 集中して読んでいたせいで、エスティは昼食も取っていなかった。冷蔵庫を開き、まず豆腐を取り出した。蓼科湖付近で作られているもので、ロゼの大好物だ。


 そして次にケトルでお湯を沸かし、空間からカレー味のカップラーメンを取り出す。その辺で売っているエスティの大好物だ。


「機械にも慣れたものだな」

「そうですね。この便利さを知ったら、ネクロマリアで生活できないかもしれません。あつっ……うまうま……」


 冷えた体にラーメンが効く。蓼科の昼夜の気温差は大きく、9月に入ってから夜はかなり冷え込む。そろそろ暖炉を活用してもいいと思っていた。



「それで、有用な情報はあったのか?」


 一足先に食べ終えたロゼが、後ろ足で顔を掻きながら聞いてきた。


 エスティはカップ麺の残り汁をズズッとすすり、口を拭いてロゼに向き直った。



「あの文献は、神話の調査資料でした」

「神話というと、ネクロマリアのか?」

「はい」



 ラクス王家が保管していた文献。


 そもそも王家が所有するという事は、図書館で公にする文献とは違って内容が秘匿されている。過去の失態を記したものであったり、勝者が歴史を歪曲した際に、歴史の真実を書き残していたりするためだ。



 そしてバックスが送って来たのは、神話に関する書籍だった。


 ネクロマリア神話は、遥か遠い昔の歴史を記したものだ。といってもどの話も脚色されており、エスティも孤児院に居た時は単なる童話として楽しんでいた。


「神話は元々、事実を記したものではないだろう?」

「はい。荒れていた世界を導くために、当時の指導者が作った宗教のようなものです。その神話の最後に、時空魔法の記載がありました」



 指導者によって魔族が滅ぼされ、ネクロマリアに平和が戻ったというのが、ラクス王国で一般的に流布されている物語の最後だ。



 だが王家の神話は、違う結末を迎えていた。


「何と書いてある?」



 エスティは一呼吸おき、口を開いた。



「『――種が足りない。時空魔法によって魔族を鎮める事はできた。しかし、種が足りない。そうしてネクロマリアの人族は滅亡した』」


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