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第136話 文化発信型大司教ミア・ノリス



 バックスの記者会見に突入する、少し前。


 オリヴィエント城内の聖職者が集う大聖堂にて、ミア・ノリスが主催のとある会議が開かれていた。部屋では、変態達が深刻な表情で円卓を囲んでいた。


 カンドロールという生きる法律のような人物が去ってから、この団体は無法地帯となった。空いた椅子には株が爆上がりしたミアが座る事となり、この沈んだ状況をどうにか打開しようと連日話し合いを行っていた。



 今日の議題は『明日の飯も食えない件』。

 だが、議題などあってないようなものだ。



「お、俺達が信じていた神とは一体なんだったんだ……!」


 下着を被った青鎧の男ががくりと項垂れた。街を歩くと衛兵にしょっぴかれるような見た目だ。だが、ここでは誰からもツッコまれる事は無い。



「そんな事よりも、私は来月の家賃が払えないんですよ!!」


 悲し気にそう呟く若い女性も、ピエロのような化粧をしている。ほぼ全員が、自分の趣味全開の普通ではない格好だった。パジャマ姿のミアがまともに見えるほどだ。



「――私達の組織も、変わる時が来たのよ」


 大司教ミアが、スッと立ち上がった。



「役人に頼るのは止めるわ。助成金なんて、いつ切られるか分からないもの」


 今やネクロマリアの人々は女神エスティを主神と崇めていた。そのせいで、聖職者達は肩身の狭い思いをしていたのだ。この大聖堂は一体何に祈るものなのか、祈っていた存在は女神エスティのように救ってくれたのかと、誹謗中傷まで受け始めていた。


 だが正直、聖職者達はそこはどうでもよかった。このままでは予算が減らされて食いっぱぐれる、そんな目先の現実だけが心配だった。



「――もうね、神とは女神エスティの事だったのよ。長い物には巻かれましょう。それよりも、これからは変態プレイで逮捕される方が問題よね」

「違いますよ! 我々が路頭に迷うのが」

「落ち着け、俺は大司教に賛成だ。俺たちは童貞と生娘の集まりだ。それをこの歳まで守り続け、人々を回復してきた俺達には、自分を解放する権利がある!」


 全員ふざけているようだが、いたって真面目だ。問題は、カンドロールがいなければこの組織がまとまらないという事だけなのだ。たとえ操られている状態であっても、カンドロールは勤勉だった。


 そんな中、一人の聖職者がおずおずと手を挙げた。



「お、俺気付いちゃった……俺達ってさ、もう童貞を捨ててもいいんじゃね?」

「「…………」」


 その一言で、沈黙が流れる。



 聖属性魔法に影響するという理由で開く事の出来なかった、パンドラの箱。

 そこに、鍵が挿されようとしていた。


 ここは、童貞と生娘の変態たちの集まりだ。

 このままでは大変な事になる。


 ミアは危機感を覚えて、声を上げた。



「お、おおち、おおお落ち着いて皆!!」

「大司教が落ち着いて下さい」

「れ、冷静になりなさい! お爺ちゃんの腰痛もお婆ちゃんの肩凝りも、鼻をほじりながら治せるのは私達だけよ。今の大聖堂の銅像を女神エスティに差し替えて、いかにも健全に見える治療院を開きましょう!」


 まるで崇高な教えをしているかのような身振り手振りで説明を続ける。



「そして、いずれはその治療院を芸能の拠点にするわ。私達で両方を独占するの。文化の発信地として漫画やアニメ、音楽、ゲーム、お笑いを提供して心まで癒して差し上げるのよ。私達の組織は一大エンターテイメント集団になるわ!!」

「支離滅裂っすね」

「そこで性癖を爆発しても?」

「もちろんいいに……良くないわよ!!」


 だが、ミアの言葉は聖職者達の琴線に触れた。エンターテイメントなら、ちょっとぐらい変態がいても平気そうだと。



「で、ですが大司教。今後は魔法が禁止されると言ったのは、大司教ですよ?」

「……けっ! エスティは私の子分よ。激クサ料理で脅して特権を作ってやるわ!」

「流石は大司教様!」

「神への冒涜が凄い!」


 ミアは机をバンと叩き、気合を入れた。



「よし、そうと決まれば記者会見よ。私達の新たな船出を知らしめてやるわ!!」




◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




「――そういう訳で、こんな格好をしているの」

「な、なるほど。人々の心を癒すために」


 バックスは下着を被っている青鎧の男を見た。

 目が合い、お互いに軽く会釈する。


 バックスは冷静にその男を見る。

 これは一体、誰の心を癒そうとしているのか。



「……私達は別に寂しい訳じゃないの。本当よ。エスティによって世界は救われたけど、それでも復興に終わりは無いじゃない。だから、こんな変態達でも困った人の助けになれないかと連日会議を開いて試行錯誤していたの」


 ミアは悲し気に説明する。

 聖職者達もうんうんと頷いていた。


 記者たちも、ミアの演説に耳を傾け始めた。ミアは訴えかけるような、聖職者らしい表情をしていた。



「そんな訳で、私達はスケールの大きな問題に直面しているの。今こそ、疲弊したこの世界を笑顔にするような聖職者らしい仕事が必要なのよ!」

「お、おぉ……なんと崇高な志を……!」

「でも大司教、俺達は『明日の飯も食えない件』について話し合グェッ!!」

「おい黙っとけ」


 記者は一瞬だけ信じかけたが、ツッコミを我慢できなかった聖職者の言葉で冷静になった。大司教ミアは、こうして所々に嘘を混ぜ込んでくる厄介な指導者だ。



「こほん……まずは各地で沈んでいる人々を訪ねて、突然どじょうすくいを始めるわ。それで好感度を上げて政治家の後ろ盾を沢山作って、助成金を貰うのよ」

「よく分かりませんが、頑張ってくださいね。では次の爆弾の紹介を……ん?」


 バックスが話を進めようとした時、持っていた【時空郵便】が反応した。

 エスティからだ。


 記者達は驚愕した。

 滅多に見れない時空魔法を、その目で見たのだ。



「――め、女神様の手紙だああぁ!!」

「しかも第一報だ、大ニュースだぞ!!」


 記者たちは一気に盛り上がった。


 エスティからの手紙は、全文がそのまま新聞記事に掲載されるほどに人気だった。どんな内容かというよりも、救世主の何気ない日常が多くの人々に好まれたのだ。だが、その事実をエスティは知らない。



「バックスさん、早く読んで下さい!」

「わ、分かりましたよ。えぇと……『明日、何本か苗を送ります。桜という、美しい花が咲く木です。それで公園を作るといいでしょう。あと、ミアはもう暫くしたら連れ戻します。家事と翻訳の仕事が積んでありますからね。用があったら済ませて置いて下さい』以上です」


 バックスは手紙を畳む。

 ミアは、ニタァっと微笑んだ。



「大司教汚い!!」

「あんただけずるいですよ!!」

「このアホ大司教が働く訳が無い!!」


 ミアはすぐに悲し気な顔を作り、床に膝を突き、天井を見上げて拝み始めた。



「あぁ……泥水を啜って生活をしなければと思っていた私に、蓼科の光が差し込みました! 女神様はなんと慈悲深きお方なのでしょう……!」

「でも大司教、さっきは女神様は私の子分だから激クサ料理で脅しグェッ!!」

「おい喋りすぎだ」


 ミアは記者達を見た。



「(酷いな、奴は女神様を盾にしてるぞ)」

「(これどうやって記事にする?)」

「(厄介だなこの聖女)」

「聞こえてるわよ!!」


 まずい、これは良くない流れだ。できれば神への冒涜の責任は聖職者達に押し付けたかったが、諦める。これ以上墓穴を掘る前にさっさと逃げ出そう。ミアはそう判断した。


 ミアは立ち上がり、聖職者達に振り向いた。



「皆、別れは突然ね。私寂しい……テヘッ!」

「悪評は広めておきますよ、大司教」

「一生、生娘でいて下さいね」

「これで会議室が臭くなくなるぜ!」

「同僚が優しすぎて血の涙が出そうね。泥水を飲み飽きたら食材を送ってあげるから言って頂戴。蓼科のご飯の美味しさに、泣いて悔しがるといいわ!! あばよ!!」


 ミアは聖職者達に捨て台詞を吐いて、バックスの方に振り向いた。今生の別れでも何でもないのに、寂しそうな雰囲気を出しながら握手する。



「……じゃあねバックス、寂しくなるわ。特に私に用は無いわね?」

「えぇ。妹弟子を頼みます。あと体は毎日洗った方がいいですよ、流石に臭」

「余計なお世話よ!!」



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本の獣は、全ての謎を解き明かす
― 新着の感想 ―
この聖女最後までヨゴレ芸人だったな……
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