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刺客の誤算と慈悲の無い裁き

 付近を捜索した結果、カイ達は1つの洞窟を見つけた。

 念の為洞窟内の生体反応を確認してみると、規則的に人が配置されている事に気付く。


(野盗にしては、配置が巧妙すぎる。 まさか何者かの待ち伏せ?)


 その疑念が確信に変わったのは、洞窟の入り口に近づいた時だった。

 カイは洞窟の中から流れてきた、嫌な臭いを感じ取る。


「みんな一旦待ってくれ、中から大量の血の臭いがする。 どうやら俺達を狙った、先客が居るらしい」

「私達を狙うって、一体誰が!?」


「それは俺にも分からん、だが最悪の結果だけは想定しておくべきかもしれん」



「最悪の結果とは何ですか?」


 アニスが何も考えずに聞いてくるが、今回ばかりはカイも誤魔化す事をしなかった。


「中に居る全員が既に殺されているって事だ、商人の妻や娘達も含めてな」


 リアはもちろんだが、最近になって己の過ちに気付いたシスティナさえ絶句する。

 無関係な者すら目的の為なら躊躇無く殺す、それは過去の自分を映した鏡のよう。

 だがしかし……。


(昔の自分に嫌悪感を抱くとは、つくづく私はこの男の色に染められつつあるらしい)


 横に立つベルモンドを見ながら苦笑するシスティナ、変われば変わるものである。


 もう1度洞窟内の反応を確認して改めて打ち合わせをした結果、生存者は居ないという結論に至った。

 洞窟の奥の方で数人が固まっている様子も無く、全員が単独で行動している為である。

 正面から叩き潰す事を決めると、アニスがまず初めに洞窟内全体を照らす光属性の魔法を唱えた。


 暗い闇に包まれていた洞窟内が急に明るくなったので、待ち構えていた刺客達は驚くが隊長だけは驚く様子が無い。


「ふふふ、どうやら我らが居る事を既にお見通しらしい。 者共、待ち伏せは中止だ。 広間に集結して、奴らを迎え撃つ!」


 カイは中で待ち伏せしていた者達が、一斉に広間へ移動するのを確認した。

 その事実から、やはり自分達の中の誰かを狙った者の犯行だと判断する。


「やはり俺達が狙いか、これだけの事を仕出かす連中だ。 間違っても油断するなよ」


 背後からの奇襲も含め周囲を警戒しながら、奥の広間へ向かう。

 しかしこの時既に、スラミンことスミの姿が消えていた……。




「ゼフ、どうしてお前がここに!?」


「そんなもの決まっておろう、貴様という存在を消す為だ」


 刺客の隊長を見たカイが驚く、どうやら顔見知りらしい。


「ねえカイ、あの人どこかで見覚えがあるのだけど?」


「そりゃそうだろうよ、あいつの名はゼフ。 俺がお前を倒した時の、仲間だからな」


 リアの脳裏に前世の光景が浮かび上がる、そう目の前の男は確かにカイの隣に居た!


「何故ここが分かった?」


「何故? 神託によって導かれただけだ、魔王リアベルの居場所すら瞬時に把握する力。 たとえ異なる世界へ逃げようとも、その力からは決して逃れられない!」


「一応聞いておく、中に居た者達はどうした?」


 カイからの問いかけに、ゼフの口元が大きく歪む。


「お前のことだ、既に把握しているのだろう? 貴様がこの世界に来た所為で、無駄に命を散らせてしまったではないか……。 だが所詮は大事の前の小事、気にしていては便所にも行けぬわ」


 この言葉を合図に戦闘が開始された、当初はカイ達一行の圧勝かと思われたが一進一退の攻防を繰り広げている。


 洞窟内で強力な攻撃を行い崩落するのを恐れているのか、彼らは極力威力を抑えた攻撃をしていた。

 反対に刺客達は任務の失敗=己の死を意味しているので、崩落を考慮しない。


 負傷した部下を治療し別の者を盾代わりにしながら、ゼフは今後の計画を再確認する。


(タイミングを見計らって、この場に居る者を残して洞窟の外へ転移。 そして仕掛けた罠を起動し、洞窟もろとも勇者カイとその仲間を始末した後で帰還。 これで私も、神の一族の仲間入りだ!)


 内心でほくそ笑んでいたゼフがふと周りを見ると、部下の1人がいつの間にか居ない事に気が付いた。


「おい、そこに居た奴はどうした! 殺られたのか!?」


「いえ、私達も知らない間に……」


(ちっ! 使えないクズ共め)


 だがその後も1人また1人と姿を消し、刺客達の中で徐々に見えない敵に対する恐怖心が芽生え始める。


 ゼフ自身もいつ襲われるか分からない恐怖から、自分で立てた計画を忘れ周囲の警戒に神経を注ぐようになった……。




(みんな、俺はここだ! 早く助けてくれ!?)


 姿を消した刺客の1人が今、洞窟の岩壁の中でもがいている。

 外からだと違いに気付けないが、その正体は岩壁に擬態したスミだ。


『あなた達は大勢の人を殺した、カイ様から許可は出ている。 ゆっくり吸収するから、溶けながら反省してね』


(反省する、反省するから命だけは奪わないでくれ!)


『……………』


 懸命に命乞いをする刺客に、少しだけ考える素振りを見せたスミだが短く一言。


『いただきます』


 慈悲の無い裁きが宣告されると、男は処刑台の上に立っている事を悟った。

 そして、長い苦悶の時間が始まる……。

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