招かれざる客
「カイ君……路銀があと1週間ほどで尽きるけど、どうしよう?」
カイがリビングで朝食の準備をしていると、ウミナが突然路銀が尽きると言い出した。
なんでも町の空き家を1軒買ったのが、何気に響いたらしい。
「ほらベルモンドやシスティナさん達も住める大きさの空き家となると、下手な下級貴族並の屋敷の広さになってしまうのよ。 それにお父様からの連絡もまだ来ないし、狩猟者にでもなって生計立てないとならないかも」
「狩猟者?」
(俗に言う狩人のことか? それなら海も近いし、漁師の方が楽じゃ……)
「狩猟者ってのは、魔物などを狩りその素材を売って生計を立てている者のことよ。 元の世界のRPGで出てくる、冒険者がこれに近いかも」
カイの考えていたことを読んだウミナが、狩猟者の説明をする。
説明を聞いてみて、彼は狩猟者で生計を立てるのも悪くない考えだと思えた。
実際ここに揃っているメンバーに危害を加えられるのは、先日の生首くらいだろう。
おまけにその首をスミが捕食した結果、生首クラス数人来ようとスミが分裂を繰り返す限り負ける事すらありえない。
カイは急いで朝食を作り終えると全員を叩き起こし、今後の予定を話した。
「……っという訳で、俺達がここで生活していくにはお金が必要だ。 そこで暫くの間、俺達は狩猟者となり素材を売って金を稼ごうと思う」
ブーブーと文句を言うリアとウミ。
カイはゲンコツの代わりに、胃袋から彼女達を捕まえる作戦に出る。
「良いか? 何も全てを売る訳じゃない、素材といっても中には喰える肉だって含まれる訳だしな」
「喰える肉?」
「そうだ、俺達なら色々な魔物だって余裕で狩れる筈だ。 その日に取れた、新鮮な食材で飯を作るってのはどうだ? タラスクを狩れば、タラスク鍋がまた喰えるぞ」
(タラスク鍋!?)
タラスクというキーワードに、リアだけでなくウミナやシスティナまで反応した。
食欲旺盛な面々は、全員一致で狩猟者となることが決定したのである……。
朝食を終えた一行はさっそく町にある、狩猟者の組合へ向かう。
狩猟者の免許に特に条件は無く、年会費を納めるだけで良い。
昼までに全員の登録を済ませると、足早に町を出て初日の目的地を目指した。
スミが曳く馬車に揺られること1時間、一行が着いたのは旅人があまり通らない道。
(こんな所に魔物が出るの?)
リア達が疑問に思っていると、カイが本日のターゲットの説明を始める。
「え~本日の獲物は人です」
「ひと!?」
いきなり物騒なセリフが飛び出したので、リア達は驚いた。
「実はこの道で先日、行商人の一団が野盗の連中に襲われ食料などの物資を奪われた。 そこでだ、今度は俺達が野盗の連中を狩ってそれを奪い返そうって寸法だ」
そう、狩猟者が狩る相手は魔物だけではない。
野盗などの犯罪を犯した連中を討伐するのも、立派な仕事の1つである。
前にも説明したが野盗とは、奴隷として雇ってもらえなかった者達の成れの果てだ。
食って行く為に仕方なく人を襲うのだが、むやみに人を傷つけるような真似はしない。
しかし極一部にそれを忘れ、殺傷行為におよぶ奴らも現れる。
今回この道に出没した野盗は、そんな連中だった……。
「かろうじて一命を取り留めた商人の話では、野盗達は商人の妻や娘を拉致している。 今頃どんな扱いを受けているか想像出来ると思うが、助けられる限りは助けたい」
一旦深呼吸してから、カイは本題を言い始める。
「命を奪い弄ぶ連中だ手加減する必要は無いが、まずは連れ去られた人達を救出するのが先だ。 システィナ・ベルモンド・デモンの3人は、その救出隊として動いてくれ」
「了解した。 かよわき女性を傷つけるような連中は、我輩の剣で成敗してくれる!」
ベルモンドが意気揚々と答えた。 その横でシスティナが何故か顔を赤くしているのを見たアニスは、これまでとは違う彼女の変化を好ましく思えたのだった。
「ところでカイ、その囚われている女性達を救出した後はどうするの?」
「もちろん逃がすつもりは無いよ、狩られる側の恐怖を思う存分味わってもらう。 もし命乞いされ1度だけ許したとしても、矯正する可能性は低い。 後々の犠牲者を防ぐ意味でも、必ず根絶やしにするぞ」
「……………」
リアやアニスは久しぶりに見たが、他の者達にとっては初めて見るカイの闇の部分。
当時魔王だったリアを討った彼を仲間達は裏切り、命を狙ってきたのだ。
根っこの部分で人間不信、身内と認めた者だけしか信頼しない。
義妹のウミでさえ、溺愛する義兄を一瞬だが怖いと感じている……。
(彼の心をここまで傷つけるなんて、一体どんな連中なのよ!?)
リアが憤りを覚える頃、今回の獲物である野盗達のアジトではある異変があった。
自然の洞窟を改造したアジトの中で、男や女達の悲鳴が聞こえる。
真っ暗な洞窟の中には血の臭いが充満しており、吐き気を起こしそうだ。
「洞窟内に居た者、全て始末しました」
「ご苦労、では当初の予定通りここで迎え撃つぞ」
「ところで、本当にここに彼の者は来るのですか?」
部下からの質問に、その男は薄気味悪い笑みを浮かべながら答える。
「来る、そう神託が下されておるのだ。 神託に逆らうというのであれば、貴様も異端者として処分するぞ」
慌てて所定の位置に逃げる部下、足下の血だまりを見ながら男は呟く。
「お前がこの世界に逃げるから、余計な命を奪わねばならなかったではないか。 今度は確実に殺す、この地が貴様の墓標となるのだ勇者カイ!」
前世のリアとカイが居た世界から、招かれざる客が到着していた……。




