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リアとの初デート(前編)

 コンコンコン……。


「お~い、リア。 そろそろ機嫌を直してくれないか?」


「……嫌じゃ。 あんな姿を皆に見られた以上、どんな顔して会えば良いのか分からん」


「お尻ペンペンしたのは確かに俺が悪かったが、アニス相手に悪ふざけをしていたお前も悪かったんだぞ。 朝飯も出来ているし、いい加減出てこい」


「要らぬ。 わらわをこのまま、そっとしておいて欲しい」


 リアが受けた、精神的ダメージはかなり重いらしい。

 カイはこんな時の為に用意しておいた、秘策を出した。


「そうか残念だ。 折角ナンディの乳から作ったソフトクリームが完成したから、食後のデザートに皆で食べようと思っていたが、お前の分は誰かにやる事にする」


 バーン!

 勢い良くドアが開かれ、避け切れなかったカイの顔面に直撃する。


「ソフトクリームじゃと!? 食う! 今すぐ食うぞ! 早く言ってくれれば、テーブルで先に座って待っていたものを……」


 痛がっているフリをして顔を隠しながら、こういう部分でまだ子供っぽさが残るリアを見て微笑むカイ。

 すっかり機嫌が直ったリアを連れて食堂に行くと、彼女の大好物であるヨル丼を全員の前に並べた。


 その後朝食を終えて、自室に戻ろうとしたカイの腕をウミが掴む。


「いい? お義兄ちゃんは今日1日リアちゃんの気が済むまで、デートしてあげる事!」


 突然リアとデートをしろと言い出してくるウミに、カイは困惑した。

 見るとアニスやウミナまで頷いているので、女性陣の総意らしい。


「あのね、お義兄ちゃん。 好きな人にお尻を叩かれて、尚且つその姿を他のライバル達に見られたらどう思う? 死にたくなるくらい恥ずかしいわよ、だからその穴埋めとして一緒に居てあげて」


「お前、この間俺がリアと仲良くするのは嫌だって言ってなかったか?」


「言ったわよ、でもそれとこれは別。 ちゃんとフェアな状態で、お義兄ちゃんを私の物にしてみせるから安心して♪」


 そう言い残すと3人は、その場から離れていった。

 呆然としているカイを尻目に廊下の角を曲がった3人は、すぐに円陣を組むとこれからの行動予定を相談し始める。


「これでお義兄ちゃんには、私達は付いてこないと思わせる事が出来たわ。 リアちゃんには悪いけどこのデートを尾行させてもらって、お義兄ちゃんの好みの服とかをチェックさせてもらいましょう」


 ウミ達3人はリアを利用して、カイの趣味嗜好を詳しく知ろうと画策していた……。

 彼女達の計画を知らないリアは、カイからのデートの誘いにすぐにOKを出す。

 そしてこのバカンスに持ち込んだ服の中で、1番のお気に入りを選ぶとカイと2人で街に出かけたのだった。




「そういえば、こうして2人きりで歩くのって初めてじゃないかしら?」


「そうだっけ? まあ普段はアニスも一緒だからな、たまにはこんな日も良いんじゃないのか?」


「ね、ねえカイ」


 リアは顔を赤くしながら、右手を差し出す。


「しばらく私と手を繋いでくれない?」


「承知しました、お姫様。 気が済むまでどうぞ」


 カイはその場でひざまずくと、リアの差し出した手を包み込むようにそっと握る。

 その様子を遠目で見ていたウミナの目から、光が消えた。


「どうしよう? 今、無性に世界と共に滅びたくなってきたのだけど……」


「わぁ、ストップストップ! そんな事したら、またお義兄ちゃんのゲンコツがくるよ」


「2人共静かに、あまり大きな声を出すと気付かれてしまいますよ」


 肉眼では見えない距離からデートの様子を覗いている3人を、カイは既に天空から監視していたのである。


(ウミの奴がやけにデートを薦めてくるから、念の為空から見張っていたがあいつらは後でお仕置きだな)


 先日の度胸試しの反省から、カイは周囲の監視を怠らなくなっていた。

 カイの警戒レベルを引き上げさせた張本人が、その事を失念しているのだから本末転倒というしかない。


 しばらく3人を放っておく事にしたカイは、リアと並んで近くの洋服店に入った。


「この服も結構良いのだけど、カイはどちらが好みかしら?」


 店内を見て回ったリアは、2着の候補をカイに見せる。

 どちらも良く似合っているが、目を奪われるほどでは無かった。

 他にも良いのがないか周囲を見回していると、1着のブラウスがカイの目に入る。


 リアの髪に良く合う、空と同じ色をした生地。

 描かれている柄も、侯爵令嬢としての気品を損なわない。

 これとお揃いのスカートを見つければ、リアもきっと気に入ってくれるはず。

 カイはリアに少しだけ待つように伝えると、店内を探し回って1枚のショートスカートを見つけた。


「なあ、リア。 試しに、これを着てみてくれないか? お前にはこれが1番似合いそうな気がするんだ」


 ブラウスとスカートを手渡されたリアは、少しだけ照れた様子でカイに訊ねる。


「これが、カイの好みなの?」


「ああ、多分そうかもしれない。 これを着た、お前の姿をぜひ見たいんだ」


 意を決したリアは、それを持って試着室の中に消えた。

 それから数分後、恥ずかしそうにしながら出てきた彼女の姿を見たカイは一瞬見惚れてしまう。


 繊細なガラス細工のように、触れただけで壊れてしまいそうな可憐さ。

 今の彼女を見て、元魔王だと言っても信じる者は少ないだろう。

 カイ自身、今すぐ彼女をさらって自分の物にしたい衝動を感じていた。


「どう? 少し変なところとか有る?」


 おずおずと聞いてくるリア、普段の勝ち気な態度とは大違いだ。

 だがそれが逆に、カイの鼓動を早くさせる。


「どこもおかしくない、最高だ。 お前の為だけに作られた服みたいだ」


「そう? じゃあ、今日はこのままこの服を着る事にするわ。 すいません、店主は居るかしら? この服を買いたいのだけど」


 上機嫌で服を購入するリア、今日1日冷静でいられるか不安になってきたカイ。

 それを見て殺気を隠しきれなくなってきた、アニス達3人。


 2人のデートはまだ始まったばかりである……。

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