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舞台の裏で操る者達

 ベルモンドはデート券を使ってウミナに1日看病をしてもらい、大満足している。

 一方のウミナは、現在カイの前で土下座をして許しを乞うていた。


「お願いします。 もうしませんので、彼にデート券を渡すのだけは勘弁して下さい」


 病室一面に貼られた自身の姿絵に囲まれて1日看病したお陰で、精神的におかしくなる寸前だったらしい……。


 その頃アニスは同じ世界に飛ばされてきた、同僚の病室を訪ねていた。


「システィナ、入るわよ」


「フゴッ、フガッ、ゲホッ!」


「あなたもそろそろ力を使うのを諦めなさい、このままだといずれ窒息してしまうわよ」


 顔全体をパイが覆い窒息寸前となっているシスティナを見て、アニスは嘆息する。

 病室の中には他にも金ダライが散乱しており、何度も力を使おうとしていたのだろう。


(彼女にこんな呪いを掛ける相手とは、一体どんな人物なの?)


 自尊心の固まりの彼女にとっては、死んだ方がマシと思える仕打ちに違いない。

 治めていた世界で何があったのか話さない彼女を、アニスは責めようとはしなかった。

 今さらなのかもしれないが、それだけの事をした自覚があるのだろう。


 しかしそれを、自身のプライドが許さない。

 本気で復讐するつもりは無いが、見返すつもりで力を使用しているのだと推察した。

 けれどもそのプライドが原因で痛い目をみているのだから、いい加減学習して力を使う以外の方法で解呪を模索すべきだとアニスは思う。


 そんな事を考えていると、いつの間にかシスティナの顔のパイが3層になっていた。




「さて、度胸試しと並び夏のイベントの1つにスイカ割りがあります。 残念ながらこの世界にスイカが無かったので、彼女がイベントに協力してくれる事となりました♪」


「フゴフガフゴ~!(リア様、これは酷すぎます!)」


 ゴツッ!

 カイのゲンコツが、リアの頭に落とされる。


「リア、アニスをつかって遊びすぎだ。 今朝の一件を、まだ根に持っているのか?」


「当たり前でしょ! 一歩間違えば、今頃わたしは消化されてたのよ!?」


 かなりご立腹のリアの前では、両手両足を縛られ猿ぐつわを嵌められたアニスが砂浜に転がされている。

 リアはアニスが持つ2つのスイカを使って、スイカ割りをしようとしていたのだ!


 事の発端は朝食前、リアの寝室で起きた。

 前の晩にカイと2人きりで過ごす方法を、色々と考え込んでいる内に寝てしまったリアは、妄想の夢の中にいた。


『リア、皆に内緒で今日は2人きりでBBQをするぞ。 誰にも見られないし、口移しで食べよう』


『ちょっと、ダメよカイ。 まだ私達には早いわ』


『早いものか。 俺は今までずっと、お前とこうしたかったんだ』


 彼の唇が、少しずつ近づく。

 リアも目を閉じてその瞬間を待つが、一向に触れる様子が無い。

 そうこうしていると、シューシューと何か妙な音が聞こえてくる。


『カイ、一体何の肉を焼いているの?』


『焼く? これは2人が酸で溶けて、1つになっている音だよ』


『酸? 溶ける!?』


 その物騒なフレースで思わず目覚めたリアは、自身が何か生温かい筒状の物の中でまさに今、溶かされようとしていた!


「ほらスラミン、リア様が目覚めてしまったわ。 早く消化しなさい!」


「アニス様、ダメです。 再生スピードが速すぎて、消化しきれません」


 アニスは主が寝ている隙にペットのスラミンをヨルムンガンドに擬態させると、リアを丸呑みにさせていたのである。

 少しでもライバルの数を減らそうと本気で消しにかかる辺り、アニスは数回のお仕置き程度では反省しないのかもしれない……。


 スラミンはその後消し炭となり、今はカイが作った特殊な結界の中で幽閉されている。

 そして騒ぎの張本人であるアニスはリアの手でボコボコにされた後、スイカ割りの代役となっていた。


「ねえ、お義兄ちゃん。 あの2人って、いつもあんな感じなの?」


「ああ、ウミもあのアニスには気を許すなよ。 本当に何をしてくるか分からん奴だ、俺も予想出来ん事を仕出かすからな」


 ウミは初めて見るアニスの下克上行為に目を白黒させ、カイはそろそろ対策を考えないといけないかもしれないと思い始めている。


 ともあれ今日も5人にとっては、平和な日常と感じているに違いない。

 しかし別の者にとって5人は、その日常を脅かす存在となるのである。

 リアが2本の棒でアニスの胸を交互に叩き始めた頃、とある一室においてカイ達5人の処遇について話す会議が行われていた。




「ホーリーウッド家の者は何と答えているのだ?」


「彼の者達に悪意は無い、静観するのが得策であろう……と」


「馬鹿な!? 魔王だけでなく、異界の魔王までこの世界に転生していたそうではないか。 世界を滅ぼす存在を認める訳にはゆかぬ、どうにかして消し去らねば」


「しかしその魔王を、召喚された勇者2人が守っているとも聞く。 下手に手を出せば命は無いぞ」


 討伐すべき、やはり静観すべきだ等会議が揉めていると、それまで静かにしていた長老の1人が重い口を開く。


「この世界に紛れ込んだ異物を排除するのが我らの役目、【無慈悲なる混沌】を彼らの許へ送り勇者共々異物を消し去るのだ」


「……はっ。 では準備が出来次第、ホーリーウッドとの国境付近で奴を解放致します」


「うむ、これも全てこの世界の為。 清浄なる世界と秩序を我らの手に」


『清浄なる世界と秩序を我らの手に!』


『清浄なる世界と秩序を我らの手に!』


 列席していた者達は一斉に立ち上がると、右手の拳を心臓の位置に当てながら同じ言葉を繰り返し叫び始める。

 それを見た長老は不気味な笑みを浮かべながら、小さく呟いた。


「世界を滅ぼそうとしない魔王に居られては困る、適度に争いを起こす事で人族と魔族の数も調整出来るのだ。 お互いに憎しみ合い、殺し合いを続ける世界こそ最も理想的だ。 次はもう少し力に驕る者を、魔王に選ぶとするか……」


 ウミナを魔王として転生させた存在。

 その不気味な牙が、カイ達に襲いかかろうとしている……。




「ねえ、見てカイ。 これだけ叩いても、このスイカ割れないのよ。 もっと太い棒でも持ってこようかしら?」


「お前、それ以上やったら皆の前でお尻ペンペンな」


 その後本当にお尻ペンペンをされたリアは、数日部屋から出ようとはしなかった。

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