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神災級問題児の爆誕

『ある意味において、最終組になるほど度胸を試されるイベントだった』


 後日この度胸試しに参加していた者達は、一様にそう答えた。

 理由は至極簡単で、道中に現れるアンデッドの残骸が徐々に増えていくからである。


 頭蓋骨のみとなったスケルトンが歯をカチカチと鳴らしていたり、腕だけ残ったゾンビが指のみで移動していたりと、中々にホラーな風景が広がっていた。

 アンデッドを天に還す神聖魔法は勇者の十八番だが、ウミナは魔王に転生した結果使う事が出来なくなっており、最終組のカイとウミしか使えない状況である。


(3組目のアニスとシスティナは、神様だし使えるのでは?)


 こんな疑問を抱く方も居ると思う。

 確かにその通りだが、この2人がペアを組んだ事が不運だったとしか言いようが無い。


 現れたゾンビに神聖魔法を放とうとしたシスティナが、上から落ちてきた特大金ダライの直撃を受け気絶。

 運悪くスラミンを連れてこなかったアニスが、システィナを背負う事となった。

 そして両手が塞がった結果神聖魔法を使えなくなったアニスは、出てくるアンデッド達をキックのみで粉砕して進んだのである。


 出発してから次々と現れるアンデッドの無惨な姿に、流石のカイとウミの義兄妹も同情してしまった。


「これは流石に可哀相だ、成仏させながら進むぞウミ」


「うん、分かったお義兄ちゃん」


 魔法の光を極力抑えながら進む2人、前の組との距離はどんどん開いていく。

 結果的にウミは、義兄と2人きりになれる時間を増やす事が出来たのである。

[318186295/1566106389.jpg]



「これがメダルか、それじゃあ帰りはこっちの通路を通って戻るぞウミ」


「……うん、分かった」


 ウミは今、胸の鼓動の高鳴りを抑えるのに必死だった。

 長年想いを秘めてきた義兄との再会、そして数年ぶりに2人きりで過ごせる時間。

 彼女はこの度胸試しを前に、1つの決意を固めている。


(義兄に想いを伝える、義妹のままで終わりたくない)


 その強い気持ちに何かが動かされたのかは分からないが、ペアを決めるくじ引きでウミは、見事カイとペアを組む事が出来た。


 夜空を照らす月明かりを頼りに、静かに歩く2人。

 時折横目で見る義兄の顔が、普段にも増してかっこよく見えてきてしまう。

 意を決したウミは、ポツリポツリと最初に出会った頃の思い出を話し始めた。


「あのねお義兄ちゃん、ウミと最初に出会った頃のことを覚えてる?」


「親父達が再婚する前に、1度顔合わせで会った時のことか?」


「うん、そう。 あの時も、こうしてお義兄ちゃんと手を繋いで歩いたよね?」


「あれはお前が、お化け屋敷が怖くて入れなかったのが原因だろ?」


 カイとウミが初めて顔を会わせたのは、小学生の頃である。

 2人の両親は結婚の意志を固めていたが、お互いの子供達が仲良く出来るのか気がかりで打ち明けられずにいた。

 そこで両親は遊園地で偶然出くわしたという設定で、初めての顔合わせを行ったのだ。


 カイは父親の様子から勘付いたらしく特に驚くことも無かったが、逆にウミは知らない父子と一緒に歩くことになったので怯えてしまう。

 そして当時苦手だったお化け屋敷に両親が先に入り、1人ぼっちになったと勘違いしたウミは、とうとう入り口で泣き出してしまった。

 その時に手を差し出して、一緒に歩いたのがカイだったのである。


「ほら、俺と手を繋げ。 あの2人も、出口できっと待っている筈だ。 俺と一緒に歩くのは嫌か?」


 首を勢いよく振ると、おずおずと手を伸ばすウミ。

 その手を優しく握ると、カイはウミの目を見ながら自己紹介した。


「俺の名は界、近いうちにお前の兄ちゃんになると思う。 よろしくな」


「お兄ちゃん? わ、わたしの名前は海です」


 この瞬間ウミの中で、カイの存在が特別なものへと変わっていったのである。




「あの時のお義兄ちゃんは私には、どんな人よりも素敵に見えたの。 お義兄ちゃんは私の特別になったの」


 ウミの握る手に力が篭もる、カイはその事には触れず黙って話の続きを聞いた。


「……お義兄ちゃん、私はお義兄ちゃんにとってなに? 私じゃお義兄ちゃんの特別にはなれない? お義兄ちゃんと一緒に居られるのなら、私は日本に帰れなくなっても大丈夫だよ。 今まで言えなかった分、言わせて。 私はお義兄ちゃんのことが、誰よりも好きです。 私をお義兄ちゃんの、お嫁さんにしてください」


 2人の間を風が流れる。

 ウミにとって永遠にさえ思える長い沈黙の後、ようやくカイが開く。


「すまん、今はまだお前の気持ちに応えることは出来ない」


 心がズタズタに引き裂かれそうになり、ウミはその場に座り込んでしまう。

 勘違いさせてしまったことに気付いたカイは、慌てて言った言葉を修正した。


「落ち着けウミ、俺は『今はまだ』と言ったんだ。 お前の気持ちを知っていながら、俺はずっと気付いていないフリをしてきた。 俺自身、まだ誰かを本気で好きになった事も無いから、正直お前に抱いている感情が恋愛なのかどうかも分からん」


 カイは軽く深呼吸をすると、ウミに誓いを立てる。


「だから俺に時間をくれ。 お前を義妹としてではなく、1人の女性として愛していると思えたら、その時はこんな優柔不断な兄貴で良ければ遠慮なく貰ってくれ」


 ウミは嬉しさのあまり、涙をぼろぼろとこぼし始めた。


「うん、待ってる、ずっと待ってるよ。 お義兄ちゃんが私に告白してくれる日を」




 それから少しの間、カイはウミの頭を優しく撫でながら涙が止まるのを待つ。

 ようやく落ち着いたウミは、カイが既に自分の恋心に気付いていた事を思い出した!


「お義兄ちゃん、そういえば何で私の気持ちを知っていたの? 私、誰にも打ち明けた事なんて無かったのに……」


「ああ、それか……」


 カイは頭を掻きながら、どうして知っていたのか種明かしをする。


「お前は家族で旅行に行って、寝ると必ず『私は、お義兄ちゃんのお嫁さんになるの!?』と寝言を言うからな。 親父やお袋もその度に俺を冷やかすし、大変だったんだぞ」


(えっ!?)


 ウミは一瞬呆然とした、自分から盛大にバラしていた事が発覚したからだ。


(それじゃあ起きた時にパパやママがやけに笑顔でいたり、お義兄ちゃんが気まずそうな顔をしていたのは私が原因だったの!?)


 穴があったら今すぐ入りたい。

 ウミはこの場から、すぐにでも逃げ出したい衝動に駆られる。

 しかしそれを耐える事が出来たのは、幼馴染にして親友のリアへの対抗心からだった。


「既に気付かれていたのなら、仕方が無いわ。 そうよ、私はお義兄ちゃんが大好きよ。 だからリアちゃんと仲良くなってもらうのもイヤ、2人が良い雰囲気になりそうな時は遠慮なく邪魔しに入るからそのつもりでいてね。 お義兄ちゃん」


 そう宣言するとウミは茂みの奥から盗み見しているリア達からも見えるように、カイの顔を両手で抑えて唇を重ねる。


『んなっ!?』


 ウミの思わぬ行動に驚いたリア達3人は、バランスを崩してカイの前に出てしまった。


「お前ら、いつからそこに!?」


 珍しく動揺するカイ、義妹の話を真剣に聞く為に周囲の気配を確かめようとしなかったのが裏目に出た格好だ。


「お義兄ちゃんは私の物よ、絶対に誰にも渡さないんだから!」


 満面の笑みを浮かべながら、先に1人で引き上げるウミ。

 目の前で幼馴染に先を越されたリアは、カイに駆け寄ると支離滅裂な事を言い始める。




「カイ、わらわの許可が無い限りウミとは結婚出来ぬぞ。 許可が欲しければ、先に私を正妻として迎え入れなさい!」


「リア、お前言っている事が無茶苦茶だぞ!」


 カイが抗議していると、リアを突き飛ばして今度はアニスが詰め寄ってきた。


「カイ様! 血の繋がった兄妹の結婚など、神である私が絶対に認めません! もし特例を認めて欲しければ、女神の私もその輪の中に入れる事が条件です」


「いや、俺とウミは義兄妹だから法律的に何の問題も無いぞ」


「そんな~!?」


 1人で勝手に盛り上がって、突き落とされるアニス。

 するとカイは周辺で発生している、魔力の異様な高まりを感じた。


「ふふふ……。 カイ君を誰かに渡すくらいなら、死んだ方がマシよ。 ねえカイ君、私と一緒に新たな世界で転生しない?」


 尋常ではない量の魔力がウミナの周囲に集まっていく、このままでは付近一帯が焦土と化してしまう恐れもある。


「待て! 落ち着くんだウミナ。 冷静に、冷静になって俺の話を聞いてくれ」


「あはははは……! 世界よ、私と共に消え去りなさい!」


「待てと言ったのが、聞こえなかったのかコラァ!!」


 カイは咄嗟に周囲にシールドを張った。

 そして翌朝墓地を中心とした半径1kmの巨大なクレーターが誕生し、そのクレーターの底では本気のゲンコツを喰らったウミナが昏倒していたのである。


 この1件でカイ達5人は神災級の問題児として、各国から認識された。

 ちなみにシスティナ達3人は、この爆発に巻き込まれ現在全身包帯で巻かれて療養中。

 度胸試しの優勝者は一部を除き全員一致で、クレーターまで作ったヤンデレ娘のウミナを庇う、ベタ惚れ男のベルモンドとなった。

 カイは優勝景品として、ウミナとの1日デート券をプレゼントしたのである……。

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