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ウミナの名案

 ベルモンドの屋敷に入ったリア達一行は、出迎えたデモンの案内で執務室に通された。

 装備を外して普段着に着替えてきたベルモンドは、ウミナの顔を見た瞬間に我を忘れて号泣しながら駆け寄ってくる!


「うおおおおおお! ウミナ~! 生きていてくれたのだな! お前の姿や形など些細なものだ、そんなものは幾らでも我輩の愛の力で乗り越えられる。 さあ今すぐにでも2人で、明るい未来を築き上げようじゃないか!」


 げしっ!

 あまりにも鬱陶うっとうしいので、ウミナは思わずベルモンドを殴りつけていた。

 

「残念だけど、私はあなたの妻にはなりません。 だいたいね城を包囲するなんて真似をしたのだから、あなたは討たれても文句を言えないのよ! 私を帝国の刺客から守ろうとしてくれたってのは、あなたの配下の兵士から聞いたけど現時点では信用出来ない。 罪をきちんと償った後でなら、話くらいは聞いてあげても良いわよ」


「お前と結ばれることが出来るのであれば、何でもする! 我輩はどんな罰でも受けようではないか、さあ早く言うが良い」


 ウミナはカイを手招きすると、ベルモンドを指差しながら小声で頼み事をする。


『ねえ、カイ君。 私を助けると思って、こいつの首をスパッと刎ねてくれない?』


 ゴンッ! ウミナの頭にカイのゲンコツが落とされた。


「いったぁ~い! カイ君、私のお願いを聞いてくれないの!?」


「アホかお前は! 何で俺が、こいつの首を刎ねなきゃならんのだ!?」


「そんなの決まっているじゃない」


 ウミナは満面の笑みを浮かべながら、皆の前で宣言する。


「カイ君にはグレイウッド公爵討伐の功績として、私を娶ってもらうの。 そして、この国の王様になってもらうのよ」




「……すまないナミ、いやウミナ。 お前は俺を婿にしたいから、こいつの首を刎ねろと言ったのか?」


「ええそうよ、何か問題でもある?」


 ゴンッ! 本日2度目のゲンコツが落とされた。


「お前は、人の命を何だと思っているんだ! そもそもお前は今は魔王だろうが、王国の後を継げる人間はもう居ないんだぞ」


「それなら安心して良いわよ、お義兄ちゃん」


 今度はウミが名乗りを上げる。


「公には私が第二王女ウミナのままだから、私とお義兄ちゃんで結婚すれば誰からも文句を言われないし、この国も安泰よ」


「ちょ、ちょっと待つのじゃウミ!」


 ウミが突然カイと結婚すると言い出したので、慌ててリアも間に割って入った。


「カイは、わらわの侍従奴隷での。 主の許可が無いと、婚姻は認められない。 それに父上が彼の事を高く評価しているの、私の婿にしたいくらいだって。 ウミ、そなたと私は親友ではないか。 その親友の恋路を、そなたは邪魔するというのか?」


 前世と現世の口調がごちゃ混ぜになるリア、それに対してウミは即答する。


「ええ、私はあなたの親友よ。 でも友情と恋愛は別だってのが、いにしえの時代からの約束事テンプレじゃなかったかしら?」


 ウミとリアの距離がじわじわと近づく、傍目から見ても一触即発の状況だ。

 すると遠目で見ていたアニスまで、負けじとこの争いに参戦してきた!


「お待ちください! カイ様は侍従奴隷、皆様とは身分の差が有りすぎます。 彼の身分と釣り合うのは、やはり同じ身分である私ではないかと……」


「お~い、お前ら。 俺の意思というか気持ちは、最初から無視なのか?」


 いきなり4人で始めた婿取り合戦に、冷静にツッコミを入れるカイ。

 ベルモンドとデモンは、既に蚊帳の外に置かれている。


 バタンッ! 突然、執務室の扉が開かれた。


「私が居ない所で、何を騒いでいるの! 女神である私を無視すると、あの世で後悔することになるわよ」


 着替えに行っていた女神システィナが、鬼の形相で戻ってきた。

 そしてアニスの顔を見た途端、露骨に嫌そうな顔へと変わる。


「げっ、アニスティーゼ。 なんでアンタがこんな所に!?」




「あら、システィナじゃない。 久しぶり~!」


 システィナの顔を見たアニスが手を振って返す、どうやら知り合いらしい。


「おい、この女神はお前の知り合いなのか?」


「はい。 同期の女神でシスティナっていうんですけど、ちょっと自信過剰でプライドも高かったので、お友達の女神も少なかったんです」


 人間達に自分の過去を話されたので、システィナはアニスに駆け寄る。

 そして胸ぐらを掴みながら、この口の軽い同期がここに居る理由を問い詰めた。


「あなたは何で人間になって、こんな場所に居るの? 何かポカをやらかしたの?」


「当たり。 ちょっと動画を見ていたら、担当していた世界が滅んじゃった。 その罰として、この世界に人間として放り出されちゃったの。 てへっ♪」


 トントン

 ウミナが、カイの肩を指でつつく。


「ねえ、カイ君。 もしかしてこのアニスって方が、1番ヤヴァイ人かしら?」


 カイはウミナの肩に手を乗せると、嘆息しながらその予想が正しいと認めた。


「その予想で多分間違いないぞ、多分この場に居る誰よりも危険な奴がこのアニスだ。 ミルク粥からスライムを創る才能まで持っているから、決して油断するなよ。 こいつはその気になれば、リアの命すら狙う奴だ」


 自分を殺した相手の命を狙うメイドがライバルの1人だと知って、ウミナは驚くと同時に腹も括る。


(私がカイ君とこちらの世界で結ばれる為には、この場に居る人達を始末する必要があるわね。 どこか人目につかない場所に、連れて行く口実を作らないと……)


 周囲に気づかれないように思案を巡らせるウミナ、やがて彼女は絶好の場所が存在することに気が付いた!


(そうだわ、妖魔領よ。 あそこなら多少地形が変わっても誰にも迷惑が掛からないし、おまけにカイ君との新居だって作り放題。 そうと決まれば、準備を始めましょう)


 早速ウミナは、蚊帳の外に置かれているデモンに小声で囁く。


『これから言うことは、誰にも話してはいけないからそのつもりで。 そこに居るカイ君に、妖魔領を丸ごとプレゼントしようと思うの。 こちらには現役の勇者も居るから討伐の大義名分も立つわ、少しでも長生きがしたいのならこの地で大人しくしていなさい』


 デモンの瞳に映るウミナの顔は、まさに魔王そのものだった……。

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