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本当の犯人

「なんだこの飯は!? 初めて食べる味だ、箸が止まらない!」


「おかわりは一杯有るからな、気にせず食って良いからな」


 ヨル重は多くの兵士達の胃袋をがっちりと掴んだ。

 生け贄になった爺さんの家族は一口二口と食べながら、故人を偲んでいる。


「儀式の前にこれを食べていれば、もう少しだけ生きていようと考えてくれたかな?」


「逆に満足して逝ってしまったかもしれないな、食ってる所をあの世から見せて精々後悔させてやるとしよう」


 別れが辛いあまり、何度も蘇生してきてしまった。

 家族には決して言わなかったが、生きている事自体が苦痛だったかもしれない。

 だが謝る相手は、もうこの世には居ない。

 重い空気に包まれていると、兵士の1人が家族に話しかけてきた。


「お前ら、あの爺さんの家族なんだよな? 爺さんはあそこまで運ばれる途中で、お前らの事を自慢気に話していたぞ。 少しやり過ぎな所も有るが、自慢の息子や孫達だと。 失いたくない気持ちは分かる、だが今回は流石にやり過ぎだったな。 それでもお前らを庇って、軽い罪で済むようにした爺さんの気持ちを無駄にするなよ」


 寿命が本来尽きている命を何度も蘇らせたのだ、倫理的な面から見ても罪は重い。

 だが爺さんは兵士達に家族の事を自慢気に話す事で、苦痛には感じていないとアピールして罪を軽くしようとしたのである。


 本当に家族思いの爺さんなのだと、リア達は感じていた。

 そして兵士が今度はリア達に近づいて、ベルモンドの生い立ちを語り始めたのである。


「ベルモンド様は幼少の頃に母君を亡くされ、父君も厳しく躾けようとはしなかったので、我が侭に育ちました。 ですが心根は凄くお優しい方です、現にウミナ王女に危険が迫っている事を知った閣下は、妻にする事で刺客の矛先を王女から自分に向けさせようとしていたのです」


(あれ? それだとウミナの言っていた事と、話が違ってくるぞ)


 カイは兵士からさらに詳しく話を聞くことにした。


「ちょっと良いか? 俺達がウミナから聞いた話だと、ベルモンドの奴が王位を継ぐ為に彼女の命を狙っていたんじゃないのか!?」


「ウミナ王女の失踪の時の件ですね、しかしそれは間違いです。 閣下は刺客を放ったりなどしていません、閣下に罪を被せようとしている者の仕業です」


「お前は誰が犯人なのか、見当が付いているというのか?」


 カイからの問いかけに兵士は答えるべきか迷ったが、ベルモンドの身の潔白を証明する為に重い口を開いて答える。


「ウッドカット。 王女の姉君が嫁がれた先になります」


 兵士から出た国の名に、ウミナは驚きを隠せなかった。




 ウッドカット帝国、カイが転移してリア達が転生したこの世界において大陸有数の武力を持つ国家である。

 その武力で他国を威圧し、自国に有利な条件で交渉し利益を独占していた。

 その帝国の后として第一王女のアルミナが嫁いでおり、両国は周辺の国から見て良好な関係を築き上げている。


「帝国は表向きは良好な関係を築きつつ、裏で完全併呑する機会を窺っておりました。 そこで王国を内部から混乱させる為に、ベルモンド様が王位の簒奪を企んでいると嘘の噂を流す一方で、残る王女であるウミナ王女には刺客を放つなどしました」


「そこまで分かっていながら、なぜ国王に話さなかったんだ? きちんと話していれば、ここまで騒ぎを大きくすることも無かったんじゃないのか?」


 その疑問に対する答えは、いたってシンプルだった。


「何しろ閣下は、ウミナ王女を本気で妻にされたいと考えておりますから。 お誕生の時から今日までの絵姿を、絵師に描かせて寝室に飾っております」


 兵士の言葉を聞いて、ウミナはうわぁっ……という複雑な表情を浮かべている。

 いったい何時、自身の絵姿を描かせていたというのか?

 16年近くも気付かせずにいたのだから、立派なストーカーの素質が有りそうだ。


「王女が刺客に襲われたことを知ったベルモンド様は、自責の念から王女暗殺の嫌疑を王の前で晴らそうとはしませんでした。 また絵師に姿絵を描かせていたので、公の場に姿を現したウミナ様が偽者だとすぐに気付いた訳です」


(ベルモンドはウミが偽者だと、最初から気付いていた訳か。 ウミとの婚約を迫ったのも、帝国にまた命を狙われるかもしれないと考えたからかもしれない。 やり方は短絡的だったけどな)


 とりあえずウミナの命を狙った真犯人が分かったので、カイは今後どうしたいかウミナに聞いてみた。


「なあ、ウミナ。 お姉さんが嫁に行った先だけど、お前はどうしたい? ベルモンドは経緯はどうあれ、王城を包囲した件については罰を受けないとならない。 その後でお前が帝国と事を構えるつもりがあるなら、俺達で協力しても良いんだぞ?」


「ありがとう、カイ君。 でもね、その心配は多分杞憂に終わると思う」


「杞憂?」


 ウミナは何故か自分の命を狙ってきた相手に、お灸を据える必要は無いと言う。

 その理由を聞いてみると、想像の斜め上の回答が返ってきた。


「きっと今頃ウッドカットの皇帝は、アルミナ姉様に躾けられている筈なので……」


「皇帝が后に躾けられる?」


 一体帝国で何が行われているのか、カイには予想が付かなかった。




 ウッドカット帝国後宮、その最奥にある后の部屋の中から一組の男女の声が聞こえる。

 しかし部屋の前で立っている筈の近衛の姿は無く、中の男の声もどこか苦しそうだ。


「まったく……私の可愛いウミナちゃんの命を狙おうだなんて、本当に躾けのなってない悪い犬ね」


 パシッ! 何か乾いた音が部屋の中から響く。


「ま、待ってくれ。 これには深い訳が!」


「お黙りなさい! 2度と王国に手を出さないように、今日は徹底的に躾け直してあげるから覚悟なさい。 近衛には離れた場所で待機してもらっているから、声を聞かれる心配も無い。 だから……佳い声で鳴きなさい、この犬が!」


 パシーン、パシーン……! 乾いた音が部屋の中で、繰り返し鳴り響いた。

 皇帝と思われる男は最初苦痛から悲鳴を上げていたが、その声が徐々に変わり始める。


「な~に、そのはしたない姿は? まだ躾が足りないみたいね」


「……はい、この愚かな私に罰をお与えください。 女王様」


 皇帝の返答を聞いた后は愉悦に浸りながら、望み通り罰を与えた。


「ほら、これが欲しいの? そうよね、これが欲しくてわざわざ妹のウミナにちょっかいを出したのよね!?」


「はい、そうです! 飼い主であるあなた様の手を煩わせた、悪い犬を厳しく躾け直してください!」


「そうね。 ならば王国から入ってくる品物への関税を、引き下げるところから始めるとしましょう。 言うことを聞く良い仔のわんちゃんには、ご褒美をあげるわよ」


 ご褒美の言葉に、皇帝は目を輝かせる。


「なんなりとお申し付けください! 私は、あなた様に仕える忠実なペットです」


「うふふ可愛いわんちゃんね、でもこの事は他の人には内緒よ。 誰かに話したら、道端に捨てるわよ」


 ウミナの予想通り、帝国はいつの間にか裏で支配者が変わっていた……。

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