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異世界の女神システィナ

「どうですか? システィナ様」


「まあまあね。 美の象徴たる私に相応しい服装とは呼べないけど、今回は仕方ないわ。 我慢して着てあげる」


 システィナの傲岸不遜な態度に、ベルモンドは怒りがこみ上げてきた。

 着る服を出すように言われて差し出した物は、亡き母が若かりし頃好んで着ていた服である。

 それを我慢して着てやると言われれば、怒らない方が無理だ。


 しかし召喚された者を送り返す方法が分からない今、じっと耐えるしかない。

 するとシスティナは遠い丘の上に居る、リア達一行を指差した。


「もしかして私を召喚したのは、あれが原因? 変な連中がこちらの様子を、遠目で見ているようだけど」


 システィナは遠目という言い方で、遠視で見られている事をデモンに気付かせる。


「ところであなたは悪魔の部類に入ると思うのだけど、何故人間に加担するの?」


「加担したのではない! やむをえない事情というものがあってだな……」


 上司から戻ってくるなと言われたと、デモンに言える筈が無かった。


「ふうん、まあいいわ。 あなたはこの男よりも有能そうだから、新しい国の宰相に任命してあげる。 精々私のために働きなさい」


「新しい国とは一体どちらで建国されたのですか?」


「ここに決まっているじゃない。 今日からこの地は女神システィナが治める、神の国に生まれ変わるのよ」


『ちょっとお待ち下さい!』


 ベルモンドとデモンが同時に叫ぶ。

 召喚した直後に呼んだ女神に国を奪われては本末転倒だ、残される領民に何をするかも分かったものではない。


「宰相はあなたに任命するから、国の統治は全て任せるわ。 そしてあなたは近衛騎士団の団長に任命するわ、私を守る騎士として相応しい戦姫ワルキューレを揃えなさい」

 戦姫ワルキューレが何か分からないベルモンドは、システィナに聞いてみた。


「戦姫とは一体何なのですか?」


「戦姫も分からないの? 戦姫とは、聡明で美しくそして強い乙女達のことよ。 純粋で無垢な少女が最も理想的ね」


(そんな奴が居る訳ないだろ! 女は所詮、男の隣で着飾っていれば良いだけの存在。 母上も父上の隣で、その美貌を見せびらかしていただけだった。 なのに教養を持った上に、武術もたしなむ美しい少女を見つけてこい? 馬鹿馬鹿しい、付き合い切れんわ)


 ベルモンドはシスティナに背を向けると、その場から離れようとする。

 それを見たシスティナの目が、冷たい眼差しへと変わった。


「どうしたのかしら? 私の命令には従えないとでも言うの?」


「当たり前だ! 何故召喚した我が輩が、貴様如きの指図を受けねばならぬ!?」


「この私を貴様呼ばわりとは……。 どうやら他の者達への見せしめになりたいようね」


 システィナがベルモンドを指差すと、その指先に光が集まり始める。


「私を侮った罰よ、後悔しながら地獄へ堕ちなさい!」


 ベルモンドはとっさに腕を交差させて防ごうとする、デモンも慌ててシスティナを止めに入ろうとしたが間に合いそうも無い。

 指先の光が放たれようとした時、システィナの頭上に突如金ダライが現れた!




 グワンッ! ガラガラガラ……。


『…………』


 頭に手を当てて痛みに耐えるシスティナ、それを呆然と眺めているベルモンド達。

 遠くから様子を見ていたリア達も、何が起きたのか理解出来ない。


「痛たたたた……。 違うのよ、私がしたかったのはコレじゃないの! 私はこの愚かな男を、血祭りに上げようと!」


 システィナは次に天を指差す、すると周囲の空に積乱雲が集まり始めゴロゴロと雷の音が響き渡る。


「今度は失敗させないわ、雷に打たれてこの世から消え去りなさい!」


 グワォン!


「ぶべっ!」


 ガランガランガラン………。

 今度は先程よりも、一回り大きな金ダライが落ちてきた。

 そして地面に倒れたシスティナに、雷が直撃する。


 ズドォオ~ン!


「うぎゃぁああああ!?」


 再び土煙が上がり、システィナの姿を覆い隠す。

 煙が晴れるとシスティナの金色に輝いていた長い髪が、無惨なこげ茶色のアフロヘアーに変わり果てていた。


「……こんなことで諦めてなるものですか、私はこの男を裁くのよ」


「お待ちください、システィナ様。 少し冷静に!」


 ベルモンドに近づこうとするシスティナ落ち着かせようと、デモンは手を伸ばして動きを止めようと試みる。

 するとデモンの右手にどこからかパイが現れ、システィナの横顔にヒットした。


 ベシャッ。


『…………』


 これまでの一連の出来事を見て、流石の彼らも何が起きているのか理解する。

 この女神は力を使おうとしたり、悪意を持って人に接しようとすると何者かの手により邪魔が入るのだ。

 それも嫌がらせに近い低俗なやり方で……。


「システィナとやら、もうそれくらいにしておけ。 これ以上は、見ている我らも申し訳なく思えてくる」


「今日はもう諦めて、ベルモンド様の屋敷に戻りましょう。 すぐに新しい着替えを用意させますので」


「そう、なら今日は殺すのを止めておいてあげる。 でも次に私の命令に逆らうのなら、容赦なくその命を奪うわよ!」


 捨て台詞を残して、その場から立ち去ろうとするシスティナ。

 威張りながら歩き出したので、足元に落ちているバナナの皮に気付くのが遅れる。


 ズルッ! ドテン!


『…………』


 システィナ達3人が屋敷へと引き返していくのを見ながら、残されたベルモンドの兵達とリアの一行は同じ事を考えていた。


(このあと、自分達は何をしていれば良いの?)


 最早、戦う空気では無い。

 仕方ないので蚊帳の外に置かれていた生け贄の爺さんの家族も交え、全員で余っていたヨル重を食べながら親睦を深めることにしたのである……。

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