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運命の再会?

『セントウッド侯爵家の令嬢は、聡明で美しい』


 ホーリーウッド王国内の、ほぼ全員が知る事実である。

 6歳のお披露目の時から既に、礼儀作法を全てマスターしており語学にも精通。

 また領内における財政面の建て直しでもその手腕を発揮し、希代の才女としてその名を轟かせていた。


 しかし当の本人である、リーアベルト・セントウッドはというと……。


「ああ、もういいかげんにして!」


 机の上に山積みされた縁談を申し込む手紙を、床にばら撒いていた。


「リア様、そう面倒臭がらずに1度読んでみるのは如何ですか?」


 そう言うのは、幼少の頃から仕えているメイドのアニス。

 こうして対等な会話も出来る、大切な友人の1人でもある。


「アニス、何度も言っているけれど私はこの歳で結婚するつもりは無いの。 それよりもこの手紙の山の半分以上は、あなた宛じゃないの!」


 床に散らばる手紙の大半は、リアを通じてアニスに結婚を申し込む物なのだ。

 実は冒頭の部分には続きがあり、その続きの部分は


『しかし傍で仕えている侍女のアニスには遠く及ばない』


 それが余計にリアを苛立たせているのだ。

 幼い頃から傍で仕え、両親にも言えない秘密を言える数少ない相手。

 これまでもそしてこれからも、ずっと一緒に居てくれるとリアは考えていた。


「私は旦那様と奥方様に深い恩義があります、それを返し終えるまではここを離れる事はありません。 安心して下さい、リア様」


 アニスから返ってきた答えを聞いて一安心するリアだったが、その彼女はもちろん両親にも伝えていない重大な秘密をリアは抱えていた。


(この事が周囲に知られてしまえば、私はここには居られなくなる。 アニスにも、危害が及ぶかもしれない。 誰にも気付かれないようにしないと)


 そして実はアニスにも、リアや侯爵夫妻に伝えていない秘密がある。


(あとどれ位このお屋敷で働けるか分からないけど、侯爵夫妻やリア様に何か危害を加えようとする者は許しません)


 リアの顔が曇っているのに気付いたアニスは、自分の考え事が原因だと勘違いして機嫌を戻そうと話題を変える事にした。


「そうだリア様、明日は久しぶりに街へでも出かけませんか? 旦那様には、適当な理由を伝えておきますので」


「そうね、そうしましょう。 屋敷に篭もってばかりでは気が滅入るわ、たまには2人で街を歩くのも良いでしょう。 私の新しい服を、一緒に探して頂戴」


 その日の内に外出の許可を貰うと、夜が更けるまで2人は翌日着ていく服装の話に花を咲かせていた……。




 翌日リアとアニスを乗せた馬車は、屋敷から少し離れた街テラネスへと向かった。

 侯爵領で最も大きな街でもあるテラネスは、近隣の諸侯の領内よりも遥かに大きな商業都市へと発達している。

 これにはリアが街に持ち込まれる品に掛かる関税を免除した事で、地域の商業拠点となった経緯もあった。


「相変わらず賑やかね、この街も」


「そうですね、リア様が旦那様に関税の免除を願い出た結果です」


 街の中は露天で溢れ、露天商達の顔も明るい。

 活気に満ちた市場では、威勢の良い掛け声も聞こえている。


「そういえば、例の奴隷市が今日だったわよね? アニス」


「もしかしてリア様が今日街に出たのは、あの一件が気になっていたのですか?」


 数日前、ここテラミスで1人の男が衛兵に捕らえられた。

 罪状は、侯爵家の末席に連なる男爵家の次男に対する暴行容疑。


 しかし実際はその男に落ち度は全く無く、男爵家の次男が見ず知らずの娘を半ば強引に連れ去ろうとした所を男に止められ、逆上して殴りかかったら返り討ちにあった。

 それが事件の真相である。


「まったく! 最近の傍流は、貴族としての振る舞いを理解していないのかしら?」


「そんな怒った顔を見せていると、折角の出会いが失われてしまいますよ? ほら周囲の男性達の視線が、リア様に向いていますよ」


「それ本気で言っているの? 周囲の視線は私ではなくて、あなたのその異様に大きな胸に注がれてるのよ」


 リアからの指摘を受けて、アニスは顔を真っ赤にしながら胸元を隠した。

 すると周囲の男達は、一様に残念そうな顔を浮かべる。


「ほら御覧なさい。 折角だからアニス、周囲の殿方の期待に答えてあげるのはどう? きっと喜ばれるわよ」


「結構です!」


 早歩きを始めるアニスを追いかけながら、リアは自分の胸に手を当てた。


(なんで私の胸はこんなに小さいのよ! 前世の時はまるでメロンの様な私の胸に、男達は釘付けだったのに……)


 それでもきっと今のアニスを見れば、劣等感に苛まれていたとリアは思う。

 何故ならアニスの胸の大きさは、メロンを上回るスイカなのだから……。




 この世界において奴隷とは、賃金を支払わない代わりに衣食住を保障する労働者のことを指す。

 農業に従事する農奴の他にも、鍛冶や細工など工業に従事する工奴や、メイドや執事として働く侍従奴隷が存在する。

 アニスも表向きは侍従奴隷だが、裏では侯爵夫妻から給金が別に支払われており、他の者とは待遇が別格となっていた。


 先程話していた罪を被せられた男が今回の市で売られるという話を聞いたリアは、何としてでも買い取り自由の身にしようと考えている。

 その為に、貯めておいた小遣いの全てを持ってきているのだ。


 奴隷市は、街外れの薄汚い小屋で行われていた。

 市の中に入るとボロ切れを一枚だけ着せられた男女が並んでおり、気に入った者が居た場合その出品者と価格の交渉をする決まりだ。


「さすがはお父様ね、私の行動を見抜いているなんて」


「私も侍従長に声を掛けられた時は、口から心臓が飛び出るかと思いました」


 リアが何をするのか予想していた侯爵が、侍従長に命じて先に男を解放していた。

 用件が済んだので足早にこの場を立ち去ろうとした時、リアは足元で座る男と偶然目が合うと強い衝撃を覚える。


(こ、こいつは!?)


 リアが急に立ち止まったので、アニスは不思議に思い声をかけた。


「リア様、如何なさいましたか?」


「アニス、この男を買う事にしたわ。 すまないけど、出品者を呼んできて頂戴」


 これまでどんな貴族の嫡男にもなびかなかったリアが、一目見て気に入るとは!?

 嵐の予感を感じつつも、アニスは言われた通り出品者を見つけて戻ってきた。


「はじめまして、この男はあなたの持ち物で間違いないのね?」


「ああ、そうだ。 こいつが欲しいのか?」


「ええ、そうよ。 一体いくらかしら?」


 身に付けている服装から高貴な身分だと判断した出品主は、相場よりも遥かに高い値をリアに持ちかける。


「そうだな……金貨50枚でどうだ?」


「金貨50枚ですって!? 相場の倍以上じゃない!」


 アニスは思わず口を出してしまう、奴隷は金貨20枚が相場。

 金貨50枚は交渉次第で、3人買える金額なのだ。

 しかし、リアの口から出た言葉は2人も予想しないものだった。




「金貨100枚」


「はぁ?」


「金貨を100枚支払います、今すぐその男を私の馬車に乗せなさい」


 外に向けて歩き出したリアに、アニスは慌てて駆け寄るとその手を掴む。


「お、お待ち下さい! このまま屋敷に連れて帰るおつもりですか!?」


「そうよ、あなたも急いで頂戴」


 そう答えるリアの顔は、いつになく上機嫌だ。


(ああっ……。 あとで私も旦那様に叱られるのは、間違いないわ)


 心の中で嘆きながら、リアとアニスは奴隷市を後にした……。


 帰りの馬車の中は、男の汗と身体の臭いで息も出来ないほどだった。

 金貨100枚を手渡された出品主が、男に水浴びをさせようとしたが


「必要ないわ、私の屋敷で身体は洗わせます」


 っと、本当にボロ切れ一枚の状態で馬車に乗せて連れ帰るリア。

 何故ここまでするのか、理解に苦しむ。


 アニスが鼻をおさえていると、それまで無言だった男が口を開いた。


「俺を……これからどうするつもりだ?」


「私の屋敷に連れて帰るのよ、あなたは今日から私の奴隷。 これからはずっと、私の為だけに働くの」


 どうやらこの男を侍従奴隷にするつもりだと、アニスもようやく理解する。

 しかし有能な侍従奴隷が屋敷にも大勢居るのに、新しく加えようとする理由が今の時点では分からなかった。




 屋敷に戻るとアニスは早速男を奴隷用の風呂場へ連れて行こうとしたが、その行く手をリアに遮られてしまう。


「アニス、風呂場に行く前に少しだけ彼と2人きりでお話させて頂戴」


 主からの頼みを断る訳にもゆかず、アニスは渋々了承した。

 自室に招き入れると、リアはアニスに退室を命じる。

 内側から鍵を掛け男の前に近づくと、リアの顔が突如一変した!


「本当に惨めな格好じゃのう、カイよ。 わらわを討った勇者とは、到底思えぬわ」


「何故、俺の名前を? もしかして……お前は!?」


 カイと呼ばれて驚く男に、リアは今まで誰にも教えてこなかった秘密を口にする。


「そうじゃ、リアベルじゃ。 お主に討たれて死んだ魔王は、こうしてこちらの世界で人として生まれ変わっていたという訳じゃ!」


 セントウッド侯爵家の令嬢リーアベルトが隠していた秘密、それは前世で勇者カイの手で討たれた筈の魔王リアベルが、記憶を持ったまま転生していたという事実だった!

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