突如目を覚ませば美少女が目の前で心配してくれるのは水飴のように甘く優しい世界だけの第七話
意識が覚醒する。
印象は、暗い。ただそれだけである。地面は硬く、空気は密閉空間のようにべたついている。
身ぐるみは剥がされていないようだ。まぁ焦げた服なんぞ持っていても仕方がないであろう。
手足は縄で縛られている。
ブチッ
「あっ」
訂正、縛られていた。縄は無惨に引きちぎられている。荒縄は本来非常にちぎれにくいはずなのだが、まぁスペック差、という奴である。
「腹が減った」
何日たっているのかは知らないが、とても空腹である。まぁ何も食べていないのだから当たり前といえば当たり前である。
「さて、どうするか」
おそらくどっかの盗賊に拉致されたのだろう、ということはわかる。
「やはり異世界。物騒だなぁ」
実際に被害者になるとよくわかる。まぁ拘束もなにもない状態なのだがな。
周囲を見渡すと、なんか色々な人間が、さっきまでの俺のように手足を拘束され、眠りについている。
「さて、おそらく夜なのだろうが・・・どうするか」
拘束人数は優に10人を越えている。それなりの規模なのだろうから当然夜番もいるだろう。
俺だけ逃げ出してもいいが、そうすると何か釈然としない。罪悪感、と言い換えてもいいかもしれないが、明らかに助けられる状態なのに助けないというのはどうだろうか?
「というか、俺一人で逃げても面白くないよな」
実は快楽主義者だったりする。楽しさはだいたいの事を優先するのだ。
「折角なら全員で脱出するか。寝て起きたらモヌケの殻。相手の顔を見られないのが残念でならんな」
とりあえず脱出の手筈を考える。
・・・・・・・なにも思いつかない。内部構造もなにも把握していないのだから当たり前だろう。
とりあえずほかの奴らを起こすか。
とりあえずすぐ横にいた痩せた男をトントンと静かに起こす。
ついでに攻撃の補正がかかるのは、ある程度のアクション、というか最低限度のエネルギーが必要らしい。まぁ曖昧なのだが。
デコピンはかかるけど手を軽く動かすだけではかからない。ダッシュの練習中に検証した結果である。
「おい、起きろ」
「なんだ・・・疲れてるんだ」
嫌々という様子で起きるやせこけた男。血色は悪く、暗さも相まってなんというか、ホラー映画にでも出てきそうである。
「脱出する気はないか?」
「あぁ・・・?無理だよ」
呆れたように男は言う。
「まず、どうやって脱出するんだ?」
「そりゃもう堂々と」
まるでバカをみるような目でこちらを見つめてくる。
「いいか、お前がどれだけ自信があるのかは知らないが、ここはスキルの恩恵やらが一切かからないんだ。部屋の外もだ。盗賊団を除いてな。いくらお前が強かろうと、この部屋の鉄の扉すら破壊できないんだよ」
丁寧に説明してくれるやせこけた男。
「なら、行けるな」
「は?話を聞いていたか?」
「ああ勿論」
「ならなんで」
「俺は、素手であの鉄の扉を破壊できるからな」
相手はこちらが何もできないと思いこんでいるのだろう。夜番のいる可能性も低くなった。
「あんたは、逃げたいか?」
男は沈黙する。
そして、首を縦に振った。
サブタイなげぇな。