スペックにものを言わせて強行軍を行ってもその後の状況が著しく不利になる第六話
「やべぇ。眠い」
寝ずに歩いているのだから当たり前である。
「道中に何の刺激もないしな」
ふつうのRPGだったら雑魚敵の数グループでも出てきてよさそうなものだが、一匹たりとも姿を表さないものなのだから拍子抜けである。
まぁ出てきたところで自然災害級の何かで消し飛ばされるだけなのだが。
「走るか」
さすがにこれ以上歩いていると道ばたに倒れてもおかしくはないので、少しでも急ぐのと、眠気覚ましも兼ねて少し走る。
片足を軽く踏み込んだその間瞬間、空中へ400mほど飛び上がる。
400mといったら一般的な高層ビルの数倍である。
「落ちるぅ!!」
重力に引かれているのだからもちろん自由落下を開始する。
落下時の速度はそれなりに速いはずである。曲がりなりにも空中の400mから突き落とされたら人間は潰れたトマトになっているはずである。
しかし、この男のステータスはそうはさせない。
スタッ
周囲の床にひびが入ったが、本人はまるで階段を降りたときのように自然体であった。
「力の入れ方工夫出来るようにならないとこれ日常生活もできないな」
今の具合だと、おそらくペンは軽く握っただけで折れるだろうし、ちょっとクワを振るえば地震が起きるのではないだろうか?
「とりあえず走り方だな」
基本動作からやりなおす。とりあえずまあ走る、という動作からである。
「前進するように、か」
いつも何気なく行っていた行為だが、力の強さが異常ではほんの少し力のバランスを変えただけで結果が著しく変化してしまう。
「ぬおお!?」
前方へ榴弾のように放物線上に飛び出したり。
「グヘッ」
前へ行く力を込めすぎて顔を地面に叩きつけたりした。
~1時間後~
町がおぼろげに見えてきたところだが、こいつは満身創痍であった。
で、肝心のダッシュなのだが、結局出来なかった。
だが、まぁ代わりになりそうな奴を発明?した。
「これぞ、バッタダッシュ!」
なにを格好良くいっているのだろうか?
前方に勢い良く飛び出し、着地した瞬間また同じ動作を繰り返す。
はっきり言ってダサい。
まぁこれでもこいつなりに考えた結果であることを考慮すると一応まぁ許容範囲内ではなかろうか?
「お、町だな」
ここから通常歩きに切り替える。
その瞬間、やけに倦怠感が襲ってきた。
時刻はもう日は昇り始めている。夜中にずっとジャンプを繰り返していたのである。さすがに少しは消耗する。
さらに寝不足も合わさり死にそうなほどの眠気におそわれている。
「あっ」
ここで意識がブラックアウトする。体はまだ大丈夫でも脳はかなり厳しいらしかった。