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「来たぞっ、奴らだ」
C4(プラスチック爆弾)を携行する一人の隊員が他2人も持つ先進型の軽量化小銃である24式5.56mmアサルトカービン銃の銃口を足元に向け、廊下を覗き込む。
「今の音でばれたんだなっ、どんだけ耳がいいんだよあいつら。他の機能は衰えてる癖に」
この分隊の中で唯一の24式7.62mm機関銃(分隊支援火器)を持つ男が二脚※より手前に付いたフォアグリップ※を親指を除いた4本の指で握り込み、悪い状況だと言わんばかりに眉間にシワを寄せ、そう語った。
「タケ、起爆装置!!ナカモンはその機関銃で入ってきたやつらに目にもの見せてやれっ。俺たちはその間に隣の屋上と非常階段をクリアリングする」
「任せろっ」
「了解!ここは俺たちに任せろ。ここまで来たんだ、絶対に全員で生還するぞ」
タケと呼ばれる男は遮蔽物に身を隠しながら廊下側がギリギリ確認できる場所に付き、起爆装置を握りしめた。一方、ナカモンと呼ばれる男は机の上に散乱した資料を押しのけて、機関銃を据え置くと、一つしかない入り口にその銃口を向ける。こうする間にも奴らが出す音がでかくなり、此処にいる全員の耳朶を不気味にくすぐる。奴らはすぐそこまで迫ってきていた。
「先に行け健一、非常階段側は俺が援護してる」
「分かった」
彼らがいるビルよりも低い隣のビルの屋上に飛び移ろうとする健一を援護するため、アズヒロは銃口をすぐに構えられるように上に向けて待機。体を縮めれば出られるほどの窓枠から、マンパック型(背負い式)の広帯域多目的無線機を携帯した健一が隣のビルの屋上に飛び移った。
周囲を警戒し、健一が手信号を送っているのを見ると、アズヒロも移るため、銃口を上に向け、セイフティーモードにしてから体を乗り出す。
「ナカモン、言い忘れてたけどさっきのセリフ死亡フラグだからな、誰かがヘマこいて死ぬパターンのやつだぞ」
そして、移る間際思い出したように口を開くと、冗談混じりの突っ込みを言い残し、アズヒロは隣のビルに飛び移った。
「俺もさっき、言ってからちょっとやべって思っ、うぉっ、びっくりしたぁぁぁ、爆発させるならさせるって言え、タケ」
ナカモンが笑いながら返事をする中、迫ってきた人の形をした獣を確認したタケは起爆装置のスイッチを2回押しこみ、C4を起爆。その急な爆発音と腹の底に伝わる衝撃にナカモンが驚きの声を上げる。
「いや、言おうと思ったんだけど、もう来たからさ……押すしかないじゃん?」
「いやいや、言うくらい押す前にできるだろ。ちょっと、マイクに声出すだけだぞ!?言っとくけど、お前のその、言う前に行動する癖、悪い癖だからな」
「悪い癖とかいうけどお前も対外だって。なんですぐ近くに迫ってきてんのに、アズヒロに余計な事話してんの、それも嫌な予感しかしない死亡フラグ。馬鹿なの?」
タケが窓際に駆け寄ってきて、その言葉を言い放つ。
「はぁ?言うほど死亡フラグじゃないだろ……どう思うアズヒロ、、」
「アズヒロならとっくに飛び移ってるよ。じゃ、俺も先行くから、死ぬなよ」
「意地でも死んでやるかよ。つか、俺が死んだら意味ねぇだろ」
タケはワザとらしく”死ぬなよ”という言葉をゆっくりと言い残し、ささっと隣のビルに飛び移った。
「それ以前にお前ら、無線つけっぱなしだって。何回言ったら分かるんだよ、大事な話以外ならスイッチ(PTTスイッチ)を切ってくれ。声が常に送られてきて、周りの音が聞こえにくい」
「悪いっ」
「ごめん」
二人の会話は切られていなかった送信スイッチによって常に部隊間で共有されていた。アズヒロに指摘されてからようやく二人はスイッチを切った。
解説です。少し長いので時間がある人のみ見てください
『二脚』
文字通り二本の脚で重量を支えるもの。銃に取り付けることで、ハンドガードを持って支えずとも地面に据え置くことができる。二脚が銃の重量を支えてくれるのだ。なお、このように何かに銃の重量を預けて射撃を行うことを”依託射撃”という。
【利点】
1:その特性から射手の負担を大幅に減らし、比較的に楽な姿勢で射撃すること可能
2:射撃の反動が吸収される
【欠点】
1:歩兵が標準的に用いるアサルトライフルやアサルトカービンなどの小銃に取り付け、二脚を折りたたんだ場合、ハンドガードが握りにくくなるため、取り回しやすさが減少する。よってCQB(近接戦闘)にはあまり向かない
『バーティカル・フォアグリップ(フォアグリップ)』
まず、比較的小さい口径の弾丸を用いる拳銃や短機関銃を除いた自動小銃は基本的に両手で持って射撃を行う。引き金を引く方の手で握る場所をピストルグリップ(銃把:じゅうは)と呼び、銃の重量の大半を支えるもう片方の手で持つ、もしくは包み込むように握る場所をハンドガード(被筒)と呼ぶ。このハンドガードを握る手で銃口もとい照準を移動させるのである。
ハンドガードの下部にマウントレールという部品を取り付けることによって、アタッチメント(射撃補助用の部品や副武器)を装備することが可能になる。そのうちの一つが”フォアグリップ”である。形状は円筒状の棒のような形をしており、ハンドガードから垂直に伸びるように取り付けられる。
【利点】
1:フォアグリップを握って銃の重量を支えれば無理に手首を曲げすに済むので、長時間の戦闘の際も手首を痛めにくい。
2:銃口を移動させる際の取り回し易さ(ハンドリング)が向上する。
補足であるが、このハンドリングの向上の背景には射撃姿勢の変遷が関わっているとされる。昔の歩兵の射撃姿勢は体を真横に向けるというものだった。これは相手から見た自分という的の面積を少しでも小さくするためのもので、現代においては競技射撃の姿勢として使われているのみである。なぜならこの射撃姿勢はボディアーマー(防弾チョッキ)の登場で軍事においてはすっかり使わなくなってしまったのだ。
現在においてはボディアーマーの特性を生かせるように、体をなるべく相手に対して正面に向けながらも、ハンドガードを握る方の足を前に出し、グリップを握る方の足が後ろに来るようにしている。剣術、柔術で言う”半身の構え”というやつだ。そして、若干、前傾姿勢になり、脇を締め、ストックを肩に押し付け、頬に付けることで射撃時の反動を腰を中心に上半身で吸収する。
以上のような体を縮みこませるような姿勢を取るゆえに、フォアグリップを付けることで取り回し易さが増すのだそうだ。
【欠点】
1:勢いよく伏せた際や、転倒した際に破損しやすい
2:取り外し出来ないものだと銃の下に他のアタッチメントが付けられない
3:ハンドガードを持つ方の肘を伸ばすようにして握り込むコスタ撃ちなどに比べれば、射界が狭くなるため、左右(特にフォアグリップを握っている側)への素早い照準切り替えをしなければならないときに対応しにくい。
【注意点】
フォアグリップは棒を握り込むときの様に5本の指で握りこむものと思いがちだが、これはあまり推奨されていない。なぜならこの握り方をした状態で転倒した場合、親指に体重と装備の重量がのしかかってしまうからである。故に、親指を除いた4本の指、もしくは親指、人差し指を除いた3本の指で握り込む方法が推奨されている。
4本の指で握る場合、親指はハンドガードの側面に沿わせ、3本の指で握る場合、親指はハンドガードの上部に乗せ、人差し指は側面に沿わせる。特殊部隊ではグリップとハンドガードを握り込むようにして支え、親指を上部に乗せているものが多いとされる。こうすることで反動で跳ねる銃口を制御しやすいらしい。